送る言葉

@Pz5

SIDE : A

 ごめんね――


 私はこの春から東京の大学に行きます。

 そこは、オープンキャンパスや受験で何度も行った、とても素敵な処。

 そこは、私が勉強したい事がいっぱいあって、将来に繋がる、とても素敵な処。


 ベー君、今までいっぱいありがとう。


 小さい時に私がねだった牛のぬいぐるみ。

 何故牛なのか、当時の両親も今の私もわからないけど。

 でも、とてもお気に入りの素敵なぬいぐるみ。


 怖い夢を見た夜。

 学校が怖くて落ち着かなかった日。

 とても寒くて側にいて欲しかった日。

 友達とケンカした日。

 両親がケンカして怖かった日。

 テストが上手く行かなくて落ち込んだ日。

 素敵な人に出逢った日。

 素敵な人とお話した日。

 素敵な人に彼女がいた日。


 ずっとずっと、側にいてくれたベー君。

 今ではすっかりボロボロで、毛並みもはげてきたベー君。

 目を縫い直したり、綿を詰め替えたり、何度も手術をしたベー君。


 今までいっぱいありがとう。


 でも――

 ごめんね――


 東京のお部屋はとても狭くて、あなたを連れて行く余裕がないの。

 東京の環境はとても忙しくて、あなたを治す余裕がないの。

 とても素敵な処だけど、あなたを連れて行けないの。


 だから――

 ごめんね――

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