【連載版】「百合の間に挟まる女騎士は要らない」と言われて勇者パーティーを追い出されたぼくが辺境伯令嬢に拾われる話

畔柳小凪

序章

第X話 前奏Ⅰ 勇者様との百合デート

本編の前日譚、主人公が勇者パーティーにいた時の物語を3話に渡ってこれから掲載します。百合密度2割増し、糖度高めです。本編は1話からなので読みたい順番で読んでいただけると嬉しいです。

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 これは、まだ「ぼく」が「わたし」だった頃、勇者パーティーにいた頃の話――。


滅多にないお休みの日の、正午を少し過ぎた頃。わたしは宿の前で人を待っていた。


「アーリエルちゃんっ! 」


 いきなりわたしの待ち合わせ相手の一人――チェリーちゃんがわたしの右腕に飛びついてきた。かと思うと顔をすりすりし始める。チェリーちゃんは今日も元気だな、そう思うとわたしまで元気をもらったような気がして、つい顔がほころんじゃう。

 でも人前でこんな大胆なスキンシップしてたらもう一人の待ち合わせ相手が黙ってないんじゃ。そう一抹の不安を抱いていると。


「ちょっとチェリー、くっつきすぎじゃない? アリエルさんが困ってるよ」


 案の定、もう一人の待ち合わせ相手――ベリーさんがわたしに遠慮なく抱き着くチェリーちゃんのことをジト目で見つめていた。わたしに対してぐいぐい来る甘え上手なチェリーちゃんと違って、ベリーさんはクールで生真面目すぎるところがある。だからベリーさんからしたら小言の一つや二つ出てきちゃうんだろうな。


「仕方ないじゃん。一晩アリエルちゃんと違う部屋で寝てたんだよ? アリエルちゃん成分を補給しないとやっていけないじゃん」


「まったく君って人は……。そうやって今日のデ、じゃない、お出かけだって勝手に抜け駆けしようとして。ずるいよ」


 口を尖らせるチェリーちゃんを最初はたしなめていたベリーさんだけど、その顔は少しだけ赤みがさしている。

 ――ベリーさん、もしかしてチェリーちゃんのことが羨ましいのかな。



 ふとそんな思いが頭をよぎる。そしてわたしは、思いついたらすぐ行動するタイプ、わたしはチェリーちゃんに抱き着かれていない方の手でベリーさんの手をとって、互いの指を絡ませる。そんなわたしの行動にベリーちゃんは驚いた表情になる。


「別に困ってなんてないから大丈夫だよ、ベリーさん。そしてベリーさんもわたしの大切な仲間で、友達だから、こんな風に手を繋ぎながらお出かけしたいな。……ダメ、かな? 」


 やっちゃってから少しだけ自信がなくなる。でもベリーさんは伏目がちになりながらもわたしにだけかろうじて聞こえるくらいの声の小ささでぼそっと呟く。


「……ダメ、なわけないじゃん」


 その右手はわたしの手をぎゅっと握り返してくれて、わたしはちょっぴり安心する。




「せっかくのお休みの日なんだから一緒に過ごそう」


 そう提案してくれたのはチェリーちゃんからだった。その話を聞いてわたしがベリーさんも誘おうと言って、今日は3人でお出かけすることになった。

 チェリーちゃんはベリーさんが来ることになって少しだけ複雑そうな表情をしてた気がするけど、それは多分気のせい。だってチェリーちゃんはベリーさんと、わたしが2人と過ごした時間なんて比べ物にならないほど長く濃密な時間を一緒に過ごしてたんだから。だったらわたし達2人きりより、3人いた方が楽しいに決まってる。


 そう、チェリーちゃんとベリーさんはこの国が擁する人類側に2人しかいない勇者様。わたしと同い年なのに神から天命を受けた2人は物心つくときには2人揃って「王国最強戦力」として魔族との戦いに明け暮れていた。2人を取り巻く勇者パーティーの他のメンバーはごくたまに入れ替わったけど、2人だけはずっとパーティーに残り続けた。それは勇者パーティーである以上、当然っちゃ当然だけど。


 そして勇者パーティーメンバーの何度目かの代替わりに際してわたしが2人のパーティーメンバーになったのはつい1年前のこと。魔法騎士としての才能を見込まれて勇者パーティーのメンバーに選ばれたわたしはパーティーに入る前、少しだけ不安があった。


 わたしが物心つくときにはもう戦っていた2人を支えることができるのはわたしにとって、うんうん、王国にいる誰しもにとって栄誉なこと。でもだからこそ、本当に2人の力になれるのか、2人の「真の仲間」になれるのか、パーティーに実際に入る前は不安だった。


 そしてパーティーに入ってからのわたしは自分で言うのもあれだけど、かなり頑張ったと思う。もともとポジティブで物怖じしない性格だったけど、王国内では神聖視すらされる2人に対しても「わたしはあなた達の仲間になりたいし、友達になりたい」って最初からタメ口で明言して、実際に仲間に相応しい働きができるように努力した。


 その結果、最初はパーティーメンバーがいる時でもどこか2人で閉じていたチェリーちゃんとベリーさんは少しずつわたしに心を開いてくれた。今では休みの日も遊びに誘ってくれるようになって……感激が止まらないね!




「ルちゃん! アリエルちゃん! 」


 チェリーちゃんに名前を呼ばれてわたしは我に帰る。見るとチェリーちゃんは何かにご立腹なのか、頬をぷくっと膨らませていた。


「こんなに可愛いあたしとのお出かけなのに、あたしのことなんて上の空、ってこと? 」


「そ、そんなことないよ。ちょっと2人とのこれまでのことを思い出してたら、しんみりしちゃって。わたし達、お休みの日に一緒に遊びに行けるほどの中になったんだなぁ、って改めて考えたらね」


わたしがそう言うと、チェリーちゃんはともかく、ベリーさんまで頬を赤らめる。わ、わたし、そんな恥ずかしいこと言っちゃった?


「ええっと、まずはどこに行くんだっけ」


わかりやすすぎるベリーさんの話題逸らし。でもわたしもちょっと気まずくなっちゃってその作戦に乗っちゃう。


「まずはわたしが魔法学園生だった時に通ってた喫茶店で遅めのお昼ご飯を食べたいと思います! 」

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