第19話 超VIPな三人組の新人冒険者たち


「あ……! ノルンさん! お久しぶりです!」


「あ、ああ。久しぶりだな……」


 久々にギルドの受付カウンターへリゼさんの姿を見かけたので声をかけたが、まさかここまで喜んでくれるとは……

そして俺自身も、彼女と久々に会えたことに内心、昂りを感じている。


「最近、調子はどうですか? いっつもお忙しいみたいですけど……」


「おかげさまでな。今も、助っ人の帰りだ」


 ここ最近は助っ人の依頼が多く、こうしてギルドへ立ち寄る場面がめっきり減っていた。

更にリゼさんもシフト勤務らしく、受付にいないことも良くある。

結果として、こうしてお互いに顔を合わせて言葉を交わすのは1ヶ月ぶりだ。


「また、前みたいにお食事をご一緒できればいいですねぇ……」


 リゼさんは、少し寂しそうにそう呟く。


 俺とて同じ気持ちだ。


 こうして今の俺があるのは彼女のおかげだ。

そしてどこか、彼女にはリディア様に似ているところがあって、目が離せないでいる。


「ノルンさん? どうかされました?」


「あ、いや、むぅ……」


 胸の大きさ以外、リゼさんはリディア様に似ているとは言い難い。

しかし何故か俺は、出会った時から今日までずっと……彼女へリディア様へ抱いていたような、不思議な感情を抱いている。


 気が強く、しっかりしていて、それでいて何気に優しく、一緒にいるといつも楽しい、嬉しいと感じられるリゼさんという女性。


 もう二度と彼女のような人を失いたくはない。

リディア様の時に味わった屈辱はもう懲り懲りだ。

それに、今の俺はあの時の、床下で妹分のレンを抱きしめつつ怯えていただけの俺ではない。

 そんなことを思わせるほど、リゼさんの存在は俺の中で大きくなっている。


 こんな感覚は本当に久々だった。そろそろ”勇者の祝福"の影響から抜け出し、人としての感性を取り戻しつつあるようだ。

リディア様以来のことだ。そしてその後、俺はすぐに勇者となったので……だから、この感覚を抱くのは、リゼさんが2人目である。


「な、なんですか、さっきから私の顔をじぃっと見て……用がないならカウンター開けてもらえませんか? 他の冒険者さんに迷惑ですし……」


 棘のある言葉だ。しかしその棘も表層的なものでしかないと感じられる。

しかし、このままぼぉっとしていては、確かにリゼさんの業務妨害になってしまう。


「リゼさん……!」


「は、はい?」


「えっと、なんだ、その……」


 どうしてこんな時に吃ってしまう。

こんなヘタレではリディア様に叱られてしまうではないか!

ここは、元勇者としての、勇気を振り絞ってーー


「こ、今夜その……久々に食事など、どうだ?」


「えっ……? でも、なんにもご褒美になるようなことは……」


「久々に会った瞬間、君と時間を過ごしたいと思った。ゆっくりと話をしたいと思った。だから、迷惑でなければよろしく頼む!」


 洗いざらい本心を暴露した。

実際、俺の心臓は、邪竜討伐へ向かう時以上に、バクバクしている。


「……い、良いですよ。今日は早番で夕方上がりなんで……」


 栗色をした髪の間から、ちらっと赤く染まったリゼさんの耳が見えた。

ややそっぽを向かれているが、なんとなく拒絶ではないような気がする。


「ありがとう! では夕方頃、久々に黒猫亭へ……」


「あーーっ! やっと見つけた! おにぃーさぁーん!!」


「ぬおっ!?」


 突然、転移魔法でティナが現れ、いきなり肩に抱きついて来たのだった。


「な、なんだ急に! 今は大事な話の途中だったのだぞ!?」


「いやぁ、座標指定を適当にしたらこうなっちゃって! あは!」


「ぬぅ……いいから、早く離れろ……」


「おー! 師匠!」


「ま、待ってよ、ジェイくーん!!」


 今度は人混みを掻き分けて、ジェイとトーカが現れた。


「師匠ひっどいじゃん! 俺になんも言わずにどっか行っちゃってさ!!」


「海竜の討伐で忙しくてな。すまん。トーカも変わりないか?」


「はいっ! 頑張ってます! ジェイくんと一緒に!」


 ふふ、相変わらずジェイとトーカはラブラブなようだな。

俺ももっとこの2人を見習わなければ!


