第六十六話:入学式と帝王達

 青春一日目の入学式。

 厳かな雰囲気から始まった式典だけど……なんと言いますか。

 どうしてこう偉い人の話は長いのだろうか。

 今会場では白髪アイパーとかいうファンキーが過ぎる髪型の学園長が話をしているけど、絶対5分は経過している。

 ちなみにこの学園長もアニメで見たキャラクターだ。出番少ないけど。

 しっかし本当に話が長いな。近くに座っている炎神えんじんの方を見てみると、見事な鼻提灯を作っている。


「では改めまして。皆さん、入学おめでとうございます」

「んが!?」


 あっ、炎神起きた。

 あと学園長の話も終わった。拍手が鳴り響く。

 俺もちゃんと拍手はするけど、やっぱり視線は色々なところに行ってしまうな。

 だって今ここにはアニメのキャラクターがいっぱいいるんだぜ。

 探し当てたいじゃん。

 とりあえず教員の席にはアニメで見た事ある先生を複数見つけた。

 もちろん侍先生こと伊達だて権左衛門ごんざえもん先生もいる。

 というか伊達先生、入学式でも鎧武者の格好なんだ。


「続きまして、新入生代表挨拶です。新入生代表、速水はやみ学人がくと君」

「はい!」


 速水が壇上に上がっていく。

 今年の新入生代表は速水が選ばれた。

 聞いたところによると、筆記と実技両方で好成績を収めた者が、毎年新入生代表になるらしい。

 俺やソラ達も一緒に代表挨拶考えたんだぜ。


 ちなみに速水曰く、実技試験だけなら俺と炎神の方が成績良かったらしい。

 ……悲しいね、一般科目が苦手って。


「桜の花が色づく今日。私達はこの聖徳寺しょうとくじ学園に」


 緊張の様子は無いな。良い事だ。

 じゃあ代表挨拶はカット!

 だって俺はもう何言うか知ってるしー。

 これも長い挨拶だから、聞いてて疲れそうだ。


「……ん?」


 ふと、会場の天井付近に何かの気配感じる。

 視界に入ってきたのは、小さな銀色の竜。

 可愛らしい翼を動かして、俺達新入生を観察しているようであった。

 なんだアレ?


「(召喚器の立体映像……何かのサプライズか? でもなんで今?)」


 というか、あの竜を俺は知っているぞ。

 あれは〈【王子竜おうじりゅう】シルドラ〉、炎神の一番のライバルになる奴が使うエースカードだ。

 そういえば、アニメの入学式のシーンでも彼は出てたな。

 ふと炎神の方を見る。予想通りと言うべきか、炎神もシルドラの姿を視認していようだった。

 だけど……他の生徒は認識していなさそうだな。

 こんなにあからさまに飛んでいるのに、誰も気にしていない。

 どういうことだ?


