【第一章完結】非正規英雄~お金が無くなったので、嫌々命を懸けてバイトのヒーロー始めました~
ちょっと黒い筆箱
【第一章】他称ヒーロー バイト始めました
第1話 バイトでヒーロー始めました~前編~
田舎から上京して来て約一か月……俺はこの世の終わり真っただ中の街を歩いていた……
この世の終わり、それは、上京資金をすべて使い切ってしまい金が無いという事だ! 世界は終わらないが俺の生活が終わってしまう!
いや、別に無理な散財をした訳では無い。はずだ……強いて言うなら入った大学のサークルで週12で飲み会をしている事くらいだろうか。先輩は酒を飲まない(というか飲めない)俺に奢ることはせずきっちりと割り勘で徴収してくる。非情にきっちりしているので、就職先で苦労するのを切に願おう。
って、今は人の不幸を願っている場合じゃないんだよ! さっき家を出るとき大家さんに家賃を払うのが遅れそうだと説明したら、
「家賃が遅れそう? なら家賃つけといてあげるよ。ただし、利子はニハチで増えてくからね。後……このアパートは弥玖咲組のシマだという事を覚えておいた方がいいよ……」
いやぁ家賃をツケといてくれるなんて、良かった良かった!
良かった……良か…………
「全くよかねぇよぉぉぉ!」
「頭おかしいんじゃねぇのあのババア! なんだよニハチの利子って! 蕎麦か! 家賃払わなかったら一年待たずにあの世へお引越しだよ‼」
苛立ちから思い切り電柱を蹴りつけてしまった。 めちゃくちゃつま先が痛い。
俺よ!! ふざけている場合じゃないぞ? 実際問題マジで金を稼がないと生活に支障が出る。
ならばどうすれば良いか、大学生が金を稼ぐ方法は一つしかない‼ バイトをしよう! なるべく高給で日払いのバイトを!
しかしそんなうますぎるバイトの募集が道に転がっているものだろうか?……あったらあったで怪しさ満点なのだが。
「喫茶『オービアス』現在アルバイト募集中でーす! お給料は即日支払い可能! 一バイトどうですかー!」
あった……
いやおかしいだろ‼ なんだよ日雇い喫茶店のアルバイトって! 絶対に何かしらの裏があるに決まってる‼
――――でももし本当に稼げる神バイトだったら? 俺は目の前に転がっている
そんな事ありえないな。夢の都会暮らしを続けるためだ、どんな仕事でもやりぬいてやるぜ。
「すみません。ここでバイトがしたいんですけど」
とりあえず店の前で募集かけてる人に話しかけてみたけどこれでいいのか?言葉使いとかで落とされないか不安だ。
「君、ここで働きたいの? 良かったあ! この街にはいないじゃないかと思って肝を冷やしてた所だったんだよ! さ、早く店に入って面接面接!」
お兄さんに促されて店内に入ったらめちゃくちゃ綺麗なメイド服の店員さんに注文を聞かれたので、とりあえずコーヒーを頼んでおいた。
「じゃあ、これから面接を始めるんだけど、即採用みたいなもんだから、そんなに気を張って答える必要ないよ!」
「はあ……」
さっきのお兄さんがどうやら店長のようだ。
紫がかった髪はぼさぼさで、かなり度の入った眼鏡をかけていて、エプロンではなく白衣を着ている。飲食店の経営者というより、科学者のような風貌だ。
「じゃあまず名前を教えてくれるかな」
「俺……じゃない、僕の名前は
「うんうん、じゃあ空牙君は何か武術の経験とかありますか?」
武術の経験? なんでそんなものがカフェのアルバイトに必要なんだ? 別に無い訳ではではないが……あれを経験と呼んでもいい物なのだろうか……
空牙には剣術道場師範の祖父がいる。遊びと称した稽古を小さい頃によくつけてもらっていた。
「はい、祖父が剣術道場の師範だったので、ある程度は」
「成程。なら空牙君は祖父から継承された
急に何を言い出したんだ
しかしそれで噓がばれたらそれこそ終わりだ。
しばらく固まっていた俺を見て、店長はこう続ける。
「ごめんごめん、聞き方を間違えたかな? じゃあ単刀直入に聞くよ。君の
