第38話
広治へ
この手紙を読んでいるということは、私はこの世にいないのでしょう。
ここに書いてあることはいつか、落ち着いたらあなたに話そうと思っていました。
最初に謝ります。
父親とされる人と一緒に住んだこと、ごめんなさい。
お母さん失格ね。
本当にごめんなさい。
安心してね。
あなたに父親とされる人の血は流れていません。
あの人は結婚する前、すごく優しい人だったの。
私のために色々としてくれたの。
それは本当よ。
でも、それは愛、ではなかったみたい。
結婚してから浮気三昧で家庭を省みない人になりました。
たぶん、それが本当の彼の姿だったんだと思う。
騙されてました。
気づけませんでした。
浮気三昧で、モラハラも酷く、私としては辛い毎日でした。
あの人の狙いは私の不動産会社の役員になり、自由にお金を使えるようになることだけだったのだと思います。
本当に辛い毎日を送っていました。
そんな中、私が昔好きだった人に出会いました。
出会ったというよりは、再会した、というべきでしょうか。
父親とされる人と出会う前に、付き合ってた人です。
その人があなたの本当のお父さんです。
本当のお父さんは私に本当の事を言ってくれました。
実は私と付き合っている時に、交通事故を起こしてしまい、慰謝料などで当時の職場まで脅されていたそうです。
それで逃げるしか方法がなかったようです。
その脅していた人が父親とされる人のお友達です。
当時、悪いことをしていた父親とされる人も一緒に脅していたようです。
誰彼構わず、脅したりして脅迫まがいのことをしていた時期があるようなので。
本当のお父さんは私にも悪い影響が出てしまう、と突然姿を消したようです。
本当のお父さんの行方がわからなくなって、寂しさで数年間悩まれ続けたときに、当時は優しかった父親とされる人と付き合い、結婚することになりました。
結婚後、辛い日々を過ごしていた時に、本当のお父さんと街で偶然再会しました。
というより、私に謝りに来たとき、偶然、不動産会社の前で私と父親とされる人が歩いているのを見たようです。
そして彼と友達が本当のお父さんを脅していたことを正直に伝えてくれました。
家庭を壊したくない、と最後まで伝える事は悩んだようです。
そのことは父親とされる人には言いませんでしたが、彼と離婚することになりました。
本当のお父さんは、何回か私と会った後、すぐに仕事で海外に行ってしまいました。
それからは1回も会えてません。
あなたが産まれてから、血液型を調べると、本当の父親との子供だとわかりました。
これも、父親とされる人と同じことをしているから、お母さん失格ね。
でも、あなたの顔がどんどん本当のお父さんに似ていって、見ていて嬉しくなりました。
あなたが薬剤師を目指す、といったとき、私は心のそこから嬉しかったのです。
あなたの本当のお父さんは、数年前にニュースでやっていましたが、海外の薬剤師のいない場所で、薬剤師を普及させて、亡くなってしまった有名な薬剤師です。
私とあなたの本当のお父さんは高校時代の同級生でした。
父親とされる人はA型、本当のお父さんの血液型はB型、あなたもB型、私はO型です。
彼が私の血液型を勘違いしていたのです。
父親とされていた人は本当のお父さんの顔も名前も覚えていないのか、友達を利用して犯罪を行っていたのでわからないのか、はっきりしません。
でも、本当のお父さんのことをあんな目に合わせておいて、知らないとは、気が狂いそうになりました。
何回か殺すことも考えましたが、あなたを犯罪者の息子にはできませんでした。
実は、私は脳に動脈瘤を患っていました。いつ破裂してもおかしくないから、大学病院へ転院しました。
手術すると記憶が亡くなってしまうかもしれない、麻痺が残るかもしれない場所とのことで、血圧の薬でコントロールしていました。
彼に何かしらの復讐をするつもりで、一緒に住むことにしたのですが、考えが甘かった、力不足でした。
何もできずに、広治が出ていかなくてはならないことになってしまいました。
自殺するか、血圧の薬を飲まずに自殺のように死ぬか、ずっと迷っています。
首を吊るような自殺であなたに迷惑はかけたくないのです。
今は血圧の薬をやめて、念のためにあなたへの手紙を書いています。
私が死んだあと、目の前に相続できるものがあるのに、相続できないことや、地域住人の目は彼にとっては耐えられない苦痛だと思います。
自分は尊敬される、素晴らしい人間だと思っているから。
国に救けてもらうのも、彼のプライドか許さないから、もらわないと思います。
生き地獄。
それが唯一できる、私の復讐なのかもね。
最後に、こんなお母さんで、本当にごめんね。
絶対幸せになるのよ。
あなたの幸せが唯一の私の願いです。
あなたが大好きです。
あなたが、あの人の息子ではない、という証明が私にできる贈り物です。
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