第35話
おじいちゃん、おばあちゃんの施設にたまに行ってお母さん宛の手紙を置いておく、という事をひと月に1回ほど繰り返していた。
内容は大した事ないのだが、元気である事を書いていた。
ある時、いつも手紙を入れているところに手紙があることを発見した。
【広治へ】と白い封筒に入っていた。
「ああ、お母さんからだよ。渡すように言われたんだ。すっかり忘れてた」
【元気でよかったよ。いきなり職場をやめて、連絡先を変える、というくらいのことだから大変なことだっただろうね。なんとなく、原因はお父さんのことなんだろうな、とは、わかってます。こんなことになってしまい、ごめんなさい。とにかく元気でいてね】
おじいちゃん、おばあちゃんの施設からの帰りの新幹線の中で泣きながら読んだ。
おじいちゃん、おばあちゃんの物忘れも強くなっているようで、日付は随分前のものだけど。
今度、正直に言おう。
【お母さんへ。僕が病院を辞めることになった話をします。父親とされる人が僕の病院に来た日、僕の大好きな先輩は怒鳴り散らされたようです。その後しばらくして、病院にたくさんのクレームが入るようになりました。病院のネットニュース記事にもクレームが入りました。ネットの誰もが見ることができる掲示板にもクレームが入るようになりました。対象は僕だけでなく、僕の先輩も、です。実家だけでなく、職場も居場所がなくなりました。これ以上、職場に被害を与えられない、と逃げ出すように退職しました。誰にも迷惑をかけたくないので、逃げ出しました。逃げ出した場所にも、僕を探すような電話がありました。心配かけて申し訳ございません】
前回のおじいちゃん、おばあちゃんの施設の訪問から3ヶ月以上が経ってから、この手紙をおじいちゃん、おばあちゃんの施設のいつもの場所に入れておいた。
お母さんが読んだか読んでないかはわからない。
それから、僕は地方で長期的な派遣が入った。
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