「すみません、その『まぎあ』ってのは何のことなんですか! 俺はただ、ここでアルバイトがしたくて今面接を受けてるんですけど!」
今度は店長と店員さんが「何言ってんだコイツ……」の顔で固まっている。店員さんに関しては無表情なのでそういう雰囲気を醸し出しているだけなのだが。
「どうすんのよメイちゃん! 僕こんな事態想定してないよ! ちゃんと”アレ” 使ったんだよね?」
「失礼しましたマスター。ワタシもあんなに怪しいバイト勧誘に手を出す輩がいることは想定の範囲外でした」
メイド服の店員さんは、名前をメイと言うらしい。
「でも、あのどうしようもなく怪しいバイトに手を出そうと思えるくらい胆力があるんだ。『プランB』でいこう」
「マスター。流石です。先程まで全く想定していなかった事態にもすぐさま対応なさるとは。」
「小さい声で相談してるつもりでしょうけど、全部聞こえてますからね!」
「ああすまないね、という事で空牙君、君にはここで働き始めたらやってもらいたい事があるんだ」
店長が手を顔の前で組む。その瞬間、空気が一瞬凍り付いたような気がした。
「空牙君、君には……世界を救ってもらいます」
「急に飛躍しすぎやないですかね!?」
店長の言葉を理解できない俺をよそに、店長説明を続ける。
「というのもね、今世界は僕の言葉の通り滅亡に向かっているんだよ」
「世界の滅亡? 急に何を言って――――」
「つい最近、この街に怪物が現れるようになってね、多くの人が亡くなったんだ。世間的には工場の爆発事故で処理されたんだけど、本当は僕とここにいるメイちゃん、そして警察でこの怪物を撃退したんだ。僕たちと警察はこの怪物を未知の意を込めて
確かに、こちらに引っ越してきてすぐの時、工業地帯の工場が爆発炎上した的なニュースを観た気がする。まさかそんな事になっていたとは······
いやいやいや! まんま受け入れるなよ俺!
「
「怪しすぎるバイト募集に釣られて俺が来ちゃったと。それでどうするんですか? 俺はそんな大層な
「流石飲み込みが早くて助かるよ! 確かに、マギアを持たない一般人の君はXと対峙しても為す術無く殺されてしまうだろう。しかし、後天的にマギアの
「かしこまりました。マスター」
そう言うとメイさんは鈍く光っている拳大の白い
「この匣がそうなんですか? てかなんですか?これ」
「これはね、『継承』の力が込められた装備型マギアさ。今は持ち主がいないから匣の状態だけど、君の意思に応じてあらゆる武器に形状を変化させる」
「そして、世界を救う英雄になるんだ。戦闘服も必要だろう? 制服だと思って着てみてくれ」
そう言うと店長は俺に戦闘服一式を手渡してきた。
忍者服の胸や肩に装甲が付いたような見た目は店長の趣味だろうか。
「この対X用戦闘服はね~そんじょそこらの銃火器じゃ傷一つ付かない耐刃・耐火・耐衝撃に優れた僕自慢の発明品なんだよ‼ おまけに着用者の体に合うように自動でサイズを調整してくれる便利機能付きだよ‼」
着てみるとなるほど確かに俺の体にフィットする。かといって締め付けが強い訳でもない。
こんなすごい物を作れる店長は何者なのだろうか。
「――――おっと、簡単な現状説明もここまでだ。Xが出現したようだ。戦闘服は着てるし、後はさっきの『
「ちょっと待ってくださいよ‼ 俺まだやるなんて一言も……!」
「空牙様、もしこの職務をこなしていただけるなら、一体討伐するごとに5万、追加でお支払いさせていただきますよ」
「行ってきます」
え?たった5万ポッチで命を賭けられるのかって? 当たり前だろうついさっきまで俺の命は3万5千円だったんだ。大学生にとって5万は命を賭けるに値する金額なのさ。5万円への期待を胸に、俺はXの出現した場所へと向かった。
◇◇◇◇
「マスター。本当に彼で大丈夫でしょうか。」
「メイちゃん心配性ぉー!······今回は大丈夫さ······空牙君なら、何かしてくれそうな気がするんだ」
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