第7話:最初のフロアボス撃破と後始末
ゲームをやっていて、一々心を痛める奴なんて居ないと思う。
グロテスク表現のあるゲームで無意味に暴力を振るったり、R-18ゲーでCG回収の為にヒロインを酷い目に遭わせても感慨は無かった。
CGをコンプする為だと思ったら割り切れたし、どうせグッドエンディングが正史になるんだから、失敗したルートはIFでしかないと思っていた。
「つまる所、お前は誰にも興味が無いんだ」
薄暗い中で声が響く。粘着質で擦り寄ってくるような声。この声の主を知っている。視線を向ければ、エレクが居た。
「女を肉壺としか見ていない俺と何も変わりない! お前はアイツらの未来にも幸せにも何の興味も無いんだよ!」
言われて固まった。俺はこの世界や人々をどう見ているんだろう? あくまで破滅したくないから足掻いているだけだ。彼らの幸せを願っている訳では無い。
だからと言って、俺がこんな畜生と同一視されるのは心外だ。真面目に善良に生きて来たことだけが取り柄だと言うのに。
「お前は俺だ。お前が俺を拒否し続けるならば、俺もお前を拒否するだけだ」
スゥっと暗闇の中に溶け込んでいき、俺は再び意識だけの状態で闇の中を彷徨うことになった。
声色には喜色よりも怒りの方が強かった。拒否されたことに腹が立っているということは、アイツも仲間を求めていたんだろうか?
「何故、俺なんだ?」
~~
最初のフロアボス『カリドーン』が撃破されてから翌日のこと。現場に居合わせた、癖っ毛の茶髪と眼鏡が特徴的な少女『セレン』はルーカスと共に国王に呼び出されていた。
「二人に来て貰ったのは外でもない。カリドーンの件についてだ」
「もう、国王の耳にも入っているのですか?」
「例の魔王が態々、教えに来てくれたよ。討伐したのが、あの『エレク』だということもな。なぁ、ルーカス?」
「も、申し訳ありません……」
国王の顔には深い皺が刻まれていた。散々、援助して祭り上げた勇者ではなく、侯爵家の長男だからというだけで見過ごして来た犯罪者が先に手柄を上げて来るとは思わなかったからだ。
ルーカスが怒りと悔しさに下唇を噛んで震える中、国王は兵に命じて何かを持って来させていた。熟練の職人によって鍛え上げられた剣と杖だった。
「これは?」
「お前達が『カリドーン』を倒した功に対する、労いだ。期待を裏切ってくれるなよ」
直ぐにセレンは気付いた。国王はエレクの功績を横取りするつもりなのだと。
そして、自分達が賜った逸品は口止め料だと。彼女が戸惑う中、ルーカスは剣を手に取っていた。
「必ずや、期待に応えてみせましょう」
自らの中にこみ上げる感傷を無理やり押し込めた、絞り出す様な声だった。セレンもまた、杖を受け取りはしたが。
「(国王からすれば、醜聞しかないエレクさんを表彰したくはないんだろうけれど)」
この1日の間に、彼女はエレクの風聞を集めていた。彼を評する言葉のどれもが憎悪と侮蔑を込めた物だったが、あの時。自分を助けてくれた姿とはどうしても重ならなかった。
もしも、彼が皆の言う様な人物であれば。あの時、自分は襲われていたはずだ。だが、彼は血を吐くほどの苦痛を受けながらも自らを抑え、逃がしてくれた。
「(どうして?)」
何処に、この矛盾を埋める答えがあるのか? セレンの胸にはエレクと言う人物への疑問でいっぱいだった。
~~
更に、数日後。勇者ルーカスは『カリドーン』の突破を契機に快進撃を続けていた。人々の期待が高まり続け、王女の奪還も間近と叫ばれる中。セレンは足繁く、エレクの館へと通っていた。
「セレン様。本日もありがとうございます」
「いえ、私に出来ることはこれ位しかないので」
案内されて寝室へと向かう。ベッドの上では苦しそうに呻いている彼の姿があった。執事と共に寝汗を拭き、召し物を替えていた。
「こうして、坊ちゃまが人に慕われる様なことをしてくれたことが、私は本当に嬉しいのですよ。……罪が消える訳でないにしても」
善行をしたからと言って、過去の行いが水に流される訳では無い。もしも、彼が処断される様なことがあれば周囲諸共となりかねない。それを恐れて、使用人達は次々と離れて行った。
「執事さんは、それで良いんですか?」
「はい。エレク様を止められなかった、私達も同罪ですから。……もはや、ルーカス様に裁かれることだけが救いだと思っていたのですが」
いつもは下卑た表情を提げていたが、今は苦悶の表情を浮かべている。セレンが治癒の魔術を唱えたことで、若干痛みは和らいだように見えた。
「今は違うんですよね?」
「えぇ。今は、セレン様が信じるエレク様を、私も信じてみたいのです」
どういった心持の変化があったのか、何があったのか。早く目を覚まして話を聞いてみたい。1日でも早く目覚めることを願い、彼女は一心不乱に世話と治癒の呪文を施しに来ていた。
しかし、甲斐甲斐しく通う疲れからか、不意に彼女は体制を崩してしまった。その拍子に、エレクに倒れ込んでしまったのだ。
「む?」
異変に気付いたのは執事だった。セレンに覆い被さられた瞬間から、ジワジワシーツが盛り上がり始めていたのだ。
やがて、テントと言えるほどに張った頃、今まで目覚める兆しも無かったエレクの瞼が開いた。上体を起こして、キョロキョロと周りを見渡して。トイレにでも行こうとしたのかベッドから出た瞬間、執事は叫んだ。
「立った! セレン様のおかげでエレク様が立ちました!!」
「は?」
泣いて喜ぶ二人を傍目に。当の本人は何が起きているのかサッパリだった。
――――
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