観覧車

 デート・ボランティアの川村さんとデートしたとき僕はとても川村さんの目や鼻や唇や足にキスがしたくなりその許可を得るために川村さんの足元に跪こうかと思ったけどそこは遊園地の真ん中で日曜日だったし人が大勢いてそんなことをすると川村さんが困ってしまうだろうと思ってやめて代わりに僕の肩までしかないくらいの小さな川村さんの手をそっと取り川村さんがそれを嫌がっていないのを確かめてから観覧車の方へ歩いてゆき乗車を待つ人の列の最後尾についてあまり面白くない冗談を川村さんに向かってまくしたてたら川村さんは僕に気を使ってくれたのかもしれないけれど可愛らしい顔をほころばせてニコニコしながら僕の話に相槌を打ってくれて僕はとてもうれしかったので時間がとても速く過ぎてゆき観覧車の順番があっという間にやってきて僕と川村さんは小さなゴンドラのなかに乗り込んで二人きりになったから急に川村さんのことがいとおしくてたまらなくなって僕はまた無性に川村さんにキスがしたくなったけどそんなことをして今度は川村さんにセクハラなんて思われたら僕の胸は哀しみに押しつぶされてしまうに違いないからようやっとのことで思いとどまり川村さんとぴったり身体をくっつけてゴンドラのなかの狭い椅子に並んで腰かけ折りしも夕暮れ時の真っ赤な太陽に見とれていると僕の胸はドキドキドキドキ川村さんに対する思いでどんどんどんどん膨らんでゆきこれがボランティア・デートじゃあなくって本当のデートだったらなんて考えたけど川村さんのような小さくて可愛らしい美人が僕みたいなボンクラと本当のデートをしてくれる訳もないからそんなことは考えるだけ無駄だしそんなことよりも今この時をできるだけ楽しもうと考えて僕が川村さんの手をもう一度強く握りしめると川村さんも僕の手を握り返してくれたので僕はもう川村さんの優しさを感じて有頂天になったけどもうそれ以上のことは僕には出来なくていとおしい川村さんをこの腕のなかに抱きしめたかったけどやっぱり僕にはそんなことは出来ないからそう思うと僕は切なくて切なくてこんなにも川村さんのそばにいるのに哀しみに胸が絞めつけられてゆくのを感じるのだった。川村さんのような美人のこんなにもそばにいるのに僕はどうしてこんなにもボンクラなのだろうと考えると哀しくて哀しくて僕はどうしようにもやりきれなくなってくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る