ともだち

ム月 北斗

だいじなもの

 少年には大事なともだちがいた。

 中学生の頃、百円ショップで買った3匹の犬のぬいぐるみ。

 茶色い犬と白い犬、そして黒い犬の小さなぬいぐるみ。

 人付き合いの苦手な少年にとって、大事な、大事なおともだち。

 学校から帰るといつも話しかけていた。

 テストの結果、給食の味、休み時間の些細な事。

 彼らをその手で抱え上げ、一人楽しく語りかけていた。

 少年の両親は特に気に掛けなかった。

 というよりかは、この子はそういう子、そう思っていた。

 心に抱え込むよりはずっとマシ。グレてしまう方が怖い。

 それが少年の両親の答えだった。

 少年は中学の三年間、ずっとおともだちと一緒だった。

 勉強するときは机の上に。計算式が違うとか、英語のスペルが違うとか。おともだちに話してもらいながら勉強していた。

 寝るときは枕の傍に。その日一日を振り返ったり、明日の予定を話して眠りにつく。

 毎日、毎日。そのお陰もあってか、少年はグレたりすることなく真っ直ぐに育った。

 少年は高校生になった。

 家から近い至って普通な市立高校。

 平均的な学力の少年にピッタリな学校だ。

 少年の高校生活の最初の日は、とても華やかな幕開けを迎えた。

 同じクラスの、非常にコミュニケーション能力の高い男の子が、少年に声を掛けてきたのだ。俗に言う陽キャである。

 明るく、積極的な話術にすっかり絆されて、少年にとって初めての『人間の友達』ができた。

 そこからはまるで、連鎖するかのように少年に友達が増えていった。

 少年は嬉しそうに、毎日友達の事を両親に話していた。

 両親もそれを聞いて安心した。

 毎日が楽しい少年は、友達と勉強するようになり、楽しくって寝つきが悪くもなった。

 当然だが少年は、体格的にも成長した。ベッドには若干の狭さを感じてもいた。

 ふと、枕元に犬のぬいぐるみが3つあることに少年は気付いた。

 くたびれた汚い犬のぬいぐるみだ。

 翌朝、それらはゴミに捨てられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ともだち ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