一章 三話
「ガタッ、ガダガタッ。ガダガダガダガダ」
扉が不快な音をたてる。
「大丈夫よ…。大丈夫!お父さんがすぐに戻ってくるからね」
またあの夢…。
「ガタッ! ダン!ダン!」
「おい!開けろ!」
これは俺の過去。家族が殺される時の…。
思い出したくもない。
忘れようとすればするほどより鮮明に脳裏をよぎる。
だが、忘れかけた頃にまた夢に出る。
一生俺に付き纏う呪い。
「ガダダンッダダッ」
雷とも思われるほどの大きな音と共に、雷神、風神のような屈強な兵士二人がヅカヅカと入ってくる。
俺はまだ幼く、兄弟姉妹と共に母の腕の中で震えていた。弟と妹は泣き、姉と兄は泣きはしなかったが震え怖がっていた。あんな強く頼もしかった兄が震えている。
俺はそんな兄を見て
「あ、これは異様なことなんだ」
「怖いことなんだ」
と理解した。
しかし、それだけで、心のどこかでなんとかなる、そう楽観的に見てた。と思う。
そんなのほほんとした俺と怖い現実を見ている兄弟姉妹たちを手いっぱいに抱きしめて
「大丈夫、大丈夫だよ。きっとお父上が戻ってきますからね」
と励まし続けてくれていた母。ずっと父は帰ってきていない。妹が生まれるころから。母は俺たちを勇気づけようとしてくれていたのか、それとも自分に言い聞かせていたのかはいまとなってはわからないが、まず初めに、母が死んだ。呆気なかった。
兵士は刀を持ち
「へへっ。殿様の命令なんでな。
とニチャァ…と口を鳴らし近づいてきた。母は顔だけ兵士に向け
「子供たちがいるんです!どうか、子供たちだけは!私はどうなってもいい!だから!」
そんなことを叫んでいた気がする。
「おい、なんでもつったか?おい、聞いたかよ!?こんな上物そうそういねぇぞ、女が枯れるまで俺のを一生咥えさせてやるよ、なぁ?」
豚兵士が鼻息を荒ぶらせる。
「おいおい、忘れたか。殺すんだよ」
歯の抜けた兵士が気だるそうな低い声で制す。
刀が抜かれる音がする。家族全員がビクッと体を反応させた。タシ、タシと草履が地面と擦れる音が近づいてくる。母の腕にギュッと力を込める。
「く、苦しいよ」
兄弟達とずっと母の腕でおしくらまんじゅうをしているように詰め込まれ外の状況がイマイチわからない。呼吸もできなくなってくる。
「や、やめてください。子供達だけでも!」
母の声が聞こえる。あんな叫んでるのは初めて聞いた。どこだ?俺が助けないと。もがきながら手で顔に引っ付いた誰かの服をを取っ払う。声が遠くなって行く。まって!俺が、助けるから!すると、服の隙間から覗く光を見た。
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【撫斬り】
戦場やその付近の非戦闘員や民間人、命あるもの全てを物にすること。まぁ皆殺しっすね!!
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