第2話 二人と幼子
同性婚をした夫婦が養子を引き取り育てるのは珍しいことではない。アーライル家の親族からという話もあったが、二人は孤児院の子供を養子に迎えることにした。理由はいろいろあるが、グレース王太子妃や王太子妃代行のローズの慰問で、孤児院の子供達に接する機会が増えたことが理由の一つだ。
男二人で乳飲み子を育てるのは難しいだろうとの周囲の意見に納得した。孤児院の子供達の、自分達は友達がいるから大丈夫だ。小さい子のお父さんになってくれというお願いを叶えてやりたいとも思った。物心付いた子供では、友達と引き離すことになる。だが、二人にとって初めての子育てだ。何人も育てることが出来るとは思えない。幼子を一人、引き取って育てようということになった。
シスター達に相談し、幾人か幼子と引き合わせてもらった。結果は無惨なものだった。
幼子達は見事なまでに全員が、アランとヒューバートを見るなり、まるで火がついたかのように泣き叫ぶのだ。シスター達が宥めても、泣き止まない。アランとヒューバートにとってはなんとも悲しいことに、二人が視界の外に消えた途端、幼子はピタリと泣き止む。
シスター達は、アランの体格かヒューバートの長身か、どちらかが怖いのではないかと言った。ならばと一度無理を言って、ヒューバートとほぼ同じ背丈のロバートに同席してもらったことがある。結果は無惨なものだった。
シスターが連れてきた幼子は、ロバートが抱き上げても泣かなかった。ロバートは巧みに幼子をあやした。幼子が上機嫌にはしゃぐようになってから、ロバートは、幼子を同じく長身のヒューバートに渡そうとした。だが、幼子達は短い手足で必死にロバートにしがみつき、離れようとしなかった。アランが近づこうものならば、幼子は泣き叫び、ロバートの胸に顔を押し付け、眼の前からアランを消し去ろうと躍起になった。
アランは、騎士の中でも大柄だ。幼子からは、見たこともない化け物に見えてしまうのかもしれない。化け物に見える自分が、幼子に近づいて、怯えさせて、本当に申し訳ないという気持ちになった。
先祖代々、王族の子守をしていた一族ですから、慣れもあるのでしょうと、ロバートには謝罪された。腕白な少年少女達も協力してくれた。
「アランの兄ちゃんはでかいけど怖くないよ」
「ヒューバートの兄ちゃんも優しいよ」
アランやヒューバートの腰丈程度の子供達でも、立派に幼子をあやす姿に少々落ち込んだりもした。
「もう少し大きな子で、養子になってくれる子を探しても良いかも知れませんね」
「あぁ」
「次に行ったときに、シスター達に相談してみませんか」
幼子には大泣きされるのに、腕白な年齢になると、アランとヒューバートに懐いてくれる。その年令の子供を引き取る話もあった。ただ、多くの子供を引き取ることは出来ない以上、友達と引き離すことになることが、悩みだった。
「そうだな。一緒に育った仲間と引き離すことになるが。それに、私達が引き取るとなると、騎士になることがほぼ決まる。他は逆にどうしてやったらよいのか、見当もつかない。騎士になりたいと言ってくれる子であればよいが」
アランは幼い頃から父の背中を追いかけてきた。他の道など考えたこともない。
「騎士見習いになるまで、少し間があるくらいの年齢が良いですね。引き取ってすぐ、親子でなく騎士と騎士見習いの関係となれば、引き取る意味があるのかどうかわからなくなってしまいます」
「騎士見習いは、普通に屋敷で預かればよいだけだからな」
成人間近で有望な子供達は、本人が希望したら、騎士見習いとしてアーライル家や分家で引き取り教育をしている。騎士と騎士見習いは師弟関係だ。アランとレオンも騎士見習いの間は、父は父でなく師匠だった。
せっかく養子としたのに、すぐに騎士見習いとなってしまっては、今指導している騎士見習い達となにも変わらない。それはそれで寂しい。
「高祖母は、ロバート様の一族の女性だ。私も王家の揺りかごの血を引いているのに」
幼子を抱くロバートの姿に、あのような親になりたいと憧れる気持ちが募る。だが会うたびに、化け物扱いされて本当に悲しい。アランの口からは愚痴が溢れた。
「子供二人を同時に肩車出来るのはあなたくらいです。誰にでも得手不得手はあります」
「慰めか」
「私も同じですから」
化け物同士、慰めあっているようで、なにか虚しい。
今、二人でこうして穏やかな時を過ごせることは幸せだ。それだけで満足すべきかもしれない。それでも、二人だけでなく誰かと暮らしたい。高望みしすぎだという過去の自分からの声に、アランは耳を塞いだ。
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