第6話  急な誘い

 

 「え? いいんですか?」

 私は、思わず、飛びつくように言った。



 放課後、お母さんとの待ち合わせのために、いそいそと帰りじたくをする想太を横目で見ながら、私も、カバンに荷物をつめこんでいた。

(今日は、帰りは、1人だな……)

 そう思うと、なんだかテンションが上がらない。そのとき、想太が言った。

「途中まで、一緒に帰る?」

「え? いいの?」

「うん。途中まで、道同じやし」

「かっ、かえる! 一緒に」

 思わず、飛びつくように言ってしまう。あわてて、周りを見回すと、ナナセもミヤちゃんもサトミちゃんもいない。よかった……。ほっと息を吐く。

そういえば、放課後、美化委員会の作業があると言ってたっけ。


 校門を出て、並んで歩きながら、想太が言う。

「なあなあ。みなみ。オレな、今ちょっと迷ってることあるねんけど、今度相談していい?」

「え? 相談? 私で答えられるかな?」

「だいじょぶだいじょぶ。みなみなら、きっと。今日は無理やから、また、今度きいてな」


 想太は、軽く笑いながら言ったけど、相談って何だ? 気になるけど、それきり、想太は、その件について話そうとする気配はない。軽く鼻歌なんて歌いながら、隣を歩いている。

 前から歩いてきた、制服姿の女子中学生たちが、ヒジでつつき合いながら、想太をチラチラ見て通り過ぎていく。すれ違うとき、(めっちゃ可愛いね~あのこ)とか言ってる声が聞こえる。


 しばらく行くと、想太が、鼻歌を止めて言った。

 「なあなあ、みなみ。この歌の題名はな~んだ?」

 「え? ちゃんと聞いてなかった」

 「なんや。聞いてへんかったん? じゃ、もう一回な」

 想太が、鼻歌のボリュームを少し上げる。

  ♪ふ~ん、ふ~ん、ふんふふふんふん、ふ~んふ~んふ~ん。

 「え~と、え~と。あれ、ほら、オーバー・ザ・レインボー」

 「あたり~。じゃあ、次は、これな」

 ふたたび、想太の鼻歌が始まる。


 5曲目を当てたところで、想太とお母さんの待ち合わせ場所に着いた。

 「じゃあ、また明日ね」

 私が、帰りかけたところに、お母さんがやってきた。こんにちは、といいかけた私を見るなり、お母さんが言った。

 「あ、ちょうどよかった! 今日、このあと、何か予定ある?」

 「いえ。何にもないです」

 「一緒に、舞台見に行かへん?」

 「え? いいんですか?」

 私は、思わず、飛びつくように言った。

 

 一緒に行くはずだった人が、急用で来られなくなったらしい。お母さんは、その場で、私の家にも電話して、一緒に行っていいというOKをもらってくれた。

 6時開演で、7時半終演。それなら、帰ってから宿題もできそうだ。

  

 想太と私のカバンは、駅のコインロッカーに預けて、電車に乗る。

会場の最寄り駅に着いて、まず差し入れを買ってから、晩ご飯を食べに行くことになった。


 「みなみちゃん、イタリアンでいい?」 お母さんが言う。

 「もちろん。なんでも食べます!」

 「おお。頼もしいね」

 「めっちゃ、美味しいとこやねんで。ぜったい、みなみも気に入ると思う」

 想太が、ウキウキ顔で言う。想太と私の食べ物の好みはよく似ている。だから、想太がそう言うんなら間違いないはず。想太だけじゃなくて、私まで、ウキウキしてくる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る