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Nora
01話
「入るよ」
お母さんには許可を貰った、本人には一応確認をしたけど返事がなかったからできていないままだ。
こちらが早起きをして約束通り、起こしに来たというのにすやすやベッドで寝ているところを見てむかついた。
いまが冬だから尚更、気になってしまうわけだ。
「
「きゃあ!? さ、寒いよぉ……」
「それだけお肉があれば寒くなんかないでしょっ」
「酷いよっ、私だって好きで太っているわけじゃないのにっ」
どうでもいい、起きてくれたのであればそれで十分だ。
「そもそもどうして双子なのに名字まで呼んだの? 喋り方もおかしいし……」
「むかついただけ」
「えぇ、
あまり自由に言わないでほしい、このままだと僕でも爆発をしてしまう。
朝から爆発をしてしまうと疲れてしまうから別れた、お母さん――母が作ってくれたご飯を食べて落ち着かせる。
僕と姉である五月は似ていない、でも、血が繋がっていないわけではないことをちゃんと分かっていた。
「お母さん、今日は部活がお休みでちょっと寄り道をしてくるから遅くなるんだ、だから先に紫月やお父さんとご飯を食べて」
「分かった、一応聞いておくけど紫月ちゃんは?」
「僕はなにもないからすぐに帰ってくる」
そうか、ということは放課後は別行動ということになるのか――ではない、そもそもの話、姉は部に所属をしているからこれも変な言い方だった。
中学生になってからはつまらない毎日となっていた、でも、高校生になって辞めてくれると思ったのにそれも違ったことになる。
はぁ、自分は距離を作っているくせに朝は起こしてほしいなんてわがままだ、早く起きられない理由だって夜遅くまでお友達と電話をしていたりするからだった。
「そっか、じゃあ一緒にご飯を作ろう」
「作る、好き嫌いが多い五月がいるから大変だけど」
「それは紫月でしょ~」
聞こえなかったことにして必要なことを済ませて外に出た。
その瞬間に迎える冷気、学校がなければすぐに引きこもっているところだ。
「待ってよー」
一応、足を止めるとすぐに姉が隣にやって来た、が、なんかにやにやしていて気になる。
「朝練習がある私に合わせてくれているのに素直じゃないね」
「もう知らない、先に行く」
「ふふ、ごめんってば」
「……五月と少しでも一緒にいたいからこうしている」
「うん、分かっているよ」
いや、分かっていない、分かってくれているなら部活が終わった後に優先してくれるはずなのだ。
私が姉に向ける感情の強さと姉がこちらに向ける感情の強さは全く違う。
そのことが面白くなくてそれから学校に着くまで黙っていた、姉の方はお友達と離れる前に「今日もありがとね」と言ってくれたけど信じられなかった。
好き嫌いが多いし、いつまでも内が子どもなのはこちらだ、姉離れをしろと遠回しに誰かから言われているようなものだった。
「おはよう紫月」
「おはよ」
「あれ、ちょっといつもとは違うね」
「朝から複雑な気分」
「ああ、五月が相手をしてくれないからだね」
「でも、部活があるから仕方がない、悪いのは我慢できないこっちだから」
そうして毎日片付けようとしているのに上手くいっていないことになる。
あくまで分かっているつもりでしかない、わがままばかりを言ってしまえば嫌われてしまうのに我慢ができない。
そういうときに奏の存在は大きい、黙っているよりも他者とお喋りができていた方がなんとかなるというものだ。
「我慢をしすぎるのも問題だけどね、相手が家族なら尚更のことだよ」
「僕の場合は全くできていない」
「そんなことはないよ、五月がいつも気にしているのは紫月がいい子だからだよ」
「ほんとに? 僕の目を見て言える?」
「言えるよ、ほら、こっちを見て?」
彼は依然として柔らかい表情のままで「紫月はいい子だよ」と。
「……いつもありがと」
