第19話 巫女と神童


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金子匠: さらわれた人たちは、たぶん女王のところにいる


金子匠: 〝糸〟でぐるぐる巻きにしてから捕食するから、結構時間がかかるはず


金子匠: まだ無事だと思うけど、急いで!


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 コメントを信じて、俺たちは配信を繋げたまま〝地下坑道ダンジョン〟を先へ進む。

 今は情報をくれる視聴者が命綱だ。


 しばらく走ると、黄色・・の妖怪が出現。


『ピギィーッ!』


「! 出た、〝土蜘蛛つちぐも〟!」


「でも、なんか小っちゃくない!?」


「たぶん女王を守る兵隊だ! 突破しよう!」


 続けざまに現れる大量の〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟。

 その内の5匹ほどが、俺目掛けて襲い掛かって来る。


「――邪魔しないで」


 右手の拳を握り締め、踏み込み、5匹に向けて殴打パンチを叩き込む。

 直撃の瞬間に魔力を流し込み――〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟たちは内側から爆発。

 ほぼ同時に、バラバラになって弾け飛んだ。


『ピギィ!?  ピギィーッ!』


 仲間が瞬殺されたのを見た〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟たちは、尻尾の先端から〝糸〟を放出。

 遠方からこちらを拘束しようとしてくるが、


「火が弱点なんでしょ! いくよっ、出雲流・火符魔法【火之迦具土ヒノカグツチ】ッ!」


 構えていた御神符を一斉に投擲。

 すると御神符に宿っていた魔力が蒼い火炎に変換され、〝糸〟と激突。


 〝糸〟は勢いよく引火し、放出した〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟たちすらも燃やし尽くした。


「凄い……! あずさお姉ちゃん、こんなことできたんだ!」


「ま、まあね……! これでも巫女ですから……!」


 ぜぇぜぇと早くも息を切らすあずさ


 俺みたく魔力を直接ぶつける方法と違って、魔力を魔法に変換するのはロスが大きい。

 余分に魔力を消耗してしまうため、無駄撃ちは厳禁。


 ……この調子じゃ、女王のところへ辿り着く前にバテちゃいそうだな。

 俺がそう思ったと同時に、〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟のさらなる増援が到着。

 ざっと30匹ほどに増えてしまう。


「嘘、まだこんなにいるの……!?」


「……仕方ない。あんまり目立ちたくなかったけど――」


 俺は肌の内側に抑え込んでいた魔力を、両手足へ集中。

 道を塞ぐ〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟の大軍へ飛び込んだ。


 1、2、4、6――


 10――15――20――

 

 23――26――29――


「これで――30匹目!」


 ――5秒。

 最後の〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟の頭部を叩き潰すまで、だいたいそれくらい。


 修行の成果……と呼ぶには時間かかり過ぎかな?

 爺やならあと2秒くらい早くやれたと思う。


「さ、先へ進もうあずさお姉ちゃん」


「なっ……い、今なにしたの!? ほとんど一瞬で――!?」


「なにって、殴ったり蹴ったりした。爺やならもっと早くできると思うよ?」


「えぇ……」


 ドン引きして唖然とするあずさ

 あ~も~、だから目立つ真似したくなかったのに……。

 まあ、今回は状況が状況だから仕方ないけどさ。


 ともかく全速力で先へと進んだ俺たちは、ようやくダンジョンの最奥らしき場所に到達する。


 そこには――〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟よりもずっと巨大な、橙色・・の個体が鎮座していた。

 

『ピギ……ピギィ……!』



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金子匠: そいつが女王だよ! 間違いない!


金子匠: 兵隊同様、女王も火に弱いんだ! ここまで来たら倒せる!


コンパスⅩ: うおおおおお! 興奮してきた!


ジョイントキィ: がんばれ! 捕まった人を救ってくれ!


花丸: 応援してる! 絶対に勝つんだ!


==========



「視聴者の皆が応援してくれてるよ、ハジメくん! ここまで来たら――」


「うん、必ず勝つ!」


 コメントの応援で奮起し、決戦へ挑む俺とあずさ


 ダンジョンの最奥は彼らの巣になっていたらしく、天井からは〝糸〟で身体を拘束された人々が吊るされている。

 巣全体を覆い尽くす〝糸〟の量からして、兵隊とは桁違いの強さなのは明白だ。


『ピギィ……』


 こちらの姿を視認した〝女王土蜘蛛つちぐも〟は、〝糸〟を操作して拘束された人々を一か所に集める。

 そして、牙の生えた大きな口をガパッと開けた。


 俺たちに助け出されるくらいなら、ここでさっさと食べてしまおうって魂胆らしい。

 橙色という体色から見ても、これまで相当な数の人々を捕食しているのだろう。


「アイツ……! させるもんですか! 食らえ、出雲流――!」


 再び御神符を構え、魔法で燃やし尽くそうとするあずさ

 しかしその直前――彼女の片足に〝糸〟が巻き付いた。


「え? きゃあ――ッ!」


「!?  あずさお姉ちゃん!?」


 重心を崩されて倒れるあずさ

 胸ポケットからスマホを落とし、そのままズルズルと引きずられていく。


 あれは女王の出した〝糸〟じゃない。

 まだ生き残りの〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟が潜んでおり、背後から彼女を狙ったのだ。


 倒れた拍子に御神符を落としてしまったあずさに成す術はなく、〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟の牙が迫る。


「ハ、ハジメくん! 私はいいから! だからあの人たちを――お願い――!」


 街の人たちを食べようとする〝女王土蜘蛛つちぐも〟。

 あずさを仕留めようとする〝兵隊土蜘蛛つちぐも〟。

 

 奴らの牙が得物に届くタイミングは、ほぼ同時。

 幾ら俺が速く動けても、どっちも助ける猶予はない。


 イチかバチか魔力を射出するか――?

 ダメだ、こんな地下坑道で撃ったらどうなるかわからない。

 最悪ダンジョンが崩れて、全員助からなくなる。


 この刹那の時間で、俺は選択を迫られた。

 街の人々を救うか――あずさを救うか。


 どうする――?

 どうすれば――!?


「――――」


 ほとんど頭が真っ白になった――――その時。

 俺の中に、突然あるイメージが浮かんだ。


 無意識に、両手の指を交互に組む。

 人差し指は腹と腹を、親指は爪先と爪先を。


 そして〝りん〟という掌印を結び――



「――――【天魔創生ジェネシス・プリンター】」



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