ぬいぐるみ七七七変化

羊蔵

ぬいぐるみ七七七変化

 最初はただのぬいぐるみ好きだった。

 だが、ベッドの下までぬいぐるみで一杯にした辺りで、自分でも作ってみたくなった。


 最初はクマだとかウサギだとか、変わり種でもせいぜい青色のクマだとかで満足していたが、そのうちもっとオリジナリティのある物が作りたくなった。

 彼女は合計七七七匹に狙いを定めて制作を開始した。

 平凡なのは、もう五〇〇匹もいたから、まったく違うもので残り二七七を埋めなくてはならない。


 二〇〇以上作った所で、ぬいぐるみの定義が分からなくなった。

 辞書には「綿などを中に包んで作った、動物のおもちゃなど」とある。

 でも彼女は動物以外に、アニメのキャラも、昆虫も、植物も、犬小屋のぬいぐるみまで、もうすでに制作済みだった。


 詰め物だって綿以外に、布。スポンジ。ペレット。紙紙屑。ビーズ。ウレタン。小豆。紙粘土。ちぎったラブレター。草。とにかく色々やった。


 それでも作り続けたが、残りあと一つというところで、図鑑にあるだけのモチーフをやり尽くしてしまった。

 七日七晩悩んだすえ、彼女は「宇宙かな」と悟った。


 突き詰めれば、ぬいぐるみとは「好きな何か」を「好きな何か」で包んだものでしかない。

 我々もまた宇宙に包まれている。

 という事は人は何を包んでもいいし包まれてもいい。

 彼女は自分の最も欲するもので包み包まれようと決めた。


 彼女はフラつきながらも溌剌として買い出しに走った。

 以下はそのぬいぐるみの材料。


・豚の死骸。

・ナトリウム。

・甘藍 。

・ネギ属に属する多年草。

・悪臭を放つヒガンバナ科ネギ属の多年草。


 彼女はこれらを爆笑しながら執拗に切り刻んだのち、あらかじめ用意しておいた丸い皮へセット。ヒダヒダを作りながら次々に包んだ。

 最後は、ごま油を塗って熱したフライパンへ綺麗に並べ、頃合いを見て水を回しかけ蒸し焼きにした。


 これが求め続けたもの。

 最高の餃子ぬいぐるみを前に、彼女はビールを掲げる。

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