第三章

第25話 天使のひととき

 あのミーティングから一週間が経った。

 その間、カタストロイが現れた報告も、アウスの報告もなかった。


(妙な静けさだな……カタストロイ、何を企んでいる?)


 自室にいるユーリは、備え付けの白いデスクの前にいた。椅子に座りモニターを見つめている。モニターに映るのは、ソロモンがまとめたこれまでのカタストロイについての資料だ。


(よくここまでまとめたもんだが……。しかし、千里眼か……)

 

 ここに来て彼の能力について疑っているわけではない。ただ、感覚が理解できないだけだ。


(未来が視えるってのは、どんな風なんだろうな?)


 自分では想像出来ない事に気づいたユーリは、深く考える事を止め資料に向き直る。集中しようとした時、自室の扉がノックされた。


「誰だ……?」


 来客が来るのは珍しい。不思議に思いながら扉に近づくと、備え付けのモニターで誰なのかを確認する。映っていたのは、ロディだった。

 扉のロックを解除すれば、彼女は静かに佇んでいた。


「ロディ? どうした?」


「突然悪いなユーリ。少し話したいのだが良いか?」


「それは構わないが……何故俺の所に?」


 純粋な疑問を尋ねてみると、ロディは相変わらず淡々とした声色で答えた。


「同じゼラフに乗る者として、お前の話を聞いてみたくなった」


「ゼラフに……? よくわかんねぇが、とりあえず入れよ」


「悪いな、失礼する」


 ロディを室内に入れると、彼女を椅子に座らせ自分はベッドに腰掛ける。彼女はいつも通りの雰囲気で話始めた。


「時間も惜しい。早急に用件だけ済ませてもらおう」


「あ、あぁ……」


(なんだってんだ? 一体……)


「単刀直入に尋ねるが、お前はカタストロイに勝てると思うか?」


 ロディの問いかけに、ユーリは目を瞬かせた後静かに答えた。普段からは想像出来ない程、やる気に満ちた声色で。


「勝てるかどうかじゃない……勝つだけだ」


「なるほどな? お前にとって、カタストロイとはそういうであるという事か」


 納得したのか、彼女は静かに頷くと椅子から立ち上がる。その様子を見て、ユーリが声をかけた。


「なんだ? もういいのか?」


「あぁ、聞きたい事は聞けた。感謝する」


「そうか……」


 ロディは静かに退出して行く。それを見送ると、ユーリは一息吐いてから再び椅子に座り資料と向き合う。

 全ては、勝つために。

 それが、ユーリにとっての望みであり――覚悟だからだ。


 (大切な者を守りたいと思えるような奴らはいないけどよ……それでも、俺は生きたいし生きてる連中を見ていたいんだ……)

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トロイメライ戦記~伝播する悪魔と夢想する天使~ 河内三比呂 @kawacimihiro

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