第7話 助っ人冒険者ノルンvs生意気上位パーティーのロック&ガンツ


「おはようございますノルンさん!」


「おはよう」


「今日から初日です! がんばりましょう!」


「ああ」


 今日から俺はヨトンヘイム冒険者ギルド所属の"助っ人冒険者"としての生活をスタートさせる。

正直、何から始めたらよいかよくわかってはいない。

しかし契約した以上、がむしゃらに一生懸命に働くだけだ。

 ご覧くださいリディア様、俺の新しい人生を!


「本日ノルンさんに請け負っていただきたいのはこちらです」


「ふむ……ベノムフラミンゴの討伐支援と……」


 ベノムフラミンゴは主に中級者向けの危険度Cクラスの魔物だ。

飛ぶことはできない大型恐鳥類の一種で、動きが素早く、口から吐き出す毒液が厄介な相手だ。


「参加パーティーは銀翼騎士団になります」


「ふむ、ここでも上位クラスのパーティーだな?」


「はい! しっかり勉強してくださってありがとうございます!」


 リゼさんに褒められ、割と嬉しい俺だった。

優しそうだがどこか芯のある声で、さらに胸が大きな女性に褒められるとまるでリディア様を思い出す。


「しかし、彼らはこのギルでも1位、2位を争うパーティーのはずだ。ベノムフラミンゴ程度で俺の支援がいるのか?」


「……実はノルンさんに警戒していただきたいのは、こっちの方なんです」


リゼさんは周りにわからないように、俺へ魔物の手配書を見せてくる。


「デスドラゴン……なんだこいつは?」


 おそらく地龍と大地の覇者を二分する恐竜に属する個体なのだろう。

さしずめ、体表が黒く染まったティガザウルスの亜種といったところか。


「ティガザウルスとよく似ていますけど、危険度は段違いです。先日、村が一つこの魔物に滅ぼされたとか……」


「だから死竜デスドラゴンか」


「はい。マスターの命令で"古代の岩場"へ行くパーティーにはこの騒動が落ち着くまで最低5名以上のパーティーにするか、足りない場合は必ず助っ人冒険者を付けるよう通達しているんです」


「なるほど。ならば、俺は参加という体で、デスドラゴンから銀翼騎士団を守れば良いんだな?」


「はい。ただ一つ問題が……」


 リゼさんはデスドラゴンの時以上に、言いにくそうな顔をした。


「"銀翼の騎士団"の方々は助っ人冒険者の参加が不要っておっしゃってるんです。今回の施作は冒険者ギルドマスター委員会での決定事項ですし、あの人達、受注最低人数を満たしていないのに"自分達は強いからなんとかしろ"の一点張りで……」


