ぬいぐるみだって選びたい、ってコト?
高久高久
第1話
「ふざけんなくそがぁっ!」
怒りの余り、声に出してしまった。思わず筐体を殴りたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。殴った場合店員さんに起こられてしまうから。ソースは俺。既に
恨めしそうに睨む先にあるのはクレーンゲーム。今は指定された穴に玉を落とすとアタリとか色々な種類があるが、俺がやっているのはアームで景品を取って、取り出し口に落とすというオーソドックスなタイプ。
さっきからずっと、ずぅっと、ずーっとプレイしているが、全くとれやしねぇ。目当てはぬいぐるみ。キャラクター物で一部では人気らしいが、あまりにも獲れなさ過ぎて憎たらしく見えてきた。半笑いなのだが俺の事馬鹿にしてね? ねぇしてね?
「くっ……もう一回……!」
財布の中からコインを取り出す。もう既にコインは残り僅か。札の方もこれ以上は使えない、という領域に達している。
「頼む……おぉっ!」
クレーンが目当てのぬいぐるみの上にドンピシャで停まり、ゆっくり降りてアームで捉える。そのままゆっくりと持ち上がり――
「クソがぁッ!」
すっぽ抜けた。握力なさ過ぎるわこのアーム。もっと鍛えろ。そんなんだから裏で店員が操作してるとか言われるんだ。
「……これがラスト」
財布のコインはもう1枚のみ。どれだけ足掻いてもこれが最後。
祈る気持ちでコインを投入。だが、今回は勝機がある。
さっきすっぽ抜けた結果、ぬいぐるみの衣類でたわんでいる部分が上になった。上手くいけば……
「いょおっし!」
よし、上手くアームに引っかかった! こうなりゃ握力なんて関係無い! 後は取り出し口まで落ちれば――
「はぁ!?」
思わず声を上げた。ぬいぐるみは取り出し口まで運ばれた。運ばれたが、アームから落下した後に落下口の筒の端に引っかかった。
「そこまでか!? そこまでして取らせてくれないのか!?」
揺らせば落ちそうだが、先程注意されたせいか店員がずっとこちらを見ている。触れたら即すっ飛んできそうだ。
「……マジかよ……頼むよ……」
もうコインは無い。縋る様に呟くが、ぬいぐるみは微動だにしない。ニヤけた顔がこっちを向いており、何か馬鹿にされてるように感じる。殴りたい、この笑顔。
――正直、自分でもどうかしていたんだと思う。俺はスマホを取出し、ある画像を表示してぬいぐるみに見せつける。
「俺が欲しいってわけじゃないんだ……妹に、妹にプレゼントしてやりたいんだ……」
画像は俺の妹――滅茶苦茶可愛い妹だ。このキャラクターが好きらしく、ぬいぐるみを欲しがっていたのを知っていた。だから、取ってプレゼントしてやりたかったんだ。
俺が欲しかったのはぬいぐるみじゃない。「お兄ちゃんありがとう! 大好き!」の言葉なんだ――
「――って、はぁ!?」
画像を見せた結果、微動だにしなかったぬいぐるみがいきなり落下口に落ちた。それだけならまだしも、落下口近くに出来てた山から2個程、別のぬいぐるみまで落ちた。
結果、3個ゲット。納得いかねぇ。
「おめでとうございます」
唖然としてる俺に、店員さんが近寄ってきて持ち帰り用の袋をくれた。「ど、どうも」と頭を下げると小さく「良かったですね」と言ってくれた。
袋の中を覗きこむと、目当てのキャラクター物――だけじゃなく他のぬいぐるみも俺を見ていた。全部ニヤけた面して俺に『早く帰って
……やめようかな、あげるの。
――結局プレゼントしたがな。そして「お兄ちゃん大好き」は頂いたがな!
ぬいぐるみだって選びたい、ってコト? 高久高久 @takaku13
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