第3話 スカウト!


「「「「「わぁぁぁぁーーー!」」」」


「「「「「ブヒィーーー!!!」」」」


 城壁の外では既に、ヨトンヘイムの衛兵団とオークの集団が激戦を繰り広げていた。


 どうやらオーク側の強襲だったらしく、衛兵団は明らかに劣勢な様子だ。

救援が駆けつけるまでは持ちそうもない。


……冒険者たちは……やはりまだ集まってきていないか。


 仕方あるまい。同じ戦闘職でも、衛兵団と冒険者とでは"戦闘行為への考え方が違う"からな。


 とはいえ、このまま手をこまねいてるだけでは、ヨトンヘイムの住民に被害が生じてしまう。


"君の持つその大いなる力は、人々のために使え! 私との約束だ!"


 幼い日にリディア様から賜ったお言葉が蘇る。


……わかっております、リディア様。

俺は既に勇者ではありませんが、己の責務は果たしてみせます!


 俺は城壁の上から、装備を整えつつ、乱戦状態の地面へ舞い降りた。


「ブフォ!」


 早速俺の存在に気がついたオークの一匹が手斧を振り落とす。

しかし手斧の一撃は、左手に装備した丸盾バックラーで防ぎきった。


「まずは1匹っ!」


「ブハッ!」


 右手のショートソードでオークの喉を引き裂き、絶命させた。


 こうした人と魔物の距離が近い乱戦の場合は、刃渡りの短いショートソードを運用するのが有利だ。

俺はバックラーを前面に押し出しつつ、どんどん奥へと切り込んで行く。


 良いぞ、体がだんだん温まってきた!


「ひ、ひやぁー! 助けてぇー!」


 傍から助けを求める兵士の悲鳴が。

 俺はブーツの靴底で砂塵を巻き上げながら急制動をかける。

そして思い切り跳躍し、兵士とオークの間へ飛び込んだ。


「52匹ッ!」


「ブハッ!」


 オークの首を一撃で跳ね、絶命させた。

 助けた兵士は驚いた様子で、口をぱくぱくさせている。


「あ、あんたは一体……?」


「戦闘中にぼやぼやするな! 死にたいのか! 早く武器を持って、戦列に戻れ!」


「りょ、了解です! ありがとうございました!」


 男は槍を握り直すと、仲間たちのところへ戻ってゆく。

どうやら押され気味の衛兵団は俺よりも後方へ下がっているらしい。


 ならば大掃除をさせてもらうとするか!


 俺は自分の中に存在する魔力を練り上げた。

そして突き出した左腕へ、紅蓮の炎が沸き起こる。


「全てを焼き尽くせ、フレイムマグナムっ!」


 激しい熱を内包した火球が左手から打ち出された。

熱は過るだけでオークを激しい炎で包み込む。


「「「「「ブッハァーーー!!!」」」」


そして着弾した火球は、集団の中枢だったオークをまとめて吹っ飛ばした。


「今だ、全軍突撃ぃー!!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁーーー!!」」」」」


 つい、勇者だった頃のノリで指示を叫んでしまったが……まぁ、衛兵団はちゃんと従ってくれたからよしとしよう。


「ブフォぉー!」


 背後から重く大斧が振り落とされた。

俺は跳躍で回避し、すぐさま後ろを振り向く。


 なるほど、闘士ファイターオークもいたのか。

どうやらコイツがこのオーク集団の首魁のようだ。


 闘士は他のオークに比べて皮膚が硬く、刀剣類で傷をつけるのは難しい。

そして攻撃も、その一撃一撃が、幾ら俺であっても即死級の威力を持っている。

しかしーー!


「死に晒せ、豚野郎っ!!」


「ブフォッーー……!」


 金色の軌跡が闘士オークへ過らせた途端、血反吐を吐いて絶命した

 俺が右手に現出させたのは、収束させた魔力で形作った光の刃ーー「魔法剣ブライトセイバー」


 幾ら固い皮膚を持っていようとも、臓腑は同じでなし。

ならば、魔法の刃で中を焼き切ってしまえば問題ない。


 気がつけば、いつの間にか戦闘は終了していた。

どうやら衛兵団が大勝を収めたらしい。


 ふむ、これで一件落着か。

そろそろ行かねば、ミーちゃんオムライスを食べ損ねてしまう!