「なぁなぁ、ノルン! 久々に依頼一緒にやろうぜ!」


「あっ! あたしもそれ乗った!」


 おいおい、ジェイにティナ、勝手に話を進めるな……


「あはは……人気者ですねぇ……」


 やはりリゼさんは、結構寂しそうに苦笑いを浮かべている。


 どうにもやるせない表情をしている。


 仕方あるまい。彼女との久々の逢瀬なのだ。

ここは1発ガツンと、ジェイとティナに"今日はダメだ!"と……


「いた! お前ちょっとこっちへ来い!」


「ぬぉ!? グ、グスタフまでどうしたぁ!?」


「緊急事態なんだ! お前じゃなきゃ頼めない仕事なんだ!」


「なんだそれは!?」


「良いから黙ってついて来い! ギルドマスター命令だっ!」


 グスタフは俺のことをグイグイ引っ張ってゆく。

どうやら自強化魔法さえも使っているらしい。

今の俺に、グスタフを振り払うことは無理らしい。


「リ、リゼさん! 今夜は必ずっ! ま、待っていてくれぇー!」


「あはは……ご無理なさらずー……はぁ……」


「そんなことを言わず! 本日の夕刻、いつもの店で! 多少残業になっても、待っているからな!」


 ああ、くそおぉ! なんの仕事が知らないが、今日は夕方には終わらせてもらうぞ、必ず!


 そんなこんなで、俺は冒険者ギルドの奥にある、小会議室群へ連れてゆかれた。

ここは主にパーティーが作戦を練る際に貸し出される冒険者むけの無料スペースだ。


「ちょっとこの部屋の中を覗いてみてくれ。俺が焦ってる理由がお前ならわかるはずだ」


「覗きとは……あまり良くない趣味だと思うが……」


 念のために認識阻害魔法が込められた指輪をはめた。

そして扉を薄く開いて、中を覗き見る。


……たしかに、これは一大事だ。


「で? こうやって仲良くお部屋にこもって何話すってんだよ、くそエルフ」


 非常に小柄で愛らしい容姿で、ドワーフの魔法使いで、更に口が悪い……この娘はもしや、アシマ鉱人帝国の"アン・アシマ王女殿下"!?


「吠えるな、ちんちくりんドワーフ。奇しくも我らはこうして集った。ならば思案したのちに動き出すのが得策な故に、今後のことを思案しているのだ」


 長身で美しく、エルフの剣士で、この小難しい話方をするのは……間違いない、バルカ妖精共和国最高議長の娘"シェスタ・バルカ嬢"!!??


「どうでもいい……我、腹が減った……早く飯ぃ……」


 しなやかな体つきで、可憐な容姿で、竜のような立派な尻尾持ち……なんてことだ、ド・パイ竜人族族長のご息女"デルパ・ド・パイ様"ではないか!!!???


「これは一体どういうことだ……?」


 俺はそっと扉を閉めると、小声でグスタフへそう聞く。


「さっき、あの御三方が徒党を組んでうちのギルドへやって来たんだ。んで、急に冒険者をやらせろとか言い出してきて……」


「各代表への報告は?」


「したさ、しかも大使館経由じゃなくて直接……そしたらさ……」


「そしたら?」


「いずれのクソ親ども! ……コホン! 代表達は口を揃えて"娘のことをどうかよろしく頼む。嫁入り前なのでくれぐれも傷物にはしないでくれよ!"って、あっさりオッケーしやがってさぁ……」


「むぅ……」


 各国の最高責任者で、更に親が了承を出したというならば、さすがのグスタフにも拒否権はないのだろう。

しかし、大使館を経由せず各国の代表と直接話ができるとは……相変わらずグスタフは計り知れない男だ。


「そこでだ、当ギルド1番の助っ人冒険者であるノルンにギルドマスターとして命じる! しばらくの間、連中の助っ人としてパーティーに加わること! 良いな!?」


「良いも悪いも、マスターからの指示だ。俺に拒否する権利はない……その依頼承った!」


ーーいずれの御令嬢と、俺は勇者ノワール時代に戦いを共にしたことがあった。

彼女達は、そこらの冒険者よりも有能で、戦技に優れていることはよくわかっている。

なにせ、対魔連合から"戦乙女ヴァルキリー"の称号を授与している位だ。


(だが万が一のこともある。何かあってはグスタフの面目は丸潰れ……それに……)


「いつまで考えてんだよ、くそエルフ! これだからエルフってのはトロくてイライラすんぜ!」


「むっ! ドワーフこそ、良く考えず、すぐにそうしてカッカするのが良くないと思うが!?」


「ンガァァァ!! 腹減ったぁぁぁ!! お前ら喰っちゃうぞぉぉぉぉ!!!」


……対魔連合を組んでいるものの、元々エルフ、ドワーフ、竜人はあまり仲がよろしくはない。


 この三人をそのまま放置するのは、かなり、いや絶対にまずいはずだ。


 だが今日の俺は忙しい。

ならば……!

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