【KAC20232】誘拐されたメイド

大月クマ

オペレーション・セロドア

 一体どうなっているのだ!?


『10,000G? 馬鹿なことを抜かすな。もっと価値がある!』


 と、電話を一方的に切られた。


 10,000Gだぞ!

 一般市民なら向こう3代は遊んで暮らせるほどの『身代金』を断っただと!?


 俺はスパイだ。


 我がB国の平和のために、隣のここA国の上級将校の秘密を暴こうとした。

 数々のスパイが――だが、中々上手く行かなかった。しかし、俺はついにやったのだ。

 A国の上級将校の弱点は、今、ここにある。

 それが目の前にいるメイドだ。

 今は可哀想に椅子に縛り付けられ、猿ぐつわをはめられている。このションベン……失礼、田舎くさいガキンチョのメイドが、その秘密を握っていたのだ。

 俺が悪態をついているのは、この女が散々暴れ回ったからだ。

 そして、暴れないようになんとか椅子に縛り付けた。が、その後はありとあらゆる罵声を浴びせてきた。ので、猿ぐつわをはめたが……それでもバタバタ椅子を揺らして暴れる。うるさいから、仕方がなく、椅子の脚を床に釘で打ち付けた。

 ちょっと待て!

 メイドを誘拐したのは俺だ。何であっちに主導権イニシアチブを握られなくちゃいけない。

 

「身代金が安すぎるだと!?」

 

 それほどの重要な秘密をこの田舎臭いメイドが持っているとでも……いや、俺の調べではこの娘が勤め始めたのは、3ヶ月ほど前だ。

 ブルドッグのような上級将校の顔を、思い出した。

 あの男、あんな顔をしているから、少女趣味なのか?

 こんな小娘を愛玩……いや、そんな趣味があるなら、すぐに噂になるはずだ。そんな噂は聞いたことがない。


 では何だというのだ?


 そうか!

 この娘が運んでいた革のアタッシュケース。あれに重大な秘密があるのだ!


「んんんッ!」


 俺がアタッシュケースに手をかけると見るや、メイドはあれだけ縛り付けているのに、また暴れ出した。


 やはりこのケースに秘密があるのだな。


 見たところ、鍵は2つ。ひとつは単純な機械式の鍵だ。鍵穴から道具で簡単に開く。だが、問題はふたつ目のロータリー式の方であろう。8桁の数値を並べなければならない。


 メイドに聞くか? この躾がなっていないメイドにか?


 椅子に縛り付けるだけに、どれほど殴り蹴られたことか……拳銃で脅してもなかなか大人しくならないのには、流石に呆れたが……

 猿ぐつわを外すだけでも、また大声で騒ぎ始めるだろう。


 ここはフェイクをかけるか?


 再び、電話をかけた。


『今度はまともな、身代金額だろうな?』

「聞いて驚くな、50,000Gだ」

『100,000Gだと思い直したら、かけ直してこい!』

「わッ、わかった。それで手を打とう」


 これではどっちが悪者なのか。そもそも金には興味は無い。中身さえしれたら――


「しかし、将軍。貴方という人は、こんな趣味をお持ちとは」

『何!? 貴様、見たのか!』

「いえいえ、また拝見していませんが……ロータリーキーの番号さえ教えていただければ、『中身』を傷つける事が無く――」

『わッ、わかった。番号をいうから、傷つけないでくれ!』


 突然、電話口の上級将校は弱気になった。

 中身は一体何なのだ?


『番号は……いうぞ――。

 1、2、3、4、5、6、7、8だ』

「はあぁ~!?」


 莫迦が付ける暗号ではないか!


 俺は慌てて電話を切ると、いわれた番号にロータリーを回した。鍵穴に針金を入れてあっさりと開けた。

 さてなんであるか――


『ああッ、誘拐犯の大悪党! 貴様のアジトは完全に包囲した!!』


 先程まで電話越しに話していた上級将校の声が、外から聞こえる。

 慌てて窓に駆け寄ると、そこら中に兵士がいるではないか!

 しまった! 電話であいつの屋敷へ話していたと思ったが、すでに場所を突き止められて、包囲されていたというのか!


 失態だ。早く片付けて逃げ出さなければ!

 ともかく、秘密は目に焼き付けておかねば――


 俺は慌てて、アタッシュケースの場所に戻るとそれを開けた。


「うあぁ!? なんだ、これは!」


 その中にはボロぞうきんのような――


 その瞬間、俺の胸が熱くなった。いや、それだけではない。次々に身体中から血があふれる。


 うッ、撃たれた?


 狙撃手か? たかが……たかが、クマの――



〈了〉

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【KAC20232】誘拐されたメイド 大月クマ @smurakam1978

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