「どういたしまして。あ、ちょっと歩こうよ」
「うん」
教室内も廊下もあまり変わらない、冬だからどこでも冷える。
でも、戻る気にならないのは受け入れたことといつも彼が付き合ってくれるからだ。
あとは彼との時間も大切だからというのもある、姉がいないいまだと疑われてしまうかもしれないから言ったりはしないけど。
「早く春になってほしいね」
「暖かい方が好き」
春になったら窓際でゆっくり寝ようと決めている。
間違いなくそうした場合には姉が文句を言ってくるけど黙っていれば横に転んでくれる、自然と一緒にゆったり過ごせるように考えた作戦だった。
「そうだね、それに紫月と五月の誕生日がくるからね」
「早生まれは悪く言われがち」
「ははは、確かにそうだね」
だけど分かっている、姉は妹よりも彼のことが好きなのだと。
そのため、別に窓際ではなくても暖かい場所であればどこでもよかった。
「しーづき、私が来たよー」
「珍しい」
「え、そんなことはないでしょ……って、奏くんは?」
ほら、これが答えだ。
いつも来ているのに僕が珍しいと言った理由は真っすぐにこっちに来たからだった。
「あそこ」
「あーあの子とよくいるよねー」
教室に入ってきたときに分かっているはずなのに敢えて聞くのもおかしい。
隠せていると思っているのだろうか? 双子だからとなんでも知っているというわけではないけど分かっていることも多いのだ。
「気にしている、見たくないなら違うところに行こ」
「いやいや、別に気にならないよ。じゃ、ここに座ろう」
気にならないも嘘だ、その証拠にご飯を食べているとはいえ、黙ったままだから。
テンションが高いときは食事中でもいっぱいお喋りをするのにこれだ、こういうところはこちらの方が勝てているかもしれない。
朝に爆発しそうになっていたとしてもだ、表に出して構ってもらおうとはしないのだ。
「逆に紫月の方が気にしていそうだけどね」
「僕が?」
姉がもぐもぐとご飯を食べて意味のない間を作ったからもやもやした。
「うん、だって私がいないなら奏くんくらいしかお友達がいないでしょ?」
「いや、気にしたことはなかった、だってお友達が多いんだから仕方がない」
「それだよ、仕方がないことだと、言ってもどうにもならないことだと言い聞かせているんじゃないの?」
「違う、そんなことはない」
いつもお世話になっているけど依存しているわけでもない、お友達と楽しそうにお喋りしているのであれば邪魔をするつもりもない。
姉が相手をしてくれないこと以外は別にそこまで拘りはなかった、一人なら一人で授業を受けて帰るだけだ。
母が専業主婦でいられるくらいには稼いでくれている父がいて、家に帰れば大好きな母がいるのだからそういうことになる。
「あれ、いつの間にか五月も来ていたんだね」
「まあねー」
「ごちそうさまでした。ちょっと歩いてくる」
「はーい」
ただ、そう思われていても別に嫌な気分にはならなかった。
お友達といたいと考えるのは普通のことで、姉もからかうようなことはしてきていない。
「待ってよ紫月」
「五月の相手を、おかずが落ちそう」
彼の腕を抱きつつ歩きつつお弁当を食べようとしている姉がいた。
離れたくないということはよく分かるけど、それでも食べながら歩くのは危ないからやめた方がいい。
また、彼も彼で気にしなさすぎだった。
「し、紫月、本当は奏くんと組んで私に意地悪をしようとしていない? 朝だってお肉が云々と自由に言ってくれたもんね、ははは、妹は姉離れかー……」
「違う、構ってほしくてしたわけじゃない、ただ廊下を歩きたかっただけ」
「うーん……紫月っていつもこうだよねー」
僕は僕だから当たり前のことだ。
別に進んで別行動をしたいというわけではないから先に食べさせてから三人で歩くことにした、二人が楽しそうにお喋りをしていても気になったりはしなかった。
これが昔から僕達の形だ、それで優しい姉や彼がたまに気にしてくれるのが常のことだ。
