一章 五話
急いで家族の元へ駆け寄った。
「ねぇ…」
動かない家族をゆする。
「ねぇ!ねぇえ!!」
何度叫んでも激しく揺らしても反応はない。兄と姉、弟はもう既に死んでいた。
「いたい…たすけて」
聞き慣れた声。いつもは耳が壊れるくらい高い声だったけどこんな弱々しくなった声を聞いて胸が締め付けられた。
兄と姉の下に埋もれる声。隙間から細く白い手が赤く血塗られたまま助けを求める。
兄を押し、姉の腕を持ち上げ横たわる手を掴む。
「あぁ…!」
視界が滲む。
小さく小刻みに震える手は冷たかった。対照に俺の胸が熱くなる。と同時に溜めていた涙が溢れ出た。
俺の手の中の冷たくなった手を温めるかのように優しく一粒落ちる。
村のいじめっ子にいじめられても姉に川に流されても恥ずかしいからって家族の前では泣かないと随分前に封印した涙が。
「ねえ!死んじゃやだよ!」
叫びながら妹の胸に空いた穴に手を押し当て必死に血を止めようとした。
「血が、どうすんの…?どうしたら…」
けど、きつく抑えれば抑えるほど傷口から血が滲み出る。
「いたい…よ」
血が出てるせいだと思いさらにきつく抑えた。
「やだよ!このままじゃ死んじゃうよォ!」
「一人に…しないで…」
妹は痛いだろうに赤く腫れた目を細め、紫に染まった笑顔で囁いた。
「ーーー。」
その時、やっとわかった。
家族が死んだこと
俺は独りになったこと
俺は何も出来なかったこと
俺は弱い
ということを。俺の胸にも大きな穴がぽっかり空いた。そして
何も分からずただ大人のなすことを見ているしかなかった俺を呪った。
夢はよく場面が飛び飛びになる。次の俺は
誰のかわからない血の池に額をこすりつけ泣きじゃくっていた。
拳が砕けるまで地面を殴り続けた。誰を恨めばいいのかわからずに。
行き場のない形容しようのない感情を内に秘めて。
心をぐちゃぐちゃにされた後、しばらく部屋の中を彷徨い続けた。目の前にはいつもと変わらない家族がいた。
ここでよくご飯を食べた。
おかわりすると母が笑ってお米をよそってくれる。俺はその笑顔を見たくてお腹がいっぱいでもおかわりをし続けた。
「あらあら、今日は沢山食べるのね。お母さんのをあげるから」
「えー、ずるーい!わたしにもちょーだーい!」
「じゃお魚でいい?これで我慢してくれる?」
「…はぁい…」
「いいよお母さん、わたしのをあげるから」
ここでは兄弟とよく喧嘩をした。理由はさまざまで、
兄とは俺と家の手伝いで薪を持ってくる時、薪を俺にばっかり持たせて自分は斧だけだった。それに不満を言ったからとか。
姉と妹もよく喧嘩をしてた。
理由はよくわからない。多分、女同士のそういうあれだと思うけど。
こうなれば俺と兄は結託し仲裁しに行く。俺と兄が喧嘩してたらその逆。
今も兄弟姉妹のことを思い出すときは一番に喧嘩のこと。喧嘩が多かったけど決して嫌いじゃなかった。楽しかった…。
横暴でわがままだけど頼りになる兄
そんな兄すらも実はビビってた姉
母にべったりな末っ子の弟
わがままでめんどくさい妹
それを…
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