第28話 正義の鉄槌(7)

「……お、来た。……何の話だった?」

 英二がD組に戻ると、慎太郎が尋ねてきた。

「……あのメールの話。……お前がやったんだろ、って。」

「え、お前だったの?」

「違うって!それがさ、あの――」

 英二は事情を説明し、鬼瓦の誘導尋問がどれだけ酷かったかを語った……だが、憤っているにしては、どこか元気がない。

 話を最後まで聞いても、慎太郎はほとんど無表情だ。

「そいつ…………なんなんだろうな。」

「…………多分、だけどさ……あいつ、次は俺たちも狙うんじゃないか?」

「『俺たち』って……俺も?」

「うん……だって、わかるだろ?」

「は?」

 慎太郎は分かっていないふりをした。

「いや、だから……俺たちが、今まで、その……いじめ、やってたから……その、罰、みたいな……。」

 英二は声を小さくしながら、目を逸らした。彼はずっと、自分たちの行為が「いじめ」と言う単語で表されることを意識していたが、敢えて口に出したのはこれが初めてだった……つまり、悪いことをしているという感覚がずっとあったのだった。

 だが、慎太郎は違う。

「何言ってんだよ、ハッ、『罰』って。犯罪者は向こうじゃん。さっさと逮捕されればいいんだよ。そんな奴。なあ!?」

 慎太郎は大声で言いながら、ちらりと教室の隅――毓の方を見遣る。彼は窓の外を眺めてぼんやりしていた。……だが慎太郎も、彼が犯人だなどとは思っていない。英二もだ。だが、思い当たる節と言えば、それくらいだった。

 あるいは……。

「ちょっ……やめろ、マジで。」

「は?」

「いやだから……マジで、ちょっと!」


 英二は慎太郎を廊下に連れ出した。そして、声を潜めて言う。

「…………もしかして、だけどさ……これって、毓の呪いなんじゃねえか?」

「…………は?」

「だから、呪い……犯人は毓じゃねえ。あいつがあんなことできるわけねえし、声も違うし……ていうか、肌なんか茶色いし、急に消えたし、あいつ……普通じゃなかった。人間じゃ、ないって言うか……。」

「……お前、本気で言ってんの?」

「いや……なんだよ、まさか信じてねえのかよ。この前の『キューピットさん』こと、覚えてるだろ?」

「いや、あんなのただの噂だろ……。」

「いや、ほんとに……このままじゃ俺たち、マジでヤバいって……。」

 英二は慎太郎に詰め寄る。慎太郎はうっとおしそうにその肩を突き飛ばした。

「知らねえよっ……!だったらどうすんだよ。」

「いや、だから、その……謝る、とか。」

「は?誰に?」

「それは……毓に、決まってるだろ。」

 英二は、慎太郎の動かない無表情をにらみつける。

「…………お前、馬鹿だろ。何ビビってんだよ?」

 慎太郎はあくまでクールにあしらう。

 だが、その笑い顔は無理に作ったものだった。英二の話を信じたという訳でもないが、自分たちが狙われることは十分にありそうに思えた――元人も含めた男子たちの苛め行為において、ほとんどの場合指示役は慎太郎だったからだ。その上で、犯人がわからないというのも不気味だった。

 だが彼はあくまで、自分は動揺していない、と思い込もうとする。

「だったらさ、おまえが行って勝手に謝ればいいじゃん。別に俺、バットで襲ってくる奴とか怖くないし。ていうかむしろ竹刀でボコすし。」

「いや、竹刀ってお前……。」

「お前は雑魚だからできねえんだろ?いつも俺に負けてるし?いいよ、だったら勝手に降伏宣言しとけば?」

「お前っ…………。」

 英二は慎太郎を睨む。剣道は下手という訳ではない――だが、慎太郎は自分の方がうまいことをいつも鼻にかけて、遠回しに英二を貶めてくる。そうした悪意は余りにもさりげなく差し出されるので、言い返しようもない。慎太郎はいつも、クールだが人当たりが良く、万人受けする立ち位置。

 ムードメーカーの英二は大した取柄もなくただ、見下されながら笑いを取る役回りに甘んじるしかない。

 そうだ、そもそも毓や他の生徒を苛めるのも、こいつの指示に逆らえないからではないか。そしていつも教員に怒られるのは自分か元人だ。こいつはちゃっかり、目立たないよう後ろで見ている振りをするだけ……。

「……そ、そっちこそ、勝手にしろ!」

 英二は捨て台詞を吐いて、教室に戻った。後ろから当然のように、慎太郎がのそのそとついてくる。

 英二はまた毓の方を見遣った…………少し迷ったが、結局話しかけるのはやめた。やはり、気味が悪い……それに、慎太郎が見ている前で彼に謝るのは、プライドが許さなかった。


 英二がそんな風に気まずい思いをしている一方、当の毓はそんなことは露とも知らずに、窓の向こうを見つめながら――




           ――ニヤニヤと笑みを浮かべ、一人で優越感に浸っていた。


——————————————————————————————————————

ありがたいことに、通読してくださっている方も何人かいらっしゃるようです。よろしければぜひ、感想、コメントよろしくお願いします……!まだ二作目で未熟な部分が多いですが、忌憚のないご意見が頂ければ幸いです(*'▽')

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る