6話 休日の乱1



 休日の今日、天気予報で猛暑になると言っていたのでバイトは止めてさっちゃんとプールに行く事になった。

 お母さんからお小遣いを少し貰ったし、2人分のプール代金も貰った。

 今日はリフレッシュ日にして、さっちゃんもわたしも完全回復するんだ!


「さっちゃんゴメン!少し遅れちゃった!」

「気にしてないよ。オシャレに集中し過ぎてたんだよね。今日も可愛いよ」

「うん、ゴメンね、ありがとう」


 プールの待ち合わせに少し遅れてしまった。

 さっちゃんの言う通り、服とアクセサリーの組み合わせに納得がいかなくて、時間を忘れて一人ファッションショーをしまった。さっちゃんはきっと約束した時間より前に来てるので、大分待ってしまったと思う。

 ……また迷惑をかけちゃったよね……。でも、笑顔で許してくれる。本当にさっちゃんは優しい。


「それじゃ行こうか、アリアちゃん」

「うん!」


 手を繋いでプールに向かう。

 休日にお出掛けする時はだいたい手を繋いでいる。わたしがすぐに寄り道するから、ペットの首輪? 的な役割で手をつないでもらってる。……ほんとにいつもゴメンね。


「あ、冷えたジュース売ってる。買ってくる!」


 手を引っ張られた。


「アリアちゃん、待て、だよ。会って1分での衝動買いは許さないよ」


 ……待たせちゃったお詫びがしたかっただけなんだけどな……。

 でも、ちょっと顔が膨らんでるので素直に諦める。怒った顔も可愛い。


「あ、ゴメンね。プールまでは我慢するよ」

「プールに着いても駄目だよ。昨日クレアおばさんに会った時、プール代金以外は使わせない様にって言われたから。今日の私は鬼になるよ」


 お母さん! さっちゃんに迷惑かけたら駄目だよ!

 せっかくの休日なのに、わたしのお目付け役なんて可哀想だよ!


「さっちゃん、お母さんの言う事なんて気にしちゃ駄目! 休日は楽しまないと! 鬼に何かなったら駄目だよ!」

「そうだね、アリアちゃんの言う通りだね。それじゃ、半分だけ鬼になるよ」

「半分もダメだよ!」


 そんな問答をしてたらプールに着いた。

 今日のさっちゃんは1/3だけ鬼になる事で話は終わった。

 お姉さんパワーが全開になったので1/3で妥協したのだ。お姉さんパワーが全開のさっちゃんは無敵だ。私が何を言っても絶対に引かない。

 ……いつの間にこんなパワーを身に付けたのかな? わたし達がちっちゃい頃はこんなパワーは無かったのに……。


「アリアちゃん、どうかしたの? 入ろう」

「うん」


 凄い混んでる……。休日でこの猛暑じゃ仕方ないか。


「さっちゃんの水着、かっこ良くて可愛いね。すごい似合っていてモデルさんみたい」


 猫系の獣人はスリムな体型の人が多いらしい。

 さっちゃんは金色の瞳に銀髪ロングヘアーの高身長スレンダー美人さんだ。大人びて見えるので、ビキニとかを着ても違和感がない。今日は白を基調としたビキニで、似合いすぎていてファッションショーのモデルさんみたいだ。


「ありがとう。アリアちゃんも凄く可愛いよ」


 わたしは去年と同じ水着だ。ピンク基調のフリル付きワンピース水着。正直ちょっときつい……。

 新しい水着が欲しかったけどお小遣いがなかった。お母さんにサイズがきついから新しい水着を頼んだけど「自業自得よ」と冷たくあしらわれた。

 来年は絶対に新しい水着を買うと決めている。万が一お小遣いが無くても、サイズが完全に違う筈なのでお母さんに泣き付けば買って貰えると思う。


「それじゃ行こうか、アリアちゃん」

「うん! さっちゃんの華麗な飛び込みが楽しみだよ!」


 このプールはこの都市で一番広い。

 浅いプールから深いプール、流れるプール、ウォータースライダー、飛び込み台、他にも沢山の遊び場所がある。正確にはプールじゃなくて長い正式名称があるらしいけど、長くて呼びづらいのでみんなプールと呼んでる。


「あの飛び込みはすごいよね。空中でくるくる何回も回って。ローリングスクリューダイビングだっけ?」

「違うよ、そんな凄い名前じゃないよ」

「でもすごいよ。あの高さ、わたしは上がることも出来ないもん」

「猫系獣人は高い所も平気だからね」

「いいなー……。今日はさっちゃんの飛び込みと、ウォータースライダーが中心かな?」

「ウォータースライダーは楽しいよね。一杯遊ぼうね」

「うん!」


 ……さっちゃんの飛び込みが超絶進化してたよ。

 去年より明らかに回転数や華麗さが増している。いつの間に練習したんだろう……。

 思わず拍手してしまったけど、監視員さんまで拍手してるしよっぽどだよね。ほんとに凄い。わたしの自慢の親友だ。

 飛び込みを何回か見て楽しんだ後は、ウォータースライダーを何回も一緒に滑った。

 メインを遊び終わったら正午を少し過ぎていたので、プール脇の休憩所で持ってきたお弁当を食べる。

 お母さんが作ってくれたサンドイッチで、さっちゃんの分も含めた2人分ある。

 小休止が終わった後は浅めのプールで泳ぐ練習をした。

 ……わたし、いつまでたっても泳げないんだよね。運動神経はいいのになんでだろう……?

 浮き輪を着けて、さっちゃんに手を引いて貰いながら練習する。


「アリアちゃん、そろそろ帰ろうか」


 気づいたら少し日が落ちていた。


「うん、ちょっと遅くなっちゃったね。帰ろう」


 夕暮れの帰り道、プール代金のお礼と言う事でアイスを奢って貰った。

 ……プール代金はお母さんに貰ったって知ってるのになんでだろう?

 せっかくのさっちゃんの好意、断るのも悪いと思ったので素直におごってもらった。


「プールの後のアイスは美味しいね、さっちゃん」

「そうだね、アリアちゃん」


 そんな時だった。遠くから女の人の悲鳴が聞こえた。


「キャーーー引ったくりよーーー誰かーーー!!」


 ……え、引ったくり? 泥棒?

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