戦場にやってきたオレの花嫁〜かつて助けた美少女が最強になってオレに会いに来たようです〜
ナツメ サタケ
【第一話】会いに来たっ!
オレの名は〈ロロナ〉
絶賛、絶体絶命のピンチです。
目の前で仲間の身体を噛み千切る魔物の視線はオレを捉えていた。
闘牛の頭を持ち、屈強な身体の魔物〈ミノタウロス〉
青黒い身体から赤く光り威圧する双眸はオレを硬直させる。
「《サンダーボルト》ッ!!!」
直後、ミノタウロスの頭上から落雷が生じた。 直撃したミノタウロスはバチバチと音を鳴らし絶命した。
「大丈夫かっ!? 君!」
どうやら助けてくれたのは仲間の
「救助に遅れてすまない。 立てるか?」
「はい、ありがとうございますっ」
「君、所属は?」
そう聞かれオレは胸から下げていた所属を示すプレートを見せて答える。
「〈ルヴァン騎士団〉所属のロロナです」
「そうか。 他の者は何処に?」
「……オレ以外、全滅しました……」
「ッ!?」
その人は荒れた周囲を見渡す。周りはミノタウロスの死体で溢れているが、それと共に人らしき死体も溢れている。
そう。 オレたち〈ルヴァン騎士団〉はミノタウロスの軍と遭遇し戦い全滅した。 オレ以外……
「……そうか。 君だけでも生き残って良かったよ。 とりあえず基地へと戻ろう」
オレ……いや、オレ達は今、戦争をしている。
【
人と魔物の戦い。 勇者と魔王の戦い。
どちらかが死ぬまで終わらない。 何百年と続く終わり無き戦争。
世界には魔王が七つおり総称して〈
そして勇者もまた七人存在し〈
枯れた大地を駆け空を見上げる。
空は今日も赤い。
青い空など久しく見ていない。
遠くを見れば〈
視線を逸らせば〈
見渡す限り人と魔物の戦いで溢れている。
ここは〈アレクサンドリア大陸〉の西部。
〈七大魔王〉の一柱。 獄炎の魔王〈アグニス〉が居座る城に最も近い戦線。
オレは今、そこにいる。
オレは勇者じゃない。
英雄でも、特別な力を持っている訳じゃないただの一般兵士だ。
だが、魔王の進軍により苦しんでいる人々を見てか、最前線で成果を上げ〈英雄〉と呼ばれる姉の影響か。
オレはいても立っても居られなくなり騎士団に入団した。
入団して約一年。
いくつかの土地で魔王軍の進軍を食い止め、人々を救ったが結局、騎士団は全滅。
オレ一人だけが生き残り何をどうすればいいのか。
騎士団の仲間と共に散れば良かった。
「大丈夫か? ロロナ」
「……やぁ、〈クリス〉、か。 久しぶり、生きてたんだな」
「あぁ、お前も生きてて良かったよ」
情けなく項垂れているオレに声をかけてきたのは入団初期、同じ所属だった時の仲間のクリスだ。
以前会った時よりも少し窶れており、顔にも魔物による傷が増えていた。
「騎士団は全滅したがな…… オレだけ生き残っても意味無いよ」
「そんなことないっ ルヴァン騎士団が全滅したことは悲しいが、それでもお前が生きていて俺は嬉しい」
「……ありがとう、クリス」
クリスは優しく強い男だ。 故郷には妻と子供がいるというのにこの戦争に参加した。 子供が安心して生きていける世界にしたいという。 一時の感情の起伏で参加したオレとは大違いだ。
「お前が〈ルヴァン騎士団〉の生き残りロロナだな?」
上官である男が現れオレとクリスは敬礼して迎える。
「はい、そうです」
「騎士団の全滅は痛ましいが、悔やんでいる暇は無い。 お前は〈コイオス騎士団〉へと異動してもらう」
「〈コイオス騎士団〉ですか……それって……」
「そうだ。 そこにいるクリスと同じ騎士団だ。 これが新しい騎士団のプレートだ。 〈コイオス騎士団〉所属、クリス。 後は彼の案内をよろしく頼む」
「了解致しましたっ」
新しい認識票であるプレートを渡して上官は去った。
