マリーとジャック
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第1話 マリーとジャック
マリーは、馬車に乗り魔法学校に向かっている。
外はかなりの雨が降っていた。
馬車が行き交う道は、凸凹になった所に水溜まりが出来、馬車のない人達に泥水をかけていく。
この国は、貧富の差が激しく学校に行ける子供は僅かだ。
だが、魔法学校は、魔法を使える僅かな子供のためにあるので、貧富の差なく学校に通うことが許されていて、魔法を使った仕事にも就くことができる。
ジャックはこの雨の中、外套のフードを目深に被り魔法学校に向かって歩いていた。
ジャックは、孤児院育ちで13才になり、孤児院を出され、鍛冶屋に住み込みで働かせてもらっていた。
だが、魔法が使えることで国から、魔法学校に通うよう通達が来てしまったために、気まずい状態が続いていた。
朝から晩まで働かせるつもりが、最低でも週に三回は学校に通わなければならなかった。
ジャックは自分が魔法を使えることを知らなかった。
だが、国から通達が来た以上、無視することは犯罪であり、当人だけでなく、雇い主や、孤児院なども対象になるため、渋々学校に通っていた。
しかも、学校に行ったからって、その日は働かなくて良いわけではない。
ジャックは、学校から帰ったら、仕事が待っていたし、土日が休みなわけでもない。
孤児が、住み込みで働くとはこういうことだった。
他の貧しい子供達も、家族から稼ぎ手を減らせないために、ジャック同様週に三回の通学にしている者達も結構多かった。
魔法を使えることが特別なら、なぜ、貧しい生徒が、優遇されないかは、階級制度があって大人の複雑な事情以外の何物でもなかった。
良い点は、学校では、制服や靴、教材の他、何もかも無料だった。
だから、たらふく美味しい飯やおやつ、飲み物がいただけ、早く行けば風呂も使えた。
しかし、ジャックは、これ以外楽しみを見いだせなかった。
魔法が使えても、紹介先の鍛冶屋から抜け出せるか微妙だった。
孤児院からは、紹介先が無くなると困るから、鍛冶屋を辞めてくれるなと言われていた。
ジャック自身も、住む場所が無くなるし、魔法を使った仕事がどれくらいあるのかまったく分からなかった。
ジャックは、魔法学校に着くと急いで風呂に向かった。
住み込み先には、風呂なんてないから至福の時だった。
風呂から出て、制服に着替え、気分良く朝飯を食べに食堂に向かい、たらふく食べていると、女生徒と目が合った。
「まったく幸せそうね。」
「うるせぇな。」
ジャックは、マリーを無視して食べ続ける。
「ジャックは、将来何になるの?」
「決めてない。」
「魔法を使えることは、特別なことなのよ。たくさんの人の役に立つわ。」
マリーは、希望に溢れていた。
ただ、今後のことを悩んでいた。無限大の可能性を突き付けられていて、決められないことが、今の悩みだった。
マリーのため息に、ジャックは呆れていた。
「ゆっくり探せよ。どうせ暇してんだろ。」
ジャックが、目を閉じ、チーズケーキを堪能している。
「暇じゃないわ。今日だって、この後叔父様と一緒に教会で慈善活動に行くんだから。」
「あっ、そ!」
暇じゃないか!俺は学校の後は仕事なんだよ。まったく。
ジャックは口に出さずに、席を立つ。
金持ち女に、自分の話しをしたくなかった。
マリーは、ジャックが怒っていたと思い困惑していた。
教室に入ると、ジャックを探した。
「空いてる席、たくさんあるだろ!」
「隣に座りたいの。ジャックのこと何も知らないから。」
「俺は知られたくない!」
ジャックは、席を立ち別の席に移動してしまった。
マリーは、学校まで迎えに来てくれた叔父の馬車に揺られていた。
「ずいぶん落ち込んでいるね?」
叔父の言葉に、マリーは、ジャックとの一連の会話を聞かせた。
「それはマリーがいけないかな。」
「知らなきゃ、仲良くなれないわ。」
マリーは、悲しそうにつぶやく。
「マリーの言う仲良くってどれくらいかな?」
「どれくらいって言われても、友達みたいな…」
マリーは、急に言われても、良く分からなかったけど、ジャックともっとたくさん話したかった。
「マリー、ジャックって子は、貴族階級の子ではないよね?」
マリーは、不服そうに頷く。
「残念ながら、私達の国は階級によって分けられている。これ以上仲良くなることは、お互いを傷つけ合うだけし、もっとも傷つくのは、ジャックだろうね。」
マリーは、下を向いて制服のスカートを握りしめた。
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