どうしたいと聞いてくれるところが好きだ、そのときに柔らかい表情なのもいい。
無理やり装っているだけなのだとしても僕からは表面しか見えないわけで、怒っていたり悲しそうな顔をしていなければそれでよかった。
だって内側が実際は違ったとしても姉にとっては彼やお友達が、彼にとっても姉やお友達がいてくれるわけだから自滅してしまうことはない。
「――月、紫月ー?」
「うん」
でも、たまにこちらが心配になるぐらいには優先してくれるときがあるのが悩みだった。
嬉しいから他を優先してあげてと言っても説得力がない、だけど少なくとも数時間は気になり続けるから心の底から楽しめないのが問題なのだ。
どうして姉と過ごすのにここまでごちゃごちゃ考えてしまうのかが分からない。
「いやそうじゃなくて、放課後はやっぱり紫月と過ごそうかなーって」
「約束は?」
「それが二人もやっぱり参加できないってことになっちゃってさ、だからやめてどこかに紫月と行こうかなってさ」
「半分ぐらいのつもりでいる」
何故なら母と一緒にご飯を作るという約束をしていたからだ。
そう、偶然でもないけどそうやって重なってしまうから楽しめないのもある。
「えぇ、やめたりしないよー」
「だけどそれぐらいの方がいいのかもね、絶対というわけじゃないからさ」
「うん」
姉が過去にやらかしていて信用ができないというわけではないから勘違いをしないでほしいところだった。
僕に問題がある、これも生き続けている限りは簡単に変わったりはしないことだ。
「だからこそ一緒に過ごせることになったときに嬉しいんだよね」
「奏も参加する?」
「邪魔をしたくないからやめておくよ、また今度個別に時間を貰おうかな」
「分かった、五月の時間をあげる」
「か、勝手に五月の時間をあげないようにね」
そうか、姉にとって彼は大きくても彼にとって姉が大きい存在なのかは分からない。
余計なことを言ったばかりに変なことになってしまったら困るからやめておこう。
そもそも姉の方がしっかりしているのだからその気があれば自分で動く、僕は先程みたいに黙って見ておくぐらいが丁度よかった。
「ほらほら、もっと食べてー」
「そういうことか、やっと分かった。五月はお友達と遊びに行きたかった、でも、行けなくなって寂しいからやけ食いをしている」
それなら付き合おう、あまり食べられないけど一緒にいれば少しぐらいは役に立てるはずだった。
僕だったらそういうときに姉や奏がいてほしいという考えからきているものの、まあそう全てが間違っているということもないだろう。
「え、単純に食べることが好きだからだけど、紫月にも仲間になってもらいたいだけだよ」
「ほんとに?」
「うん、それにちゃんと私が来てこれで信用できるでしょ?」
「五月のことはもうとっくに信用している」
横に移動をして寄りかかる、姉は「甘えん坊だなぁ」と呟きつつも頭を撫でてくれた。
「髪、伸びたね」
「五月の真似」
こういうことも平気でやっていたけどもし重かったら?
「私は適度に切っているからもう紫月の方が長いよ」
「本当はもっと、いや、僕もそろそろ短くしようかな」
「え、もったいないよ」
いまのこれだって僕が朝に変な態度でいたからだ。
姉はそういうところがある、なんとかするために約束があるのにそっちをなしにして来てしまう。
本当のところを知らない僕は複雑な気持ちになりつつもやはり嬉しくて喜んで、はぁ、僕がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったのに……。
「これ美味しい」
「でしょ? 前に友達と来て美味しかったから紫月にも食べてもらいたかったんだ」
中学と違って毎日部活があるのにいつ行っているのだろうかということと、お友達もよく合わせられるなという感想を抱く。
ときどき今日みたいにお休みになるのだとしてもだ、部活がなくなったのであれば休んでおきたいという気持ちになるものではないだろうか?
