じゃあね、親友。キミとも一緒にいきたかったよ
嬉野K
じゃあね、親友。キミとも一緒にいきたかったよ
「そのぬいぐるみは極度の寂しがり屋でねぇ……手を繋いだ相手を引きずり込んじゃうの。気に入った相手と手をつないで、自分の住む世界に引きずり込んじゃうの」
それから彼女は目の前のろうそくを吹き消す。明かりがまた1つ消えて、室内がさらに暗くなっていく。
「寂しいんだろうねぇ……だから、好きな人に来てほしい。自分が住むあの世まで引き込んじゃって……それでも寂しいから、次の標的を探しに行く」
「……」私は冷や汗を隠しながら、「へ、へぇ……そんな話があるんだ……」
「実話だよぉ……?」どこからともなく取り出した懐中電灯で、彼女は下から顔を照らす。「そのぬいぐるみさんと手を繋いだ人は、みんな死んじゃうの。もしかしたらあなたの持っているぬいぐるみが……その呪いのぬいぐるみかも……?」
そんなことを部屋の中で楽しそうに語るのが、私の親友の1人、
「ひ、ひぃ……」私に抱きついて怯えているのが、親友の1人、
「怖い話しないでって……」
たしかに。今回の怪談話をしようと言い出したのは
そう。私たちは現在、怪談話をしている。私の家に集まって、雰囲気を出すために明かりはろうそく。そして1人ずつ怖い話をしていったのだが……
「まぁ、怖がってくれるのなら、とっておきの怪談話をした甲斐があったねぇ」
「とっておきって……さっきのぬいぐるみの?」
「そうそう。寂しがり屋のぬいぐるみさんは、友達を自分の世界に引きずり込んじゃう。決してそのぬいぐるみの手を握らないようにねぇ……」
ヒッヒッヒ、と
「ま、怖い話はこれでおしまいかな」そういって、私は部屋の明かりをつける。ビビっているのがバレたくなかったので、話を変える。「それにしても……私達もそろそろ卒業かぁ……早かったね」
「そう?」
「同い年でしょうが」たまによくわからんことを言い出す
「そうだねぇ……」
「誰と誰の出会いを語ってるの」知らない記憶を捏造しないでほしい。「たまたま、クラスが一緒だっただけでしょ」
「そうだね。それでたまたま席が近くだったんだよねぇ……」
そうだ。本当にたまたま。そして
私は、彼女たちのおかげで楽しく高校3年間を過ごした。他に友達と呼べる存在はできなかったが、彼女たちがいれば問題ない。それくらいは思える……親友ってやつだ。
そんな親友とも、そろそろお別れが近づいてる。
「進路は別々だけど……」
「じゃあ……この怪談話、毎年恒例にする?」
「それもいいね」首を横に振る
その言葉に反対したのは、
「……まだ別れたくない……」
「そう言ってもらえるのは友達冥利に尽きるけどよ……」まんざらでもなさそうな
「……そうだけど……」
「大丈夫。私たちとはまた会えるよ」
「そうかもしれないけど……」グスグスと泣いている
「そんなことを言われてもねぇ……」
「
「私は写真が苦手なの。だから写真はダメ」
「ケチ……」
そのまま、
そんな2人を見て、私は思う。
……こっそり写真を撮ってしまおう。
そう思って、私はこっそりとスマートフォンを取り出した。そして
さて、撮った写真を確認しようと思った瞬間、
「ねぇ」いきなり
「あ……いや……」怪しまれるのはまずい。「感動的な別れだなぁ、と」
「あはは。そうかもね」なんとかごまかせたみたいだ。「じゃあ……一緒にやる? 感動の別れ」
「それもいいかも。でも……私は
「じゃあ握手でもしようか。友情のシェイクハンドさ」
そう言って、
当然私もそれに対応しようとしたが……
「あ……」
言われてみれば、振動音が聞こえる。どうやら
電話の内容は「明日に備えて早く帰ってきなさい」というものだった。ということで、渋々という感じで
「じゃあ……私たちもお別れだね」
「そういうわけにもいかないでしょ」
それぞれの場所に引っ越してしまうのだから仕方がない。一緒に行けるものなら、私だって行きたかった。でも、それはできない運命だったのだろう。
そうして、私は親友2人と別れた。私自身も引っ越しの準備をしなければならない。しばらくは新生活の忙しさで親友とも連絡が取れなくなるだろう。
しばしの別れ、そう思っていた。
まさか、一生の別れになるとは、まったく思っていなかった。
☆
引っ越しのために家を出た
過失がどちらにあろうが、どうでもいい。私からすれば大切な親友を同時に失ったという結果だけが残った。
しばらく私は放心状態だったらしい。2人の死が受け入れられなくて、ずっと部屋にこもっていた。食事ものどを通らなくて、かなり痩せ始めていた。
そうしているうちに、ふと思い出したのだ。
「……そうだ……写真……」
最後に撮った、親友2人の写真。生前の彼女たちを写した最後の写真。その写真を見たくなった。撮っていたことすら忘れていた写真だが、少しくらいは元気がもらえるかもしれない。
そう思ってスマホを取り出す。そしてアルバムアプリを起動して、
「……え?」思わず、目を見開いた。「なに……これ……?」
そこに写っていたのは
そのぬいぐるみは、
その写真を見た瞬間、
――そのぬいぐるみは極度の寂しがり屋でねぇ……手を繋いだ相手を引きずり込んじゃうの。気に入った相手と手をつないで、自分の住む世界に引きずり込んじゃうの――
手を繋いだ相手……写真の中のぬいぐるみと
そして……
「じゃあね、親友」耳元で、
キミとも一緒に……
……
もしも私が、あの握手に応じていたら……
……
そういえば
それは、ぬいぐるみの姿が写ってしまうから、だったのだろうか。
真相なんてわからない。私は探偵でも霊媒師でもない。だから真相なんてどうでもいい。
親友2人を同時に失った。私に残されたのは、やはりその事実だけだった。
じゃあね、親友。キミとも一緒にいきたかったよ 嬉野K @orange-peel
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