第12話:再走と再会
ダンジョンの入り口に着いた俺達に向けられた視線は、嫌悪と不快に塗れた物だった。俺にとっては慣れた物ではあるが、セレンは居心地が悪そうだった。
「これ、仕方のないこと……なんですよね?」
「エレクは嫌われ者だからな」
好意的な人間と交流を持ち、事情を話すことが出来たので気が緩んでいたこともあったが、エレクは悪役である。非難されるだけのことをして来たのだから、これ位は当然のことだろう。
だが、直接何をして来る訳でもない。侯爵家の長男、と言う立場を恐れて何もして来ない。負の感情を晒し続けるだけ。彼らを見ればルーカスの方がよほど人間的な交流を持とうとしていた。
「エレク様と回復術士(ヒーラー)のセレン様ですね? どうぞ、お入りください」
ダンジョンに足を踏み入れる。以前はルーカスの後を付いて行くことで戦闘を回避していたが、今後は自分達の力で進む必要がある。セレンの方へと視線を向けた。
「今のステータスなら浅い階層なら進めるだろう。発動のタイミングを見極めながら、探索をして行こう」
「はい。この辺りなら問題ないとは思いますけれど」
エレクの能力が低いと言っても、カリドーンを倒して得た経験値もある。ここ等辺の敵位なら能力を使わずとも対処は出来た。得られるドロップやアイテムはショボイ物ばかりだったが、バッグに詰め込んでいく。
コボルトやゴブリンを叩きのめしながら探索していると。他の同族よりも栄養状態が良いのか一回り大きくなっており、数匹の同族を連れているスライムが居た。透き通った体内には異物の様に白濁した液体が浮かんでいた。
「みぎゃ! みぎょ!」
「うぉ!?」
まるで、実家に帰って来た主人に飛びつく犬のように。スライムは俺へと飛び掛かって来た。器用に粘性の体を触手の様に伸ばして、バッグの中から食料を奪い取ると、背後にいた部下に放り投げた。
だが、追撃してくるような真似もせず体を摺り寄せて来ていた。もしやと思ったが、このスライムは。
「お前、もしかして。天雅なのか?」
「みょ!」
同意する様に体を震わせていた。あの時は、俺を見捨てた薄情者だと思っていたが、こうやって再会するや駆け寄って来る所なんて、愛犬めいた可愛さがあるじゃないか。
「知り合いなんですか?」
「ここに来たばかりの頃にな。寂しかったから、このスライムに餌付けしていた。倒されずにいたことに驚いた」
魔物達は倒されると死ぬのか、一定時間が経つと復活するのかは分からない。ただ、天雅は俺のことを忘れていなかった。故に、ホームポジションの様にズボンの中に移動しようとしていた。
セレンが目を丸くしていた。折角、餌付けした理由であるオナホにしようとした経緯を隠し通せそうとしたのに。仕方がない、本当のことを言うのか。
「ついでに。スキル発動の手伝いをして貰った。具体的には中に入れた」
「そんなことしたら消化液で大変なことになっちゃうんじゃ……」
「ヒリヒリした。めっちゃ痛かった」
「みー……」
お前は悪くない。強いて言うなら、俺の頭が悪かった。だから、こうして再び会えたことは嬉しく思う。ただでさえ味方は少なく、スキルを発動させる可能性がある物は手元に置いておきたい。
「なぁ、セレン。スライムの消化液による怪我は治療できるのか?」
「ちょっとした麻痺みたいな物ですから、問題はありませんが」
「よし、じゃあ俺はコイツを連れて行く。天雅、また頼んだぞ」
「み!」
ゴソゴソとズボンの中に入って行った。ジンワリと快感が増幅していく様な感覚だ。俺には突飛に与えられる刺激よりもこういった物の方が向いている。
セレンと天雅(オナホ)の助けもあって、カリドーンと戦った階層へと辿り着いていた。フロアボスの存在も無くなったフロアにはイアスを始めとした商人達が居着いていた。
「おや、エレク様。思ったよりも早い再会でしたね」
「早速、商売をしているな」
簡易的な休息所や、此処まで制覇して来た者達だけが使える転送陣。勿論、商品を並べた店頭もある。
「国を救おうとする冒険者の手助けをして、我々も利益を得られる。双方良しですよ。ここまで自力で辿り着けたなら、こちらを渡しておきますよ」
イアスが差し出して来たのは巻物だった。ゲーム的に事情を知っている俺は、これが一体どのようにして使う物だということを知っている。
「休憩所ごとの移動に使える転送用の巻物(スクロール)だと思っても良いんだな?」
「話が早いですね。ここまでたどり着けたなら、お渡ししても問題ないと」
実力が無いまま深層に来られても邪魔にしかならない。ある程度、俺の実力が認められたと思っても良いのだろう。
「エレク様。折角ですから、ここで一休みをして行きましょう。股間がどうなっているか心配ですし」
後半の方はイアスに聞かれない様に小声になっていた。少しヒリヒリして来たので丁度良いと思っていた。
イアス達に代金を払って、場所を借りた後。セレンに治癒の魔術を掛けて貰った所、痛みは引いた。残されたのは興奮の矛先が分からずに半立ち状態になっている、俺の象徴。
「ステータスオープン」
【レベル】:10
【体力】:40(+20)
【魔力】:00
【攻撃力】:20(+20)
【防御力】:32(+20)
【俊敏性】:05(+20)
「優秀なバッファー。と言えるんでしょうか?」
「かもしれんな」
とは言え、あまりに使いすぎるのも良くはない。刺激に慣れすぎると、いざという時に使えなくなるかもしれないからだ。ただ、セレンの生理的嫌悪感を減らす上では大いに役立ってくれるかもしれない。
「みぎゃ」
「よっし、手持ちの整理とコイツの餌でも買ってやるか」
「先に言っておきますが、ここまで来た危険と手間を考えて割高になっています。また、素材に関しても少し安めに買い取らせて貰います」
だとしても、ダンジョン内で済ませられる便利さには変えられない。ここまでは復習だ。次の階層から攻略が再開される。荷物を軽くしながら、食事なども取って、着実に準備を進めていた。
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