百談

桜百合

窓の外に (愛知県/18歳/男性)

俺には雨の日の寝る前、ベッドで横になりながら、窓の外に左腕だけを出す趣味があった。

服を着たままシャワーを浴びるような感覚と、腕だけがびしょ濡れになる感覚が好きだった。

その日は土砂降りで、タオルを用意し、濡れては拭き、濡れては拭きを繰り返した。

そして、これが最後と窓の外にやった腕が、暗闇から急に伸びてきた、青白い2本の腕に掴まれた。


「うわぁああああっ!!」


折れそうなほど強い力で手首を握られていて、引き戻そうにもびくともしない。


「ああっ…!ああああっっ!!!」


青白い腕の先、肩から首、そして顔が徐々に顕になった。


子供だった。

見覚えのない子供の表情が、真顔から気味の悪い笑みへと変わり、大口を開け、俺の腕に噛み付いてきた。痛みと恐怖で、俺は気を失った。


目が覚めると、昨晩の雨が嘘のような快晴で、閉めた覚えのない窓から入る朝日に「夢か」と安堵した。

起き上がろうと上体を起こした瞬間、左腕に激痛が走った。

目をやると、そこにはくっきりと手形の痣が残り、歯型の痕が内出血を起こしていた。


その日から俺は、窓の外に腕を出さなくなった。

今でも雨の日には、あの子供の気味の悪い笑顔が脳裏に浮かぶ。

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