「今度、お母さんやお父さんとも行こ」
「そうだね、特にお父さんには甘い物でも食べて休んでもらわないとね」
「五月が相手をしてくれたら喜ぶと思う」
「うーん……どうだろう、いまでもお母さん大好き男の子って感じだしね……っと、終わっちゃったね」
お会計を済ませて外へ、店内が暖かった分、その差にひぇっとなった。
お金も厳しいから早歩きになっていた自分、けど、姉的には違ったのかこちらの手を掴んで「もうちょっとゆっくりでお願い」と頼んできたから変えることになった。
分かっている部分もあれば当然、分からない部分もある、どんなことを考えながら姉はここにいるのだろうか。
「五月は学校、楽しい?」
「楽しいよ? 紫月は?」
「微妙、授業も難しいから」
でも、切り替えることについては得意だった。
難しいというところに引っかかって自ら壊してしまうような人間ではない、他者と程度の差はあれ努力だってできる……つもりでいる。
少なくともなんにも努力をしていないのに醜く嫉妬ばかりをする人間ではない、身勝手に羨ましがるようなこともしない。
「はは、上には上があるけど私達にとってはここしか知らないからね、中学と違ってレベルが上がったよね」
「あとは」
これもつもりでいるだけで、本当はお友達とわいわい盛り上がれる子達が羨ましかった。
仕方がなく一人でいるしかない状態で姉や奏が来てくれるよりもお友達がちゃんといるうえで来てくれた方が嬉しい、でも、一度も叶ったことがなかった。
他力本願、誰かがきっといつか来てくれるという考えでいたわけではない、自ら進んで近づいてお友達になってくださいと頼んだ、それで大体は受け入れてくれてお友達になるのに気が付いたら結局、二人以外は側にいないのだ。
ただ、僕と過ごすかどうかは相手の自由、追うに追えなくてずっと変わらずにいる。
「んーあとは?」
「特になかった、五月や奏がいてくれればなんとかなる」
「はは、そっか」
努力云々についてもはっきりと言えないのはこういうところからきている、だって数回頑張っただけでそれきり動いていないからだ。
「ねえ紫月、奏くんのことなんだけどさ」
「奏がどうしたの?」
きた、もっと分かりやすくしてくれればこちらにできることならする。
大切で大好きな姉が動いた結果、幸せになれるのなら一緒にいられる時間がもっと減ったところで問題ない。
「私の想像だけど、あの女の子が好きなんじゃないかなって」
「仲はいいけどどうかは分からない」
えぇ、それなのに姉がこれで困ってしまう。
そういうことが聞きたいわけではないのだ、というか、教室に来たときにその点については聞くことができてしまっているから物足りない感がすごい。
「だから何度も足を運んで観察しているわけですよ、紫月の言う通り、本当のところが分かっていないままなんだけどね。それにあの子、細くて可愛いし、男の子的にはああいう子の方がいいでしょ」
「奏がどういう子を好きになるのかは分からない」
そういう話を聞いたこともない、姉が所謂、恋バナというやつをしようとしても回避しようとするからだ。
「ただね、あの子を選ぶより紫月がいいかな」
「僕?」
何故そうなる……って、姉が奏のことを気に入っているなどという考えもただのこちらの妄想で終わってしまう可能性もあるのか。
「うん、だってその方が近づきやすいじゃん、違う女の子の場合だと変な勘違いをされて敵視されてしまうかもしれないからね」
「あ、確かに」
「うん、そりゃあまあ自分の好きな男の子に異性が近づいていたら心配になるものだから仮にそうなってもその子とか他の子が悪いわけじゃないけどね」
確かにそうだ。
変なことになって奏とお付き合いをすることになったとして、姉や他の女の子が相手のときにデレデレしていたら気になる、むかつくと思う。
相手が大好きな姉だとしてもその関係性ならそういうことになる、でも、できることならそんなことにならないのが一番いい。
だって無駄に邪推をした結果、別れる、嫌われるなんてことになりかねない。
それまでに散々、姉に対してだって自由にしているだろうから姉すらも側から消えて今度こそ本当に一人になりかねないから回避したい。
救いな点は簡単に特別な意味で好きになったりはしないことだった。
証拠はいまの自分、もしチョロい人間だったのであれば奏や姉に特別な好意を抱いて、ぶつけて、そしてとっくの昔に振られていたはずだ。
「恋はよく分からない、経験者の五月が教えてほしい」
「残念だね、私も経験がないのだよ、紫月くん」
「そっか」
矛盾しているけどほっとしている自分がいる。
とりあえずこのなんとも中途半端な自分を変えていきたかった。
自分である限り簡単には変わらないなどと言い訳をしていないで。
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