虹の粒子をきらきら撒いて幼女の周りを飛ぶペガサスのぬいぐるみ。子供だけでなくその母親も手に取ってしまうくらい精巧で美しい。そんな不思議な魅力のぬいぐるみに溢れたお店から物語は始まります。
それを作り出すのは無精ひげに分厚い丸眼鏡、それに可愛いアップリケのついたエプロンというなんとも気の抜けた格好の店主リドル。けれど、その腕前は確かで、仕立てを手伝う少年アダムもなぜ彼がこんな子供向けの人形ばかりを作っているのか首を傾げるほど。
ところがそれには暗く悲しい歴史があって——。
この作者さんならではの、幻想的なのにまるで本当にそこにあるように目に浮かんでしまう繊細で緻密な描写、何より人形のあまりに美しくも不思議と生き生きとした様子にうっとりしてしまいます。
リドルが子供向けのぬいぐるみを作り続ける理由、そしてさらには彼の持つもう一つの顔とは——。
大きなお話の始まりを感じさせる物語、いつかまた続きを読めたらなあと心の底から願ってしまう素敵な一作でした。