それぞれのお気に入り

高山小石

お気に入り

「良かったら見てね」

 大量のアンパンマンのDVDをゆずり受けた。

 その家の子供たちはもう大きくなったので、不要になったらしい。

 ありがたく受け取ったものの、自分自身はアンパンマンをほとんど見たことがなかったので、子供にウケるのかどうかもわからなかったが、見せてみることにした。

 結論からいうと大ウケした。

 タイミングが合えば私も一緒に見て、キャラクターたちがほぼ食べ物関係なことを初めて知り、それぞれが違う性格をもち意外に複雑な関係性に驚いた。珍しい果物や、海外料理のざっくりした作り方なども、その名前のキャラクターが調理して教えてくれるのが面白い。

 もちろん子供は私が感じるのとは別のなにかが面白くて見ているようで、「あの話をもう一度見たい!」と限定リクエストされるくらいに、アンパンマンを好きだった。

 そんなとき、幼児が両手で抱えられるくらいの大きなアンパンマンぬいぐるみをもらった。

 うまく置けば支えなくともお座りできる、しっかり目のぬいぐるみに、子供は大喜びで、ぬいぐるみ相手におままごと料理をふるまったり、他のぬいぐるみや人形を並べて登場人物にしたてて助けるヒーローごっこをしたりと、大活躍していた。

 果ては遠足にまで持っていき、旅先で楽しんだことを思い返しては「アンパンマンと一緒に行った」と懐かしんだ。

 もう一人は、アンパンマンにそれほど興味がなかったが、幼児向け通信講座に登場する擬人化された動物の妹キャラである『はなちゃん』を気に入っていて、着せ替えたり食べさせたりのお世話遊びがお気に入りで、やっぱりどこにでも連れて行って楽しんでいた。

 他に子供が気に入りねだられて買ったぬいぐるみや、私が気に入って買い与えた人形は、喜びはするものの、それほど長くはウケなかった。

 物語の力で、子供たちの心の中では、ぬいぐるみのアンパンマンもはなちゃんも生きていたんだろう。

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それぞれのお気に入り 高山小石 @takayama_koishi

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