第14話

ハッチは家に帰ってから、両親に広治の父親の事を聞いてみた。


普段はそういうことを全くしないし、友達の事を家ではあまり話さない人間だ。


今回は、なんだか、気になってというか、なんかの勘が働いた。


「ただいま。」


「おかえりなさい。飲んできたの?」


おかんが聞いてきた。


「広治に会ってさ、久しぶりだし、話が弾んで、神社でビール飲んできた。」


「男同士のそういうの、楽しそうだね」


「今日は休みだし、飲むか?」


親父が飲みたそうに聞いてきた。


どうせ飲んじゃったし、飲むことにした。


「おかん、今日はなにもしない日にしよう。飲もう。」


3人で、始めて昼酒だ。


「広治君、元気にしてたか」


「仕事が忙しいみたいだけど、元気だったよ。」


「広治君、優しそうだから、薬剤師向いてそうよね」


「そうだね。あいつ、愚痴も言わないし、優しいし、いい奴なんだよ」


なんとなく、話の流れができたから、聞くことにした。


「そういえばさ、広治の離婚した親父さんの話になってさ、何か聞いたことある?」


「どうした?いきなり?」


「なんでも、広治、親父さんとまた住むことになるみたいなんだ。あいつ、親父さんの記憶ないうちに離婚しているからさ、珍しく気にしていたよ」


おかんが口を開く。


「他人の家の事に口出しはしたくないんだけど、女同士の集まりでは色々と話は出たことはあるよ。」


女同士の情報源は早いし、得られる情報量は多い。


俺も浮気がひどく離婚した、と風の噂程度には聞いたことはあった。


直接の原因はわからないけど、どうやら広治は苦労しそうな親父さんのようだ。


結婚していたとき、浮気はひどかったようだが、外面が良かったから悪い人には見られてなかったようである。


しかし、離婚した後、色々な目撃談や広治のおじいちゃん、おばあちゃんの友達から話が広まって行ったそうである。


昔、かなりヤンチャな人で、暴走族をやっていたとの噂があるし、ヤクザとの繋がりもあると言っていた人もいる。


でも、その辺は本人が言っているだけで、人を怖がらせているだけかもしれない。


離婚した後、違う町で女の人と歩いている親父さんを見たという情報は多いし、一緒に歩いている女の人を怒鳴っていたという目撃情報もある。


僕は広治の親父さんは話を聞いていると、とにかく女好きで威張りたい人の印象となった。


「まぁ、噂とか、人からの情報だからわからないけどね。何よりも、広治君の家族、皆さん優しいのに、離婚するくらいだから、よっぽどの事があったのは間違いないよね」


確かに、広治を含め、あの家族はとことん優しい。


そんな家族と離婚した親父さん、そして、また一緒に住もうとしたら、おじいちゃんとおばあちゃんが出ていく事になるのも、ただ事ではない。


広治に言うべきか、言わないべきか。


確証がないこと、しかも友達の家庭を不幸にしてしまうかもしれないことだ。 


他人がとやかく言える立場ではない。


言わないでおこうか、タイミングが来たら言おうか。


そんな事を考えながら、久しぶりの昼酒に酔っ払

い、寝てしまった。


その翌日から数ヶ月におよぶ養鶏場、養豚場、などへの泊まり込みでの研修が始まり、広治と会うこともなく、連絡を取ることも忘れてしまっていった。

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