 銀翼の騎士団は自分たちの実力に相当な自信があるのだろう。

その気持ちはなんとなくわかる。

俺もリディア様から、初めて1本を取れた日には自分が"最強"と思い込んだものだ。

……翌日、あっさりとコテンパンに叩きのめされ、散々泣かされたのだが……


「わかった。なんとか説得をして参加するとしよう」


「あ、ありがとうございます! いきなり厄介なお仕事を振っちゃってごめんなさい……」


「いや、構わん。それでは」


 リゼさんに見送られ、ホールへ踏み出す。

そしてすぐさま、お揃いの白銀の装備をした目立つ男女のパーティーを発見する。


「君達が噂の"銀翼の騎士団"だな?」


「あんたは?」


……確か、彼は銀翼の騎士団の頭目【アルブス】

剣士職でランクはB +。

他に男性戦士2名、女性魔法使い1名で、それぞれBランク。

やや攻撃に偏った陣容ではあるが、悪くはない。

ベノムフラミンゴの討伐ならば、楽勝であろう。


「ギルドより君たちへ随行するよう依頼を受けた助っ人冒険者のノルンだ。よろしく頼む」


……誰も挨拶を返してきてはくれない。

最も予想通りではあったが。


「だから、俺らに助っ人冒険者なんていらないっての! そうだよな、みんな!」


 リーダーのアルブスのいうことにメンバーは一斉に頷く。

そして俺へ、訝しげな視線が寄せられた。


「だいたいあんた、助っ人冒険者なんてできるのかい? そんな初期装備でさ」


 現在、俺はヨトンヘイムギルドから支給された、レザー装備一式で身を固めている。

本当はもう少し上等な装備で固めたいのだが、グスタフが"周りと合わせてくれ!"と頼まれ、今に至っている。


「問題ない」


 俺はキッパリとそう言い放つ。

するとアルブスたちは失笑を上げるのだった。

全く、いきなり人のことを笑いものにするだなんて失礼な連中だ。

リディア様ならきっと、おしりぺんぺんの刑に処していた筈だ。


「まぁ、いいや。じゃあ、あんたがその装備でコイツに勝てたたら話ぐらいきいてやんよ」


 アルブスはそういうと、鋼の重厚な鎧を装備した2人の戦士が前に出る。

ふむ……アロンダイト装備一式か。彼らは実力の分、相当儲けているのだろう。


「表へ出な」


「鋼の兄弟愛で結ばれた俺達!」


「「ロック&ガンツがお前を捻り潰す!」」


 どうやら、この2人の戦士はとても仲の良い兄弟らしい。

兄弟の仲が良いのはとても好ましいことだ。

俺にも冒険者をしている妹がいるから、彼らの気持ちがよくわかる。


 そういえば【レン】は俺が勇者をクビになったことを知っているのだろうか……ちゃんとご飯は食べているだろうか……あったかいところで眠れているだろうか……変な男に引っかかっては……いないか、レンのことだし……

所在がわかれば文の一つでも出せるが、あの子はいつも元気よく大陸中を飛びわまっている。

どうしたものか……


 と、そんなことを考えながら歩いていると、俺はいつに間にか集会場に併設されている訓練場の広場に達していた。

いつの間にやら周囲にギャラリーが集まっている。

あまり大勢に見られていると恥ずかしいのだが……


「おい、なにやってんだよ?」


 音もなく現れ、俺の肩を肩を叩いてきたのは、ヨトンヘイム冒険者ギルドのマスターで、友人のグスタフ。

 

「お前の作った制度に従って、彼らへ声をかけたところ喧嘩を申し込まれた。俺が勝てば、素直に随行を認めるらしい」


「あのなぁお前……」


「やはり出しゃばりすぎたか……」


「やり過ぎんないよ?」


 グスタフはそう耳打ちをしてくる。


「承知している。武器を使うつもりはない」


 俺が構えを取ると目の前のロック&ガンツ兄弟が失笑を上げた。

ギャラリーもざわつき始める。


「にいちゃん、みろよアイツ! 俺らと素手でやり合うつもりらしいぜ!」


「舐めやがって……おい、【ティナ】! さっさと開始の合図をしろ!」


 兄のロックがそう叫ぶと、銀翼の騎士団での紅一点である女魔法使いが俺たちの間に立った。

 銀色の髪を左右で2本に結った、割と可愛らしい娘だ。歳はレンと同じぐらいだろうか?


「じゃ、じゃあ、始めるよ! レディ…ゴォー!」」


「「ぬおおぉぉぉーー!!」」


 ロック&ガンツ兄弟が、スパイク付きの肩アーマーを突き出しながら、突進を仕掛けてくる。

覇気も良し、戦士らしいパワーと良いスピードだ。

悪くはない。しかし!


「「ーーッ!!??」」


 ロック&ガンツ兄弟が砂塵を巻き上げながら急制動をする。

目の前から突然、俺の姿を消したからだ。

 俺は衝突の寸前、スパイクを掴んでその反動で飛び上がる。

そして戦士兄弟の背後を取った。


「ふんっ!」


「「アガッーー!!??」」


 魔力を溜めた両腕を突き出し、戦士兄弟の背中へ叩きつけた。

俺が体躯で勝る戦士兄弟をあっさり突き飛ばしことに、ギャラリーはどよめきをあげている。


「くそっ、舐めやがっーーッ!?」


「に、にいちゃん! 体うごかねぇよ! 俺の身体、どうかしちゃったの!?」


「案ずるな。お前達の魔力経路を一時的に麻痺させただけだ」


「「なぁーにぃー!?」」


「そのうち動けるようにはなる。今後の冒険者活動にも支障はない……多分。これぞ、我が師より賜った秘技! 経路麻痺拳パラライズスマッシュっ!」


 俺の宣言に、周囲の一同は相変わらず唖然としていた。

一撃必殺をしたのだから、拍手の一つも欲しいところなのだが……いや、まさかこれではまだ足りないと!?


 俺は急いで号令役をしていた銀翼の騎士団所属の女魔法使いティナへ向けて構えを取る。


「次鋒は貴様か!?」


「うえっ!? わ、私!?」


「女性だからと言って手加減はせんぞ! これは真剣勝負だ!」


「ちょ、ちょっと! 誰かこのお兄さんとめてぇー!!」


「はいはいはーい! そこまでですっ!」


 俺とティナの間へ割って入ってきたのは、リゼさんだった。

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