まさか、異動先がクリスと同じ騎士団とはな。
「またよろしくな、ロロナ」
「よろしく頼むよ、クリス」
それから数日後。
コイオス騎士団へと所属したオレは再びクリスと共に戦場へと赴いた。
場所は以前ルヴァン騎士団が全滅した地域。
「なぁロロナ。 【
向かう途中、時間を潰すためかクリスが喋り出す。
「【
「何でも軍に入団して三ヶ月でいくつもの魔王軍を蹴散らしてるっていうヤバい強い兵士らしいんだがな。 そいつが誰か探しているらしいんだ。 それで上官の命令を無視して一人で色んな場所へと向かって戦っているんだとよ」
「へぇ、戦場に来てまで人探しね。 探し人は既に死んでるかもな」
「そんな事言うなよ。 相手は少女だぞ?」
二つ名に『姫』と入っているから女性だとは思っていたがまさか少女とはな。
オレとクリスの話を聞いていたのか、別の兵士が会話に入ってくる。
「俺、それ知ってるぞ。 二刀流の剣士らしいんだけど、そいつめっちゃ美少女らしいぜ」
「美少女?」
「あぁ、噂によると、白銀色の髪で青い瞳の少女らしい。 まぁ胸はあんまりらしいが可愛さでいったら〈アイリス〉上官を凌ぐらしいぞ」
〈アイリス〉上官とはこのコイオス騎士団を管理する上官のことだ。 オレも異動の手続きの際に一度会ったが確かに美人だった。 騎士団の中では〈女神様〉とも言われている。 しかし、そのアイリス上官を凌ぐほどの美貌を持つのか。 戦場なんかに来ないで何処かの貴族にでも嫁げば安泰なのにな。
「そうそう。 俺も一回見てみたいな」
「クリス、お前には奥さんと子供がいるだろ」
「勿論、俺はマーシャ一筋だっ! だけど、その【銀双姫】どうやらこの戦線近くに来てるらしいんだ。 その強さと可愛さくらい一度は見てみたいと思うだろ?」
「まぁ、そうかもな」
正直、噂だからな。
戦争の疲労で癒しを求めるあまりにその子の噂に尾ひれがついただけの可能性が高い。
それに一人で魔王軍蹴散らすんだろ?
本当かどうかは分からないが、怖すぎ。
強い女というものは相応にして怖いのだ。
オレの姉がそうであるように。
「総員ッ! 戦闘準備ッ!」
怒号のような声が届く。 オレ達は緩んだ意識を叩き腰に添えられた剣を抜き構え陣形をとる。
徐々に大きくなる地響きと共に現れたのは〈
それに続くのがオレ達
巨人の足元へと潜り込み、腱を断ち歩みを止める。
そこへ魔術師が更に攻撃。 それで仕留め切れなかった敵を更に剣兵士が刈り取る。
魔術師と剣兵士の連携は巨人の軍に上手く刺さり、圧倒していた。
しかし、形勢が変化したのは巨人の軍が三分の一程に減った時。
大地を揺らし、腹の奥を響かせる咆哮と共に現れたのは巨人の軍のリーダーである巨人。
他の巨人にはないアーマープレートを装備しており、足の腱にも防具が施されている。
そしてその巨人はゆっくりと右手をオレ達に向ける。
「なんだ、何をする気だ?」
誰かが言ったその時、巨人の右手から炎の弾が放たれた。
「ッ!? 魔法だッ!!」
魔法による攻撃。
オレは即座に物陰に隠れてその攻撃を躱すが逃げ遅れた剣兵士と魔術師が数人。 亡骸は骨も残らず灰と化す。
「巨人が魔法を使うなんて、聞いてないぞッ!」
巨人達はこれが好機だと悟ったのか一気に駆け出す。
「こっちに向かってきたぞッ! 通常の巨人は今まで同様に対処───ッ!? しまったッ!」
通常の巨人は今まで同様の攻撃で倒すことが出来るため同じように対処しようとすると、なんと巨人達は剣兵士を見向きもせず無視して魔術師の方へと向かう。
リーダーの巨人の魔法で少なからず陣形が崩れ道が開けてしまった。 魔術師は基本、遠距離からの攻撃を行うため近接での戦闘は不利である。
「魔術師を守るんだッ!」
