第23話 俺はあくまで助っ人冒険者なのだが!?


「おお! ノルン殿! 来てくださったか!」


 衛兵団の元へ駆けつけると、その隊長はすごく喜んだ顔をしてくれた。


「状況は?」


「投石機とバリスタでなんとか足止めはできていますが、兵の疲労が著しい状況です」


 確かに重い石をいちいち乗せなければならない投石機や、重い弦を発射毎に引かなければならないバリスタを扱うことは相当体力の要することだろう。それでいて、超巨大ゴーレムにとっては足止め程度にしかなっていない。


「トーカ!」


 トーカは小走りで、且つ緊張した面持ちでこちらへやってくる。


「君は衛兵団の救護を頼む。君の神聖術で兵を癒し、援護せよ!」


「わかりましたっ! 頑張ります!」


「ティナとアンは投石機とバリスタの間隙を縫い、魔法で敵を圧倒せよ!」


「「了解!!」」


……と、ここまで言っておいて、気づいてしまった。

これではまるで俺が憲兵の指揮官のようだと。

これでは隊長さんの面目が丸潰れだ。


「……と、いう風に俺は思ったのだが、どうだろうか……?」


「いやはや、素晴らしい采配です! その方法で行かせていただきますぞ、ノルン殿!」


「そ、そうか。ならば、上手くこの三人を使ってくれ。俺は前線へ行く」


「はっ! お気をつけください、ノルン殿!」


 隊長さんの声を背に受けつつ、超巨大ゴーレムの近くにある岩場へ駆け込んでゆく。


 そこでは突撃を待ちウズウズしている様子のデルパ、静かに息を潜めているシェスタ、そしてかなり緊張気味のジェイの姿があった。


「待たせたな。ジェイ、大丈夫か?」


「お、おおうさ! だ、大丈夫! ビビってなんかいるかっての!」


「この戦いはお前にとってかなり良い経験になる。だから何も気にせず全力で挑め! お前ならできる!」


「師匠……分かった! 頑張る!」


 ジェイは自分で頬を叩いて、気合を入れた。

震えもおさまったようで、一安心だ。

どんどん逞しくなっているジェイを見ているだけで、心が洗われた。


 きっとリディア様も、幼い日の俺をこうした目で見ていたのだろう。


「始まったぞ!」


 シェスタの一声で、意識を超巨大ゴーレムへ戻す。


 憲兵隊の対大型魔物用の兵器と、アンとティナの魔法が攻撃を開始していた。

 魔法が加わり、砲撃に隙が無くなったことで、敵はその場に釘付けだ。


「よし、アタック! 俺に続けぇー!」


「「「わぁぁぁーー!!」」」


 一声を強く放ち、シェスタ、デルパ、ジェイが追従してくる。


……今、この布陣ではリーダー役を俺が買って出るしかないのは分かっている。

しかし俺はあくまで助っ人冒険者なので、こうしたでしゃばった真似はどうか、と思いつつそれでも確実に先頭に立って超巨大ゴーレムとの距離を詰めてゆく。


「奴の弱点は後頭部にある呪文スペルだ! よって膝を集中攻撃し、転がした後、そこを一気に叩き割るのだぁ!」


 俺は叫ぶのと同時に骨大剣を超巨大ゴーレムの脛へ叩きつける。


『GOWW!!』


 安物の骨大剣が砕けた。

同時にゴーレムの脛も一定の損傷を見せる。


 なに、こんなこともあろうかと骨大剣のストックならたくさんある!

あれはとってもお買い得な武器だからな!


「おお!」


『GOWW!!』


「ぬおぉーっ!」


『GOWWWWW!!』


「くらぇぇぇー!!」


『GOWWWWWW!!』


 渾身の一撃と後方射撃が合わさり、超巨大ゴーレムを大きく怯ませた。


 この調子で……! ふと我に帰った。


 さっきからこうほうではデルパが、シェスタが、そしてジェイがポカンとしていたのだ。


 まずい! 俺はあくまで助っ人なので、ここで出しゃばるのは!

 

 ちょうど、超巨大ゴーレムがこちらを睨みつけてくれている。

これは、絶好のチャンス!


「ぐ、ぐわー!」


「「「ノルンっ!!??」」」


 こっそり障壁を展開しつつ、敢えてゴーレムのデコピンを喰らって吹っ飛んだ。


「す、すまない! 今、やったような雰囲気で頼むぞ、お前達!」


「「「りょ、了解!」」」


 慌てた様子でデルパ、シェスタ、ジェイの三人は超巨大ゴーレムへ突っ込んでゆく。


 やれやれ、やらかしてしまうところだった。

戦いになると熱くなり、やり過ぎてしまう……リディア様、この悪癖がまだ治っていないようです。

今後の精進いたします。


「おにぃさぁぁーん! 大変だよぉぉぉー!」


 と、空から箒にまたがったティナが舞い降りてくる。


 すごく焦っていると見てとれ、気持ちを引き締め直す。


「どうしたか!?」


「なんかね、戦いの匂いに釣られて他の魔物も出てきちゃった! 援護部隊が危ないよー!」


「なんと! 行かねば! 案内頼む!」


「がってん! さぁさぁ後ろに乗って!」


 ティナに促され、彼女の箒の後ろへまたがる。

途端、魔法の箒は急発進。

さすがの俺でも振り落とされそうだったので、非常に申し訳ないが、ティナの腰へギュッと抱きつく。


「ふふ……んふふ……一歩リードっと」


「何か言ったか!?」


「なーんでもなーい! さぁ、お兄さんこの下だよ!」


「承知した!」


 骨大剣を背中から抜き、箒の上から飛び降りた。

そして着地と同時に魔物の大群目掛けて、大剣を振り落とす。


 真下に居たオークは粉微塵に吹き飛び、衝撃は地面を激しく穿つ。


「待たせたな! 皆のもの!」


「来た! ノルンさんが来たぞぉ!」

「これで百人力だぁ!」

「ノルン殿を中心に陣形を立て直せぇ!」


おいおいおいおいおい……なぜ俺が中心なのだ。

俺はあくまで助っ人であって……


「さぁ、ノルン殿! ご指示を!」


 分隊長よ、俺はあくまで助っ人……などとわがままを言ってる場合ではなかった。

体制を立て直した魔物の軍団がこちらへ一斉に突撃してきている。


「ええい! 右翼、左翼の軍団はわずかに回り込み挟撃、中心部隊は俺に続けぇー!」


「「「「「おおおー!!!」」」」


 かくして俺は衛兵団を率いて、魔物の軍団と正面からぶつかり合った。

当初は、乱戦に陥り拮抗していた。

しかし、左翼と右翼の軍団が挟撃を開始したことにより、徐々に魔物の軍団を押し返してゆく。


「東に魔穴発生! 新しい魔物が出てきます!」


 まずい状況だ。

これ以上敵が増えてしまっては、さすがに押し切るのは難しそうだ。


 どうする……確かに俺が力を解放すればなんとかはなるが。

しかし俺はあくまで助っ人冒険者で、主役は彼ら衛兵団で……


 その時、背後から勇ましい声の数々が響いてくる。


 城壁の上からロープを伝って降りてきていたのは、ヨトンヘイムが誇るもう一つの戦力:冒険者!


「宝の山だ! 衛兵団なんかに負けんじゃねぇぞぉ!!」


「「「おおー!!!」」」


 ヨトンヘイム自慢の冒険者軍団は、衛兵団に混じって魔物との戦闘を開始する。


 グスタフ、そしてリゼさんありがとう!

やはりヨトンヘイム冒険者ギルドのスタッフは優秀だ!


 さて、こちらはこれで大丈夫だろう。

助っ人でしかない俺は、そろそろお暇を……


「こんなところに! 師匠、たいへんだぁー!」


 今度は随分とボロボロになったジェイが現れたのだった。


「どうかしたのか?」


「早く戻ってきてくれ! シェスタさんもデルパさんも限界なんだからぁ!」


 やはり三人にはまだ荷が重い戦闘だったか……


 俺はジェイに先導されて、慌ただしく前線へと戻ってゆく。


 シェスタもデルパも必死になって超巨大ゴーレムの周りを飛び回り、攻撃を仕掛けている。

だが、相手が大きい、そして非常に硬いことからまともなダメージを与えられていないらしい。


 そのため、超巨大ゴーレムはわずかながら、しかし確実にヨトンヘイムの城壁へ迫りつつあった。

早急に手を打たなければ、取り返しのつかいことになりかねない。


ーーもうこの状況で、自分は"助っ人"などと、いうのはやめにすることにした。


 そして俺はリゼさんと約束をしたのだ。


 必ずこの難局を乗りきり、ご褒美としてリゼさんに、俺のためにお休みを取ってもらうのだと!


「ノルン!」


「分かっている。ここは俺に任せるんだ!」


 地を蹴り、超巨大ゴーレムとの距離を縮めてゆく。

目の前では、シェスタとデルパの二人が、ゴーレムの発する風圧によって紙切れのように吹き飛ばされていた。

丁度、進路上に二人が降ってきたので、抱き止める。


「き、貴様……?」


「ガウゥ……助かった……」


「二人とも、初心者ながらよくここまで頑張った。今日の訓練は合格。あとは俺に任せてゆっくりと休んでると良い!」


 二人を地面へそっと置く。

そして再び、超巨大ゴーレムへ向けて駆け出してゆく。


 接近に気づいた超巨大ゴーレムが巨腕で俺を叩き潰そうと、振り上げる。

だが、動きがかなり遅く、避けるのは造作もないことだった。

おそらく、ここまで皆が頑張った成果が出ているからだろう。


 だからこそ、俺は易々とゴーレムの腕の上に飛び乗ることができた。


「おおおおーーー!!」


 勢いで一気にゴーレムの上を駆け抜けてゆく。

ゴーレムはくすぐったそうに身じろぎをするだけで、それ以外の行動ができずにいる。


 俺はゴーレムの背中を思い切り蹴り、空高く舞い上がった。

 骨大剣を振り上げ、魔力を一気に流し込んでゆく。

刹那、刃から黒い炎が噴き出した。


 これぞリディア様より、受け継いだ奥義が一つ!


「黒炎斬っ! これで終いだぁぁぁーっ!!」


 剣を振り落としたのと同時に、黒色の炎が超巨大ゴーレムの後頭部を包み込んだ。

炎が岩肌を焼き、そこで深く刻みつけられた呪印を焼失させてゆく。


『GOWWWWW NNNNNN!!!!』


 全ての呪印が消え去り、超巨大ゴーレムは稲妻のような断末魔をあげた。

そして巨体がガラガラと崩れ出し、ただの石つぶてへと戻ってゆく。


 俺はその残骸の上へ、スッと着地する。


 数瞬、静けさが流れた。


 しかしやがてーー


「「「「「わぁぁぁーー!! やったぞぉーー!!!」」」」


 空を裂かんばかりの歓声がそこら中から上がった。


 生き残った魔物たちは、その歓声に気圧されて撤退を余儀なくされてゆく。


 そしてこの場に集う誰もが、魔物になど目もくれず、俺のところへ集まってくる。


「「「「「オオ〜! ノルン〜! オオ〜!」」」」」


 なんだかよくわからない、歌を歌い始めたぞ。

しかもみんな揃ってピョンピョンと縦方向に跳ねている。

なんなんだ、これは……しかし、悪い気はしない。


 だが!


 俺は皆に寄り添い、そっと助っ人をする助っ人冒険者。

こうして目立つのはどうかと……


 とはいえ、興奮を感じていない訳ではなかった。


 まるで現役勇者だった頃に戻ったかのような錯覚さえ覚えている。


 今日は、特別だ。


 特別ということで……


「うおぉぉぉー! ゴーレム、討伐したぞぉぉぉ!!」


 俺が骨大剣を掲げて声を張り上げた。

すると、謎の俺の讃える謎の歌は更に熱を帯びてゆく。


 たまにはこうして昔の感覚を思い出すのも悪くはない。


 うむ、やはりこういうのはなかなか気持ちがいいものだぞ!


 

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