思う存分 パート1


「……うぅ……ひぐっ…………ぁぁ……」


 それからしばらくしても、香織は俺の腕の中にいた。


「落ち着きそうか?」


「……もう、少しだけ」


 小さくなってきた嗚咽と震え。でも、まだ完全に治ったわけじゃない。


「ごめんね。ずっと斗真に抱きついたままなのに」


「いいんだよ気にしなくて。むしろ久しぶりにこんな長く香織を抱きしめられて幸せまであるから」


「斗真……っ」


 もともと香織が満足するまではいくらでもこうしているつもりだったので、迷惑なんてことは全くない。

 ……強いて言うなら、今になってほんの少しだけ照れくさい。


「……それに、離れたくないって泣いてくれるのは彼氏的には結構嬉しかったりするし」


「もう……なんかちょっといじわるだなぁ」


「ごめんごめん」


 俺の笑顔混じりの謝罪に対して、香織は何も言わずにただぎゅぅぅ〜っとより一層強く抱きついてきた。

 そんな彼女の背中を俺はゆっくりとさする。


(……可愛いなぁ)


 話し合いが終わったソファの上で最愛の恋人を抱きしめながら、ひっそりと幸福に浸りつつ、バレないようにこっそりと自分の涙を指先で拭う。


 ……ほんとに、小さい。

 この小さな背中で今までどれだけのものを抱えてきたのだろう。


「いくらでも泣いていいよ。香織にはもう俺がいる。何にも無理しないで、好きなだけ俺に甘えていいんだよ。心配しなくても、俺はずっと香織のこと大好きだから」


「……そんなこと、言われたら……また……泣いちゃうよ……っ」


「いいよ。その間、どうしてて欲しい?」


「…………強めに、抱きしめててほしい」


「分かった」


 ぎゅうううっと、香織がしてきたよりもさらに強く彼女の体を抱きしめる。

 二度と一人で抱え込ませたりなんかするもんか。

 そう心に誓いつつ。


「これでいい?」


「……うん。…………ははっ、私にはもったいないくらい、本当に……大……っ、だい、すきだよ……ぁ…………ぁぁ……とうまぁぁぁ……っ」


 この最愛の女の子を絶対幸せにすると、改めて生涯の目標に定めつつ。






「──ふぅ……よしっ。もう、大丈夫」


「本当に? まだちょっと涙声だけど」


「ふふっ、多少はね。でも、もう大丈夫だよ。私は今度こそ斗真の彼女になれる。辛い時は相談する。助けてほしい時はちゃんと言う。それで、斗真のことも、私の全部で絶対に幸せにする」


「……ハハっ、なんかこの前と立場入れ替わったみたい」


「……だね。私の方が覚悟が足りてなかったなぁ」


 あちゃーと額に手を当てた香織だったが、その様子からは数日前よりもずっと明るさが感じられた。

 ……やっぱり香織は元気な方が圧倒的に可愛いな。


「じゃあ俺を頼る第一歩として、今なにかして欲しいことある?」


「……え、でも、さっきたくさん抱きしめてもらったよ?」


「それは頼るうちに入りません」


「厳しいっ!」


 と言われても、香織を抱きしめることなんて俺もやりたくてやってるし、密着するの心地いいし気持ちいいし……

 そう考えると頼るって手短には難しいのかもしれない。

 だが、根っからの優しさが強い香織には多少意地悪でもこういう強引な手法は必要だろう。やる頻度は要相談だけど。


「な、ならさ」


 なんて考えていたら香織は何か思いついたよう……なのだが、目線はなぜか斜め下。


「も、もう一回……斗真と、キス……したい」


「……え」


「だ、ダメ?」


「……や、ダメじゃない、けど。それも頼るってほどじゃ」


「ううん、さっきのとは違うの」


「違うの?」


 違うとなるとそれはつまり、唇を重ねるだけじゃなく、もっとこう……って、え。


「……あ、や、キス自体は一緒だよ!? 私だってまだ唇の感触だけで精一杯っていうか……だ、だからそんなに驚いた顔しないでよ」


「だ、だよな。ごめんごめん」


「私は、その……勢いじゃなくて、ゆっくりそれ自体をしたいっていうか……。斗真が満足しても、私が満足するまでやめない、みたいな。ど、どう?」


「それ……」


 それも俺には喜ぶ要素しかないと思うんだ。

 けど、香織としては相当頑張って言ってくれたらしく、顔が再び赤に染まっていく。


 ……やばい。頬が緩む。


「わ、分かった。それにしよう」


「ほんと!? じゃ、じゃあさ……斗真、横になってくれる?」


「……え?」


「わ、私が上に乗るから、斗真は何もしなくていいよ」


「頼るなら普通逆では」


「いいの。私はこれがいい。……ほら」


 こつん、と軽く肩を押されただけで、なぜか俺は抵抗できずにそのままソファに倒れてしまう。そしてすぐに香織が乗っかってくる。

 やっぱり少し遠慮してるのか、腰のあたりがちょっとだけ重くなる。


「キツかったら言ってね」


「俺が言ってもやめないって話じゃなかったか?」


「それは、そうだけどさ」


「……大丈夫。これがキツくなる未来とか想像できないから」


「……もう」


 とはいえさすがにソファの上だと香織が狭くて大変そうなので、俺も彼女の脚とか腰とかをなるべく支えてやる。

 ちなみにこれは不可抗力。


「香織を見上げるのって膝枕以来かも」


「私も、斗真が下にいるの久しぶり……なんか緊張する」


「じゃあ逆にする?」


「しない」


 何を言っても今は俺を上にはさせてくれないらしい。


 ……困った。

 この体勢、普通に困った。

 どこを見ても最愛の美少女が目に映る。


 しかも、下から見上げるとさっきよりずっと大きく感じるものが胸元にある。

 ……そういえば、まだ成長中だったっけ。


「斗真、照れてる?」


「この状態で照れない方がおかしいから」


「ふふっ、それすごい嬉しいかも。……それじゃあ、あれなら目瞑っててね」


 そう言って、香織はゆっくりと顔を近づけてきた。

 垂れてきた髪を耳にかけ。

 言った自分が目を瞑りながら。

 腰だけにかかっていた体重が、ゆっくりと胴全体に分散し。


「……改めて、ごめんね。でも、ありがとう。大好き」


「…………っ」


 ゆっくりと、じっくりと、優しく重ねてきた唇の感触に、俺もすぐに目を開けていられなくなった。



【あとがき】

読んでいただきありがとうございます……!

こっちもまだ途中ではありますが、不定期更新ということで、イチャイチャ多め不穏なし(予定)の新作を公開しました!


タイトル: 痴漢から助けたクラスメイトの地味子、どういうわけか会うたびに可愛くなっていく


以下、urlです↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330661732262737


もちろんこっちの幼馴染の方の更新をやめるつもりはありませんので、そこはご安心ください。ただシリアスなしの砂糖多めラブコメも大好きなので、そっちも書きたくなった…‥という感じです!


興味ある方、ぜひ新作の方もよろしくお願いします_:(´ཀ`」 ∠):

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