アラクネ・アライブ ~サブカル地雷系な女子高生がアラクネに転生したら異世界ファッションが完全に毒されてた~
津慈
第1話 学校を毒す
9月末の都内某所の女子高。教室では真面目に勉学に励む生徒の姿が目につく。
現在時刻は14時。昼休み明けの微睡みと戦う真面目な生徒達を尻目に、校舎の屋上には1人フェンスにもたれかかって惚ける少女の姿があった。
手には結露で濡れた午後に飲む事をメーカーに推奨されている甘い紅茶。そして少女の視線の先には澄み渡る青空と宙に浮かぶ1つのクモ。
サッと吹いた秋を感じさせる少しだけ冷たい風がヒラリと少女のスカートを揺らす。その一瞬、僅かに聴こえていた蝉の音が止まり迫る秋の訪れを感じさせた。
「……今年もまた君に会えたね」
成人した大人が見れば思わず目を背けてしまいたくなる様な青春小説の1ページを体現する少女はこの高校で知らぬ者がいない有名人だ。
少女の名前は越前
「女郎蜘蛛のメス。あなたが2代目ジョリーンよ。」
きっと理解出来たと思うが控え目に言ってナクアはかなり痛い変わった子だった。有名人なのも断じて不良とか頭が良いからとかではない。
都会に住む女子なら大抵毛嫌いする蜘蛛を愛する少女。彼女を語る上でまず上げなければならない特徴だ。
少女が着崩した制服の上に羽織っているのは両袖に大量のリアル過ぎる蜘蛛の立体プリントが施された黒いジップパーカー。
スカートは大きめのパーカに隠れて殆ど見えない。顔は非常に整っているが金髪ハーフツインに毒々しい蜘蛛の巣ピアス。
さらに泣き腫らした様な赤い目元に血色の悪い真っ白な肌。
そして学校指定の内履きの下に黒のニーソという地雷女子麻雀大会があったら四暗刻、字一色、四喜和、天和くらい強い雀鬼もビビる組み合わせの容姿。
「ねえジョリーン、やっぱり違う高校にすれば良かったよね。ここの子って皆……ちょっとセンスおかしいし。」
そして何よりこのメンタル。ナクアは自分のセンス、服装やメイクが1番可愛いと信じて疑わない。親や周りの声は一切受け付けない。
そして無駄にスペックが高いがために不思議と周囲を納得させる圧倒的なオーラを纏っていた。そしてまだ少女の攻撃は終わっていない。
「女の子がいっぱいだから女子高選んだけど、真面目な子ってちょっとタイプじゃないんだよね。ジョリーンなら分かるでしょ?確かに皆可愛いし、すごくいい子だけどさ――」
本人は深く考えていないがナクアは男性に興味が無い。服装や性格に目を瞑れば美少女のナクアは当然、男子にモテていた。しかしその全てを断り、結局一度も爆発すること無く地雷系として存在している世にも奇妙な存在。
そんなナクアが1人女郎蜘蛛のジョリーンに自分のタイプの女の子について語っていると校舎に繋がるドアが高い音を上げて開いた。
「やっぱりここだ。ちょっとエツキン! サボったらダメでしょ!」
「あっ山本さん、ごめんごめん」
「もう!目を離すとすぐコレなんだから!放課後は一緒に帰る約束忘れてないでしょーね!」
「はいはい。今行くよ。」
そして実は現在、水面下で少し拗らせ気味の女子達にナクアはモテ始めている。その我が道を行く独特なスタイルが1年かけて真面目な女の子を徐々に蝕み、成績や容姿のギャップも手伝ってさながら獲物をゆっくり内側から溶かす蜘蛛の様に毒牙にかけていた。
「じゃあね、ジョリーン。」
それこそが越前 奈來亜。学内で閲覧禁止、略してエツキンと呼ばれている問題児。本人は越前の越から派生したあだ名と勘違いしている残念な子。
『……』
そして、そんな校舎に向かうナクアの背中を秋風に揺れる女郎蜘蛛の8つある黒い目がジッと静かに観察していた。
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