一章 二話
まだ歩き続ける。何時間、何日、何週間経っただろうか。
それともさっきからまだ一時間も経ってないのかもしれない。
わからない
わからない
もっと急ぎたいが雪が俺を離してくれない。
地獄の底から俺を引き摺り込もうとしてる鬼みたいに足首にしがみつく。
振り払おうにもそんな力は残ってない。
それでも足を前へだす。
死にたくない。
もっと早く移動がしたいがそんな時に急ぐのは愚策すぎる。
かといって遅すぎるのもだめだ。吹雪がくる。
今、吹雪かれたら確実に死ぬ。
戦の時よりも死を実感してる。
見た目は天国とみまごうほどの眩さ。
しかし、肌を刺す感覚は地獄そのものだった。
「ふぅーっ…ふぅーっ…」
下を向き何も考えずに歩いている。
考えることといえば寒いということだけ。
より自分が地獄にいることを実感させられる。
ゆっくり歩いてても疲れるもんは疲れる。
歩きながら気を失っていた。
突然急に黒い何かが視界に入った。
いままで静かにしていた心臓がちゃんと動いていることを主張した。
もうすっかり寝違えたように固まった首をゆっっくりとあげる。
痛い。
そこにあるのは以前の面影が失われた城の東に位置する
瓦がそこらかしこに散らばり
ここも雪に積もられて白い地獄の景色の一部と化していた。
家とも言える城がこんな無残な姿になり受け入れられない半面、かつての記憶の一部が蘇り胸が暖かくかんじた。
幸いまだ完全に崩壊したわけではなく楼門の二階部分、つまり室内だ。
そこはまだかろうじて原型をとどめていた。
屋根には多分雪の重さで空いた大きな穴がある。
そこからなら入れそうだ。
さっきまで人生に希望はないと悟っていたがもうそんなのは知らない。
希望が見える。
積もった雪が崩れそこへ行くための坂がもう出来上がっていた。
お言葉に甘えて使わせてもらおう。ただ気をつけなければいけないのがその坂は柔らかいのかどうかだ。
新雪ならまだ柔らかく足を取られ最悪全身埋まってしまう。
もし雪が溶け俺の死体を見つけたやつは弁慶がいたと勘違いをするのかもしれない。
想像したが笑えない。笑う気力がない。
そして雪が溶けまた固まった硬い雪ならば慎重に登ればいいだけ。
そろりそろりと手で支えながら四つん這いで坂を登って行く。
雪が晴天で溶けその水がまた凍り、を繰り返し坂はおろし金のような鋭利さを帯びている。
途中滑り顎を強打したが不幸中の幸いで雪が硬いことを身をもって実感できた。
もうやだ…痛い。
坂を登り切ったら屋根に空いてある大きな穴に飛び込む。
着地がうまく決まる。
「ガシャ」
ただ重いだけの鎧が音を立てる。雪が緩衝材になってくれた。中を見渡しながら進んでいく。ここは室内だが屋根の今入ってきた穴から冷風が吹き込んでる。
奥に扉が見えた。
別の部屋へ移動した方がよさそうだ。
うん。ここは完全な密室だ。もう雪の上で過ごさなくて済むんだ。
そう考えたら少し開放感で自由を実感した。自由ってなんて素晴らしいのだろう。
しかしこの部屋は暗い。格子窓があるが歪んでか半開きのまま動こうともしない。
半開きの格子窓のから覗くわずかな陽の光を頼りにそこらに散らばる木片を集め鎧の鉄と石垣から拾った石を擦り合わせる。
鉄が手にあたり少しばかりか手こずったが外から吹雪の音がする頃ようやく火を起こせた。
あぁ〜。暖まる!もうここから出ない!そう決めた。濡れた着物と凍った鎧を暖めようと脱ぐ。
凍えた手を火にかざし温もりを感じる。
いま命を長らえたことにより少し冷静になれた。
なんで、こんなことになってるんだっけ。そうだ。俺は戦をしていたんだ。
あの夜から。どのくらい経ったのだろう。
思い出そうとしても頭の中まで雪が積もったように真っ白だ。
暗い部屋の壁には橙色した光と黒い俺の影が揺らめいている。
壁の中にいるもう一人の自分に手を振ったり影絵をしてみたりする。
これは犬でこれがうさぎ。
子供がするようなくだらない遊びも今の俺には心地よい癒しになった。
これからのことなんか
明日の朝生きて起きられたら考えよう。
暖かい…。久しぶりの心と体が休まる時間。俺は意識が遠くなるなか眠りについた。
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