生きているぬいぐるみ

七迦寧巴

第1話 生きているぬいぐるみ

 その町には一軒の不思議なぬいぐるみ屋さんがあります。


 ぬいぐるみ屋さんといっても売り物はひとつもありません。そのかわり此処では、図鑑でしか会えない動物たちのぬいぐるみで遊ぶことができます。


 子供たちはキリンやゾウの背中に乗ったり、ラッコと一緒に寝転んだり、ライオンのたてがみをブラシで梳かしたり、それぞれ楽しそうに過ごしています。


 店主のお爺さんは、子供たちが遊んでいるのを、目を細めて満足そうに眺めていました。


 あちらでは、女の子が白いウサギに囲まれて昼寝をしています。

 足がリズム良く動いているので、ユキウサギたちと雪原を跳んでいる夢を見ているのでしょう。

 ほら、こっちではコアラと一緒に木の上で昼寝をしている子もいますよ。


 ぬいぐるみは動くことはないけれど、子供たちは想像力を広げて動物と触れ合い、そして夢の中では自由に駆け回る動物たちと楽しい時間を過ごすのでした。


 日が暮れるとお店には仕事帰りの大人がやってきます。

 夜行性の動物たちのぬいぐるみを愛で、そっと撫で、今日一日の疲れを癒し、家路につきます。

 獰猛なスナネコのぬいぐるみも、どことなく撫でられて気持ち良さそうです。


 お店が閉まったあと──

 今晩もお爺さんはせっせと野生動物たちをぬいぐるみに変えていきます。

 昼寝をしていた女の子の周りに居たユキウサギも、もちろん絶滅しかかっている動物。

 地球温暖化で雪が少なくなったので、冬の白い毛が捕食者から狙われやすくなったのでした。


 この世界は動物たちにとって生きづらい世の中になりました。


 でもお爺さんの手によってぬいぐるみにされれば生きていけます。お爺さんの手によって眠りについた動物たちは、決して死んだわけではありません。


 いつの日か人間たちが、この世には人間以外の生き物が必要なのだと気づいたとき、此処に居るぬいぐるみ達は目覚めます。


 ──その日はいつかは分かりませんが。

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生きているぬいぐるみ 七迦寧巴 @yasuha

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