胆嚢

彼には内臓がないから

僕が彼の内臓の吹き替えをやった

彼は物書きだが

人前に出て話すのも彼の仕事だ

彼の内臓がないことを僕のほかには誰も知らない

それにもかかわらず彼は人知れず苦しんでいた

新しく建った大きな建物の向こうで

虹色の糞便を垂れ流しながら


信号に乗って

拡散する彼の言葉

彼の想像の胆嚢が饒舌に語り掛けるとき

ロマンティックな花びらがそよ風に舞った


彼だけに可能な排泄と夢に充ちた

栄光と名声の便器が実存する

それを証明するのが僕の仕事だ

もうずいぶん以前に

僕は摘出された彼の内臓に付箋をつけたのだ

字幕ではなく

吹き替えによって

彼の内臓の苦痛に充ちた独白が可能となる

それは

僕が彼の快楽に恋していることとは別のことだ

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