「お、おい、アンタは冒険者なのか……?」


「む?」


 なぜか衛兵団は俺へ不思議そうな視線を送っていた。


 確かに依頼もなしに、俺のような戦闘職が救援をするなど珍しいことだろう。


 しかし、今は衛兵団に構っている場合ではない。


「たまたまた通りかかったら諸君らが苦戦をしていたので加勢しただけだ。気にするな! それでは俺はミーちゃんオムライスを食べなければならないので失礼する!」


「あ、ちょ、ちょっと!!」


 俺は城壁を一っ飛びすると、街中へ戻った。


 リディア様と思い出の味である、ヨトンヘイムのミーちゃんオムライス!

食べ逃すわけにはいかん!! ランチタイムに間に合え!


●●●


「ふふ、これが……これが……くくくっ……!」


 黄金のふわふわ卵に、ゴロリとした見た目の特製ケチャップソース。

それで愛らしい猫の絵が描かれている。

黄色い卵の上に赤いケチャップで描かれているので、どうこからどうみても黒猫ではないのだが……だか、細かいことなど気にしない!

これこそ、大昔にリディア様がご馳走してくださった、ミーちゃんオムライスで間違いない!


「おお、これは……!」


 そっと添えられている卵焼きを割ると、チキンライスがトロトロの黄金に覆われる。

別添えのケチャップソースをかけ、卵とチキンライスをパクリと一口。


 優しい味わいと共に、優しい思い出が蘇る。


「美味しゅうございます……美味しゅうございます、リディア様……ううっ……!」


「な、泣くほど美味しいんですか……? まぁ、黒猫亭の"ミーちゃんオムライス"は看板料理ですけど……」


 女性の声が降ってきた。

泣き顔をみられるのは恥ずかしいので涙を拭ってから顔を上げる。


「君は確か?」


 先ほど森の中で幼地竜から救ったギルド職員だった。

たしか名前は「リゼ」だったか。


「ご一緒しても?」


「構わん」


 俺がそういうと、リゼさんは俺の正面へ座り込む。


「何故、俺がここにいると?」


「だって、さっきあれだけ、ミーちゃんオムライスを連呼してたんですよ。わかりますって」


「ふむ」


「なんでさっきは衛兵団の加勢をしていたんですか?」


「たまたまオークの気配を感じて飛び出したら、衛兵団が戦っていた。だから協力した。なにか問題でも?」


「いえいえ、問題どころか大助かりでしたよ。ほんと、貴方みたいな冒険者ばかりだったら良いんですけどね……」


 そういってリゼさんは苦笑いを浮かべる。


「仕方あるまい。報酬で動くのが冒険者、俸禄をもらっているから動くのが衛兵団だからな」


 極端に言ってしまえば、先ほどのような襲撃があった際、冒険者は依頼という形を取らないと動かないことが多い。

これが同じ戦闘職ながら、冒険者と衛兵の明確な違いだった。


「……ならなんで貴方は真っ先に飛び出したんですか? まだ依頼も出ていないのに……」


「師匠との約束があるからだ」


「約束?」


「俺のこの力は師匠から賜ったものだ。そして、師の教えは、この力を等しく皆のために使えということ。街や人々に脅威が迫っているのなら、何も考えずまずは動く。これが俺の生き方だ」


「ふーん、そうなんですか。ふふ……」


 何故かリゼさんは嬉しそうに微笑んでいる。

やがて意を決したかのように、パクパクオムライスを食べている俺を見据えてきた。


「なんだ?」


「貴方のような方をずっと探していました。どうか、ヨトンヘイムギルドのサービスである"助っ人冒険者"へ是非、登録をしてください! よろしくお願いいたします!」


 リゼさんは突然、その場で深く頭を下げた。


 なんだ?"助っ人冒険者"とは?

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