カンスト・スライムを追え
おてて
第1話 一瞬
「カンスト・スライム?」
俺が聞き返すと酒場の中は一瞬にして静まり返った。
「・・・ああ、カンストさ。経験値無限大がカンスト・スライムなのさ。」
酒場にいた剣士マヌカは力強くそう答えた。
「そんなに強いスライムがいるのか?」
「いや違う、強さは普通さ。倒した時に得られる経験値がとんでもない量なのさ。」
なるほど話を聞くうちにカンスト・スライムというものが分かってきた。
強さは普通のスライムと同じぐらいだが倒したパーティの経験値がカンストする。
勇者、戦士、魔法使い、どれでもレベルが一瞬で最強になるわけだ。
ただし老いた冒険者はこの強制カンストに体が耐えられない。
つまり老いた者がカンスト・スライムを倒すと死んでしまう。
古い酒場の中は午後の陽光が差し込み夏のように蒸し暑い。
まだ数人の客がいて冒険の相談をしている。
カーテンが揺れているが風は無い。
俺は少し寄っただけですぐに立ち去る予定だった。
「そう言えば、カンスト・スライムを倒した女僧侶ミントが帰ってくる。
彼女は若くして僧侶のレベルがカンストしている。
たしか今日の午後、帰郷する予定だったな。
一緒に見に行くか?」
俺は他にあても無いので剣士マヌカと共に酒場をあとにした。
村の中央広場には人だかりが出来ていた。
中心にはまだ10代の少女が立っていた。
「彼女はミント、この村の出身でな。
15歳でカンスト・スライムを倒したのさ。
その時のパーティは両親と娘の三人でな。
ミントがとどめを刺してレベルがカンストした。
それから彼女のみが王都に呼ばれてドラゴン討伐で大活躍さ。」
そう剣士マヌカが教えてくれた。
嫉妬した野次馬の男が弓を引いたのが見えた。
危ない!
俺はとっさのことで声も出なかった。
何か言おうと口を開いた瞬間。
弓を引いた男が石化していた。
白い彫刻のように。
凄い。
少女ミントがやったのか。
カンスト僧侶であるミントが口を開いた。
「私の防御力では弓矢に射られてもダメージは受けません。
しかし、もしも矢が皆さんに当たるとケガをします。
ですからあの男には石になってもらいました。
2週間で石化は自動的に解けるようにしています。
ただ、危ないのでコレは折っておきますね。」
少女ミントは石化した弓と矢をポキンと折ってその場を去った。
「これから両親に会いに行くのかな?」
俺が何気なくつぶやくと、剣士マヌカは顔を曇らせて間をおいて答えた。
「ミントとパーティを組んでいた両親はすこし高齢でな。
無限の経験値を分け合ったというわけさ。
そして強制カンストに耐えられずに、どちらも亡くなったのさ。
だからミントのみ王都に呼ばれたのさ。
今回は親戚に顔を見せに帰って来たはずさ。」
野次馬が立ち去った広場には一足の子供の靴が片方だけ落ちていた。
誰かの靴が脱げたのか、捨てたのか、それは分からない。
靴は左右セットであるべきだと強く感じた。
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