「以上をもちまして。新入生代表の挨拶とさせていただきます」


 あっ、速水の挨拶が終わった。

 上を飛んでいたシルドラは在校生の席へと降りていく。

 そういえば……彼は中等部からの進学生だったな。


「続きまして、在校生代表による挨拶です。在校生代表、九頭竜くずりゅうルーク君」

「はい」


 名前を呼ばれて壇上に上がったのは、灰色の髪と赤い目が特徴的な少年。

 先程のシルドラは彼のすぐ横を飛んでいる。

 炎神もそれに気付いたのか、食い入るように彼を見ている。


 俺は彼の事もよく知っている。

 九頭竜ルーク。武井ぶい炎神の永遠のライバルとなる男だ。


「新入生の皆さん、この度はご入学おめでとうございます」


 無愛想な感じで挨拶文読み上げるルーク。

 うんうん、そうだったな。アニメの初期はそんな感じだったよな。

 なんだか後方視聴者目線で挨拶を聞いてしまう自分がいる。


 ただまぁ……安心して聞ける挨拶はここまでかな。

 俺は次の挨拶のためにスタンバイしている生徒達を見て、思わずそう考えてしまう。

 待機している生徒は4人。いや、5人か。

 ルーク挨拶も終盤に入っている。もう終わりそうだ。


「以上をもちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます……在校生代表」


 そして……と、ルークは続ける。


六帝りくてい評議会、序列第6位【竜帝りゅうてい】九頭竜ルーク」


 六帝評議会。

 その単語が出た瞬間、会場僅かに騒めいた。

 ただ分からない者には、その意味は全く分からない。

 ちょうど隣に、その一例が居る。


「ツルギくん、ツルギくん」

「どしたソラ?」

「六帝評議会ってなんでしょうか?」

「多分この後説明があると思うけど……簡単に言えば、聖徳寺学園における最強の6人で構成された生徒会だ」

「えっ!? でも今挨拶した人って一年生ですよね」

「それだけ強いってことだろ」


 ソラとこっそり会話をしていると、壇上に4人の生徒上がってきた。

 ルークもそこに並ぶ。

 六帝評議会を知る者は、その並びに戦慄。

 知らない者も、何かを察したように固唾を飲んだ。


 一人の男子生徒が前に出てきて、マイクを持つ。


「新入生の諸君。入学おめでとう。我々六帝評議会は君達を歓迎するよ」


 そう語るのは長い金髪の三年生。

 あぁ……アニメでよく見た顔だよ。


「僕の名はまつり誠司せいじ。六帝評議会序列第1位、二つ名は【政帝せいてい】だ。今から新入生の諸君に、六帝評議会について説明をしようと思う」


 そして始まる六帝評議会の説明。

 とは言っても、俺はもう知ってるんだけどな。


 聖徳寺学園六帝評議会。

 先程ソラに話したように、学園最強の6人によって構成された生徒会のような組織である。

 普通に生徒会らしく学生自治もするのだけど……六帝評議会の凄まじいところはそこじゃない。

 端的に言えば、権力が凄すぎるのだ。

 どれだけ凄いかと言うと、下手すりゃ教師よりも権力がある。

 当然発言権も強いし、学園の予算もある程度は自由にできる。

 六帝評議会が可決すれば、最悪学園長を交代させる事も可能。

 というか六帝評議会に加入した時点で将来が約束されるとまで言われる組織だ。

 うん……ここまで思い返してなんだけど、この組織イカれてないか?

 学生にそんな強権持たせるなよ。


 まぁ、真の問題はそこでは無いんだけどな……


「それではせっかくの場なので、現六帝評議会のメンバーを紹介しよう」


 政帝こと政誠司の言葉で、序列の下から紹介が始まった。

 まずは序列第6位から。


「六帝評議会の歴史の中でも数少ない、高等部一年からの加入者。序列第6位【竜帝】九頭竜ルーク」

「よろしくお願いします」


 うーん、淡白な反応。

 でも前の世界だと、そういう所が女性ファンに受けてたんだよなー。


「次は序列第5位を紹介したいが……生憎と今日は不在なのだ。なので名前だけでも紹介しよう。2年生、序列第5位【裏帝りてい黒崎くろさき勇吾ゆうご


 あぁ、確かサボり癖がすごい帝王だっけ?

 アニメでは少ししか出番なかった印象のキャラだ。

 見てみたかったな。


「続けて序列第4位。彼女の前では如何なる者も動けなくなる。2年生、【氷帝ひょうてい音無おとなしツララ」

「はい」


 綺麗な黒髪ロングに青い目が特徴の女子生徒が、短い挨拶を済ませる。

 うーん、またもや塩挨拶。

 だけどあのキャラクターも知っているぞ。

 基本的に塩対応だけど、心開いた相手にはめっちゃデレるという事もな!

 そして炎神、彼女の事覚えておけよ。

 前の世界でツララ先輩は通称「炎神のオンナ」だったからな!

 原作ヒロインですよ、原作ヒロイン。


「次は序列第3位だが」

「ハイハイハーイ! ボクの出番だねー!」


 うるさい金髪男子が、マイク奪い取る。


「ボクこそオンリーワン! レディ達全員の彼氏! マイネームイズ!」

「彼は【暴帝ぼうてい】のワン牙丸きばまるだ」

「オイオイオーイ! 誠司、美味しいところを持って行くなよー!」


 ハイテンションの3年生、王牙丸。

 一見馬鹿っぽい振る舞いしているが、その本性は二つ名に恥じないものである。

 あんな馬鹿な見た目で、中身は獰猛な獣だからな。

 あんな馬鹿な見た目でな!


「次は序列第2位。なぎ、前へ」

「はい誠司様。ご紹介に預かりました、六帝評議会序列第2位【嵐帝らんてい】。私の名前は風祭かざまつり凪と申します」


 黒髪ショートボブの3年生が普通の挨拶をしている。

 うん普通の挨拶だ。心が癒されるね。

 でも俺は知っているぞ、あの先輩は政誠司にしか興味がない忠犬である事を。

 むしろ主人以外の男が近寄ろうものなら、露骨に嫌な顔をするタイプだ。

 前の世界ではエロい同人誌をたくさん見つけたよ。

 まぁ……彼女には彼女なりの事情もあるんだけどね。


 さぁ問題はこいつだ。


「では最後に改めて自己紹介をさせてもらおう。現六帝評議会序列第1位、【政帝】政誠司だ。君達の王でもある。よろしく頼むよ」


 六帝評議会序列第1位。すなわち現聖徳寺学園にて最強の男。

 政誠司……いや違う。


「(高一編の、黒幕さん)」


 これから起こるであろう事件の黒幕。

 俺は今、それのすぐ近くにいるのだ。

 甘く見ないでくれよ。あのウイルス事件が発生するのであれば、俺は躊躇う事なく本気を出すつもりだ。

 それこそ……主人公である炎神を魔改造してでもな。


 六帝評議会の挨拶が終わり、入学式は幕を閉じた。

 同時に俺は、戦いに身を投じる覚悟も決めた。


 それはそれとして……あのシルドラってなんだったんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る