第3話 愛していると言っていたのに ※ジェラルド視点

「私達、もう会うのをやめましょう」

「えっ?」

「お別れです。さようなら、ジェラルド様」


 それだけ言うと、彼女は私に背を向けて走り去っていった。呼び止める間もなく、あっという間に姿が見えなくなる。私は呆然と立ち尽くしたまま、彼女の後ろ姿を見つめていた。混乱していて、追いかけることが出来なかった。


「……」


 会うのをやめる。どうして? 意味が分からない。


 王宮の生活は、常にプレッシャーに晒されていて疲弊する毎日。王太子という立場は、自由と程遠い。私には安らぎが必要だ。癒やしが必要だった。


 そんな中、レイチェルと会うことが唯一の癒やしの時間だった。彼女と過ごす時は穏やかで、心が落ち着く。彼女と会える日を心待ちにしていた。


 それなのに突然、彼女は私に別れを切り出してきた。理由は教えてくれなかった。訳が分からなかった。彼女が離れていくなんて、考えたこともなかった。


 それから数日経っても、彼女からの連絡はない。私から連絡しようとしても行方が分からなかった。


 何か理由があるはず。もしかすると今、彼女は大変な事件に巻き込まれて困っているのかもしれない。優しい彼女のことだから、私まで巻き込みたくないと考えて距離を取ろうとした。


 どうにかして、私の愛するレイチェルを助けてあげないといけない。


 私は急いで、部下を使って彼女の行方を探させた。すぐに、手がかりを掴むことが出来た。とある男性と会っているという話。その男が、悪いやつなのかもしれない。


 更に調査を進めて、悪事の証拠を押さえよう。証拠を掴むことが出来れば、彼女を助けられるかもしれない。


 そう思っていたのに、集まってきた情報に私は愕然とした。レイチェルは、その男と恋仲になっているという。信じられない話だった。きっと何かの間違いだ。


 自分の目で確かめないと、信じることは出来なかった。直接会って確かめるしかない。そう決意して、彼女の元へと向かった。そして、真実を知ってしまう。


 私の視線の先で、二人は愛し合っていた。とても幸せそうに笑い合っている。私に向けていた笑顔を、見知らぬ男に。あれは、騙されているという雰囲気じゃない。


 あの女に腹が立った。愛していると言ってくれたのは、嘘だった。


 女なんて、信じるべきじゃなかった。信じていた私が馬鹿だったんだ。裏切られた悲しみよりも、怒りの方が勝っていた。だけど、必死に怒りを抑える。冷静になって、自分の立場を思い出す。私は、レイチェルと再会することなく立ち去った。


 奴らを無茶苦茶にしてやりたいけど、寛大な王子として許してやろうではないか。あの女を信じた私が愚かだったのだ


 優しいと思っていた女が、あんなにも酷い奴だった。だとしたら、他の女も同じようなものだろう。


 そうだった。私には婚約相手が居た。あの女も信じるべきじゃない。どうせ、あの女と同じように裏切るに決まっているのだから。


 最初から、信じなければいいだけの話。そうすれば、裏切られることも傷つくこともない。それに、誰も信用しなければ失うものもないはずだ。


 傷つく前に、対処しておこう。裏切られる前に、私から行動する。婚約なんて破棄したほうが良い。


 私は早速、婚約相手のエレオノールを呼び出して婚約破棄を告げることにした。

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