しかしそれを防ぐかのようにリーダーの巨人が魔法を放つ。 魔法を使う
剣兵士達は何とか魔術師を守るため向かうが途中で魔法を放たれ灰に。 運良く辿り着けてもたった数人では巨人の相手も出来ず攻撃され絶命。
殺戮が始まった。
踏み潰される者、身体を二つに引き裂かれる者、巨人の口へと放り込まれる者。
助けを求める言葉すらも与えない。
一人、また一人。
「っ、やべぇ、俺ここで終わるのかな……」
共に物陰へと隠れたクリスが剣を握る手を震わせ言う。
「諦めるなッ、クリス! 故郷には奥さんと子供がいるんだろッ! 生きて帰らないと!」
「分かってるッ! 分かってるよ……けどよ、見ろよ」
指を差し先にはコイオス騎士団の団長である剣兵士が無惨にも巨人の手によって握りつぶされていた。 骨が砕かれる音が鳴り、鎧の中から血を流し絶命する。
「全、滅……」
ふと、口に出してしまった。
クリスはそれ見て微かに笑った。
「あぁ、もう一度会いたいな……」
「……ッ」
懐から二人の写真であろう紙を取り出し涙を流すクリス。
そんな中オレはふと考えてしまう。
オレは今最後に会いたい人はいるのだろうか。
両親は幼い頃に病気で亡くなっている。
唯一の家族と言えば姉だが、姉とはもう数年会っていない。 たまに功績が流れてくるため生きているだろうが、あっちはオレが何処で何をしているかなんて知らないのだろう。 騎士団に入団したことも伝えていないしな。
オレと姉を育てた孤児院の館長はどうだろう。
いや、オレ達が出る時にはもうヨボヨボだったしな、もう亡くなっているのかもしれないな。
友人は隣にいるクリスだけだ。
他の者は皆死んでいった。
恋人もいない。
親しい異性など戦場では出来るはずがないし、オレにそんな技量は無い。
あぁ、何も無いな。
クリスは家族に会いたいという思いで涙を流すが、オレの瞳は熱くならない。
死ぬのは怖いとは思うが、悲しいとは感じない。
恋人や、結婚などして子供がいればオレもクリスのように泣けていたのだろうか。
そう考えると少し寂しい気がするな。
「……ぁ」
一匹の巨人がオレ達を見つけてしまった。
握り潰した兵士を遊び終わった玩具のように投げ捨てこちらへと歩み始める。 ニヤリと不気味な笑顔を浮かべて棍棒を担ぐ。
クリスは泣くことに必死で気付いていない。
伝えない方が良いだろう。 最後に見るのは巨人では無く家族の顔が良いだろう。
だから───
「お前の相手はオレだ」
勝てるなんて思っていない。
ただの意地だ。
泣ける者がいるのなら泣かせてやろう。
泣けないオレは少しでも彼が泣けるように戦おう。
巨人の棍棒が迫り来る。 さぁ、来い。
「見つけた」
小鳥のような声が聞こえた。
それと同時に巨人の身体にいくつもの剣筋が通り、壊れたブロック塀の様に崩れ落ちる。
「ぇ?」
そして、現れたのは一人の少女。
死闘の繰り広げられる戦場では心許な過ぎる戦闘服に握られる二本の剣。 太陽よりも輝く白銀色のその髪は揺れ、間から見えるのは久しく見ていない空色の双眸。戦場だというのにその少女の肌は汚れを知らない乳白色を保ち、幼い顔立ちはここには似合わない。
目が合うと少女は空色の双眸を輝かせ笑った。
「やっと、見つけた!」
オレは彼女のその姿を見てふと口にする。
「……【
「違う! 確かにそんな風に呼ばれてるらしいけど、私の名前は〈イータ〉!」
イータはそう言って駆け足でオレの元へと来る。
「あなた、ロロナさん?」
「え、あ、あぁ。 なんでオレの名前を……」
ふふ、と嬉しそうに微笑みイータはオレに抱きついた。
「会いに来たっ!」
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