第3話 夢想の原罪③

 都立鈴鳴すずなり高校。

 日本での呼称に合わせるなら、全日制の普通科高等学校だ。


 そこに教育実習生として隊長であるハリスが自ら潜入している事実は、ユーリにとっては少し驚きだった。


(俺より年上とは言え確か二十五歳だったな? ……ハリス隊長が凄い人なのは重々承知だが、なぜ自らが? 普段ならそういうのはの得意分野だろうに……)


 隊の中で潜入工作がもっとも得意な人物の顔を思い出す。


(……だが、あえて……つっーことはなにがあるんだ? いや、なにが起こるんだ?)


 疑問は尽きないが、今は指示に従うしかない。そう判断したユーリとアイクは、それぞれの愛機に搭乗して待機していた。


 トロイメライ戦隊の主要兵器――対カタストロイ殲滅用人型機動兵器マシーネ・エンゲル、略してM.E.に。


 通信越しにアイクの声が聴こえてくる。


『しかし、? 隊長はなにをお考えだと思います? 自分、付き合い短いんで? それに、特化なんで教えてくださいよ?』


 これでもかと嫌味の入った言葉に、ユーリはげんなりしながら答えた。


「俺も知りてぇーよ……はぁ。それより、の情報については把握してんだろうな?」


 アウス――カタストロイと共鳴し、信徒となった人間達のことであり……いずれは人で無くなる可能性がもっとも高いのことだ。

 彼らの研究は中々進んでいない。というのも、サンプル採取が極めて困難だからだ。故に、なぜアウスとなるに至ったのか? なぜ人類の敵となったのか? 不明なままである。


『当然ですよ、先輩? 名前はヒデハル・トキトウ、日本に合わせるなら時任英春ときとうひではるですね。純粋な日本人で年齢は三十二歳の男性。この高校ハイスクールに赴任してきたのは最近で、資料によると赴任当時から妙な動きがありアウスの疑惑がでた……ですよね?』


(こういう能力が高いのは、軍人としては間違ってないんだがなぁ……)


「……んじゃ、ハリス隊長の指示を待つか……ん?」

 

 モニターを何気なく見た時だった。一瞬だが、妙な反応をした……気がする。


(なんだ?)


 そう疑問に思っていると通信が入った。表示を見れば、ハリスからだった。


『二人とも、準備はいいですね? アウスが化します。近隣住民及び学校関係者は退避済みです。?』


 その声を合図に、鈴鳴すずなり高校の校庭から唸り声が響く。そして、徐々に何かがせりあがって来る。

 人型だったはずのそれは融解し、機械に限りなく近いフォルムのが姿を現した。

 それを確認すると、二機の機械の天使マシーネ・エンゲルが輸送機から舞い降りる。

 白を基調とした機械の両翼が風を切る。

 一機は黒いラインが全体に入り、右腕には鈍色に輝く杭打機パイルバンカーを着けた接近戦特化の機体。一機は、金色のラインが全体に入り、両手に背丈より少し小さいくらいの十字架型の兵装を持った機体。

 前者がユーリの駆るエルプズュンデ、後者がアイクの駆るトーデス・エンゲル。


 今、悪魔と天使が対峙する――。

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