猫が謳う玉響の唄
飛牙マサラ
序
ひとつとせ、あなたを想う。
ふたつとせ、あなたを想う。
みつとせ、あなたを乞う。
よつとせ、あなたを乞う。
いつつとせ、あなたを呼ぶ。
むつとせ、あなたを呼ぶ。
ななつとせ、あなたに逢う。
やっつとせ、あなたに逢う。
それに気が付いたのはいつのことだったのだろう。
僕はいつだって感じていたはずなのにそれが分からないでいた。
僕にとってそれが何であったのか何てどうでもいい。
夢かうつつでも構わない。
麗しい人とともに過ごせるのなら……
いつものように幼馴染みと彼は遊んでいた。それは当たり前の風景で、一度も疑問に思ったこともない。
楽しく、楽しく
そんなとき。
ちりん。
耳元で鈴が鳴った。
ちりん。
もう一度鳴った。
その音の方に振り向けば、そこには同じ年頃と思われる少女が立っていた。着物を着ており、明らかにこの場所には似つかわしくない。けれど弓弦にはとても綺麗に映った。
暫く見ていると彼女はおいでおいでをして待っている。
自分が少女に呼ばれていることを理解し、続いて彼女の元に行くべきだと思った。
彼はそこがどんな場所かなんて考えないで走り出し、そうして次の瞬間、強い衝撃を感じて彼の体は宙に舞う。
くるくるくる。
景色が変わっていく。目に見える世界が天地左右が可笑しなことになっているのは分かったが、覚えているのはそこまで。
そのまま彼の意識は暗転した。
‡ ‡ ‡
次に気が付けば知らない天井が見えた。
「私たちが分かる? あなた、車の前に飛び出したって!」
誰かが何かを言っていた。
「……誰だっけ」
どうにも周囲の人間たちに何かを感じることが出来なくていつの間にか呟く。
ああ、あの子の傍に行けなかったんだね。
それだけは分かり、それが為せなかったことに何処か落胆を覚えた。
「何を言ってるの? 心配したのよ! 頭打ったからかしら」
恐らく心配しているらしい女性がおろおろしている。弓弦より少し年齢の低い少女もいたが、やはり戸惑った表情をしていた。
「お兄ちゃん」
ああ、そうだ、これは僕の家族。かぞく。かぞく。
おかあさんといもうと。
何故か泣いている。
きっと本当は僕も泣かないといけないんだ。
助かって良かったねと。
その日から少年の世界は一変した――まるで全てが反転したように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます