第8話 突撃! 近所のまずいカフェ!
ここが喫茶【オービアス】······出てくる品全てが悪魔でも食べないと言われる程に不味く、接客態度がゴキブリと相対した時のおばはんと同レベルと言われているこの店······
現にこの国に存在するほぼ全ての飲食店の口コミ評価が載っているサイト【イートブログ】では開店して10年間不動の最下位評価! 星0.0を獲得し続けている!
しかぁし! そんなクソ評価店ほど燃えるのがこの私!!
私はこれまで
その中には評価が低いだけで有名料亭に匹敵するレベルの味を持つ店もあったし、そういう店は私が発信することで繁盛するようになった。
つまりこの店も圧倒的美味をその身に宿す眠りし美食であるかもしれないのだ!(あと単純に10年間星0.0の店に行くってだけでも再生数取れるし)
いざ! ヴァルハラへ!
◇◇◇◇
「あ、いらっしゃいませ〜お好きな席へどうぞ〜」
客は私の他にいない······なら遠慮なくカウンターに座らせてもらおう。ここは厨房での仕事ぶりがよく見える。
気になるのは接客をしている青年だ。
イートブログのレビューではかなり汚れの目立つ白衣を着た男と、美人だが一切笑わないメイド服の女性の二人でやっている店だと書いてあったが、新たに雇ったバイトだろうか···?
「あの······あなたの他に従業員は?」
「ああ、今、店長とメイさんは買い出しに、万丈······もう一人のアルバイトは別業務でそれぞれ出かけています。あ、ご注文が決まり次第声をかけてください」
「なら、この店のオススメをお願いします」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
隠し撮りと言うのはあまり良い気はしないが、リアルを視聴者にお届けする為だ。許して欲しい。
聞いていたほど悪い店の様には感じないな。
アルバイトを二人も雇える位には繁盛しているみたいだし、たまたま客のいない時間に来てしまっただけかもしれないな。
「おまたせしました、空牙特製デミオムライスと、こちらも空牙特製ブレンドのコーヒーです! 砂糖とミルクはお好みで入れてください!」
なるほどこれは···! どちらもとても良い香りがする! オムライスにかかっているデミグラスソースは厨房にある大きめの鍋から察するに市販ではなくちゃんと自分で作っている。
そしてオムライスの玉子! 昨今流行りの半熟でふわふわの玉子ではなくチキンライス全体を優しく包み込む昔ながらの薄焼きタイプ!
濃厚なデミグラスソースと合わせるにはふわふわトロトロの半熟玉子だと濃厚になり過ぎるとの判断だろう! 実にブラボー!
味の方は······!? 美味い! 美味すぎる! ケチャップライスのほんのりとした酸味とチキン・コーン・ピーマンといった具が優しく混ざり合い深い味わいを創り出している!
この旨みは······そうか! 彼はそれぞれの具を別々に調理し、適切なタイミングで混ぜると言う手間をかけていたのだ! しかも全ての工程をものの15分程度で終わらせて私に品を出している! 彼は千手観音様なのか!?
そして玉子! 先程は薄焼きと言ったが訂正しよう······これは言うなれば神のバランス焼き玉子だ!
玉子の味をソース、ライスと共に口に入れても感じられる程には厚く! しかしくどくならない程度には薄い!
しかも一点の焦げも見当たらない······黄身と白身もよく混ざっており鮮やかな黄色をしている! これ程の品を作るのに一体どれほどの時間をかけたのか私には想像もつかない!
正に神のバランスでこのオムは創り出されている!
そして最後にこのデミグラスソースッッ! ここまで本格的なソースが食べれるとは思っていなかった!
本場フランスのレストランで出されてもおかしくない深い味。濃厚なのだが不思議と後を引かないサッパリとした旨みと微かに感じる苦味······まさかこれは!
「焦がし醤油······?」
「お客さんよく分かりましたね! 実はこのデミグラスソース、隠し味に焦がし醤油を入れてるんですよ! もっとも焦がしすぎると苦味が強すぎてダメになっちゃうんでバランスが大事なんですけどね」
なるほど醤油か······それが日本人である私にも何処か懐かしさを感じさせる美味の正体······
オービアス···素晴らしいではないか! 何故こんなに良い店が10年も最下位であり続けるのだ?
「――――ただいま戻ったぞ空牙よ! 今日の
なんだ······?ドアが勢いよく開いたと思ったら風圧でコーヒー、オムライスはおろか客席まで吹き飛んだぞ!?
てかなんなんだあの男は! 金髪で「なんで喫茶店でアルバイトしてるんですか? どこぞのなんちゃって格闘技系YourTubeに出た方が良くないですか?」みたいな見た目なのはまだしも、なんかすっごい血まみれなんですけど! 怖いよ誰あれ!?
「万丈! お前血が付いた時は裏から入れって言っただろ!?」
もう一人のバイトの方だったァァァァ!! 空牙さんとのギャップが凄すぎる! 怖い!
「空牙君ただいまぁ〜。いや〜
「店長今お客さん来てるんですよ!? その状況説明的発言後にしてくれませんかね!?」
「空牙様、マスターにも悪気があった訳では無いのです。だから、ゆるしてにゃん。」
「メイさんも! 昨日テレビで見たからって真似するのやめてください!」
店長やっぱりヤバいやつじゃねーか! なんだよ角膜がテトリスになる薬って!
まさか万丈とか言う男はそれと同じような薬を飲んで狂ったのか!?
それはそれとしてメイさんとやらはちょっと可愛いな······無愛想と聞いていたがそんな事ないのか······?
「あ、あのー、じゃあ私、帰りますね。お金、ここ置いときます。ご馳走様でしたぁー!」
「オキャクサァァァン!」
◇◇◇◇
後日、YourTube上で、『味は一級品で女性店員さんの挙動はとても可愛いが、店長がやばい薬を作りそれを飲み狂ったアルバイトがいる店』として動画があがっていた。
お客さんは一切増えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます