ポオと乱歩が推理ゲームで遊ぶ話
橋場はじめ
ポオと乱歩
「いいトリックが思いつかないのである……」
いくつかの案自体はポオの頭に浮かんでいた。しかし。
「これぐらいでは乱歩くんには簡単に説かれてしまうのである」
そのトリックを用いた推理小説を書けば誰も探偵が解くまで答えを出せないであろう難解なトリックではあるが、それでも
何せ乱歩は以前ポオの力作推理小説を用いた推理遊戯をも易々と解いてしまった。その時のトリックと比べ今回のトリックが特段優れているとは到底思えない。
知の巨人を自負するポオ。しかしそんなポオが全身全霊をかけても勝てないのが乱歩だ。彼を打ち負かそうとすれば並大抵の苦労では足りないの。
「ううむ……しばし休憩するであるか」
このまま悩んでいても妙案は思いつかない。これまでの経験からそう感じ取ったポオは潔く執筆作業をやめ、買い込んでいた推理小説を読むことにした。読んでいればインスピレーションがわいてくる可能性もある。
手に取った本を開き一頁目の文字を読もうとした時だった。
『カァカァカァカァカァ!!』
と、烏の鳴き声が室内に響いたのは。
「わっ、なんであるか!? あ、吾輩の携帯……」
自分で設定したにもかかわらずほとんど鳴ることがないために、すっかり忘れていた着信音に驚くポオ。
「……乱歩君!?」
携帯を手に取り表示されている人物の名を見て驚くポオ。
驚きながらも手は動いていて通話ボタンを押しながら耳に当てていた。
『やあポオくん元気かい』
「元気であるが……」
電話してきた理由が推測できず不思議がるポオ。
時折推理勝負をしているポオと乱歩ではあるが、前回の勝負からまだあまり日が開いていない。そもそも推理小説が出来たポオが乱歩に連絡するというのがお決まりの流れであり、乱歩から連絡がくることはまずない。
『君のことだからどうせ暇だろう? 今から僕の家まで来てくれよ』
「どうしたの…………切れてるのである」
乱歩が自由奔放であることは今に始まった事ではなく慣れていることではあるが、少しは話を聞いてくれないと寂しいポオであった。
―――
「きたであるよ乱歩君」
「おそーいっ!」
探偵社寮を訪れたポオを文句と共に乱歩が迎え入れる。
「そうは言われてもね乱歩君、吾輩は急いでき」
「はいはい、言い訳は良いから早く入ってよ」
招く乱歩に連れられ奥へと足を踏み入れる。
「……これは?」
これみよがしに部屋の中心に置かれている最新ゲーム機。推理力に富んだ者でなくともそれがポオを呼んだ理由であることは明らかだ。
「え? まさか君、このゲーム機知らないの? おっくれってるぅーーーー!」
「いやいや乱歩くんっ、吾輩が聞いたのはなんでこれが用意されてるのかってことだよ!?」
「それはね、これ」
乱歩が手に持ちポオに見せたのはこの最新ゲーム機で出来る推理ゲームだった。
「あ、それは……」
それは初めて見る推理ゲーム。にもかかわらずポオには見覚えがあった。
まだポオたち
最初は大衆向けに簡単な謎をつくっていたポオ。
しかし当時乱歩との推理遊戯に向けて新作を書いていたこともあって、つい熱が入ってしまい終盤の謎はかなり難易度の高いものになってしまった。
(結局吾輩たちが日本に来て色々あった結果ゲームのこと忘れてしまっていたであるが、まさかこんなところで……)
フィッツジェラルドが異能で全財産を失いはしたが、どうやらゲーム自体は残っていたようでどういう経緯か無事に発売されていたようだ。
「君どうせこのゲームやったことないんでしょ、友達いなさそうだし。だからこのゲームやるの手伝ってよ」
「ら、乱歩君と、吾輩がっ!?」
このゲームは二人で遊ぶことを前提につくられているため一人で遊ぶことは出来ない。
「社のみんなは事件を解決するために出払っててさー、手伝ってくれる人が居ないんだよね」
「乱歩君はいいのであるか?」
「僕? 僕はもう超推理ですべてのこと明らかにしたからね。あとはみんなの仕事さ。僕が出来ることはもうない」
だからといって遊んでていい訳ではないと思うポオであるが、それよりも乱歩と推理勝負ができる方が嬉しく優先順位が上だ。
「しょうがないであるな乱歩君は」
永遠の
「そうこなくっちゃ。誰も相手してくれる人間が居なくてつまんなかったんだよねー。ほい」
コントローラーを渡し隣に座る乱歩。
(ち、近っ)
友達がいないポオ。そんな彼には警戒心無く近くに腰を下ろすという行動が、乱歩が自分を認めてくれている証であるように感じられて少しこそばゆかった。
「ほら、始めるよ。あ、言っておくけど推理は僕の担当だからね。僕の楽しみとらないでよ」
乱歩はそう宣言しゲームをスタートさせる。
最初の方の謎かけはポオが意図的に簡単に作成したものだ。だからこそ乱歩が詰まることなく問題を解いていっても何も思わなかった。
しかしそのペースは落ちることはない。中盤を過ぎてもRTAを見ているかのような速度で謎を解いていく乱歩。
「ら、乱歩君? その……楽しいかい?」
どんどん謎を解き明かしていく乱歩。ただそれは事務作業のようで楽しんでいるようには見えない。
「んー……陳腐で微妙。どこにでもあるような、見たことあるような問題ばっかなんだもん」
「そうで、あるか……」
乱歩用にではなく大衆向けに作った謎だ。乱歩がそう評するのにポオも意義はないが、自作なだけあって思うところがないわけではない。
「でも逆に言えばこれつくった人はそれだけ色んな作品を見てる推理モノ好きか勉強家、ってことなんだろうね」
「え?」
「別に推理しなくてもそれぐらい分かるよ。どこにでもあるような問題ばかりってことはそれだけ多くの作品を知ってるってことだ」
視線はゲーム画面に向けたまま乱歩は言った。乱歩にとってそれはどうでもいい言葉だったかもしれないが、ポオにとっては評価されているようで嬉しかった。
「まあ最後の謎が難しすぎて誰も解けない、って評判だからそれまでは我慢かな」
言いながら乱歩は世間では難しいと言われている謎を片手間のように解き終えていた。
そして。
「おっ」
製作者が考えていた所要時間の半分以下で最後の謎にたどり着いた乱歩。
(そういえば最後は……)
期待したような声をあげた乱歩と対照的に、ポオは静かにこの謎のことを思い出していた。
この最終問題が誰も解けないと言われている訳を。
そもそも難易度が世間から難しいと評価されているこれまでの謎よりも数段高いうえに、ゲームシステムを応用した謎解き。謎を解く頭脳だけでなくこのゲームの理解力まで試される。
「んー……なかなか面白いね、これ」
これまで止まることなく動き続けていた手を止め乱歩は初めて楽しそうな表情を浮かべた。
それなりに自信のある問題ではあるが対乱歩用につくったものでもないためすぐに解かれてしまうだろう。だがこの問題を解くには謎を推理するだけでなくゲームシステムを熟知し応用する必要がある。
流石の乱歩もそうなればお手上げになるかもしれない。
ポオが望む復讐とは少し形の違ったものにはなるが、それでも少しは雪辱を晴らす機会になる。
(くくく、乱歩君。君は推理遊戯が得意であってもただのゲームは特異ではないであろう? 早く吾輩に教えを乞うである……)
吾輩にこの問題の解決法を教えて欲しいと懇願してくる乱歩君――。
そんな妄想にポオは顔をほころばせる。
「まあでも、こんなの簡単だね」
「え?」
【異能力、超推理】
乱歩は懐(ふところ)から眼鏡を取り出してかけ、異能力を発動させる。
「…………ふーん、なるほどね」
全てを見通したような表情を浮かべた乱歩はコントローラーを操作する。
「ほら、ポオくんも手伝ってよ。僕一人じゃクリアできないんだから」
乱歩に言われるままポオもコントローラーを動かす。
「ら、乱歩君。分かるであるか……?」
「? ああ、このゲームシステムを使った謎解き? こんなの僕の異能力の前には朝飯前だよ」
その言葉に嘘偽りはなく、最後の謎もあっという間に解かれてしまった。
「まあいい暇つぶしにはなったよ。誰にも解けないなんて評判も名探偵である僕の前には関係なかったね」
(流石吾輩のライバルであるな)
今にして思えば自分が意図していない部分で乱歩に勝ったとしても嬉しくなんてないとポオは気が付いた。
正面切ってお互いの頭脳を酷使した推理勝負で乱歩に勝利すること、それがポオにとって一番の復習でありあの時の雪辱を晴らす唯一の手段だ。
そう思うと、乱歩を打ちのめす推理小説をつくろうという火が心を熱くたきつけだすのを感じた。
「乱歩くん、吾輩これにて失礼するである!」
「え? あ、うん」
(乱歩君待ってて欲しいである。吾輩は絶対君に追いついて……いや追い越してみせるである)
心に秘めた強い感情に突き動かされるようにポオは自宅へと急いだ。
「…………早く君の力作が解けるのを楽しみにしてるよ。っと、頭使ったら甘いモノ食べたくなっちゃった、うずまきで何か食べてこよーっと」
ポオの後を追うように乱歩も家をでていった。
ポオと乱歩が推理ゲームで遊ぶ話 橋場はじめ @deirdre
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