四年ぶりに再会した幼馴染に、ようやく約束のぬいぐるみを渡せたけれど……!?
立川マナ
第1話 ロビン・フッド
「お……『ロビン・フッド』じゃん」
「あれが? 『ゲーセンのロビン・フッド』!? 俺、生で初めて見た」
ガヤガヤと喧騒響くゲーセンの一角。クレーンゲームが並ぶそこには、そんな囁く声が響いていた。いつものように……。
ゲーセンのロビン・フッド――なんて。たいそうな通り名がついたものだ、と他人事のように思う。ただただ、週末の空いた時間、受験勉強の合間にブラリとこのゲーセンに寄っては、目についた台の景品を獲っていただけ。景品自体には興味も無いから、戦利品はその辺にいる子供に渡していたら、いつの間にか誰かに動画を撮られて『#ゲーセンのロビン・フッド』でSNSで拡散されていた。幸い、はっきりと顔が出ているわけでもなく、明らかに盗み撮りだと分かる薄暗く画質の悪い動画。もっさり髪に、地味な服装で、運動のしてなさそうなヒョロリとした体型――その動画から特定できることといえば、せいぜい、僕が陰キャなどこぞのティーンエイジャーだということくらいだろう。
しかし、ゲーセンはしっかり特定されていて、こうしてクレーンゲームに勤しんでいると、この陰キャオーラたっぷりの後ろ姿で、通り過ぎる人にはバレるようだ。
まあ、別に……『ロビン・フッド』と呼ばれたところで何の害もない。
今日もまた、好奇の視線を背中に感じつつ、十字レバーでアームを微調整、ここだ――と狙いを定め、スッターンと早押しクイズよろしく軽やかにボタンを押す。
おお、と背後でどよめく気配を感じた。
スルスルと降りていくアームは、狙い通り、しっかりとそれを――懐かしの幼児向けアニメ『おでんマン』の脇役キャラ、ちくわんマン(ちくわの身体をしたダックスフンドである)のぬいぐるみを、その首の部分に爪を引っ掛け、宙に持ち上げた。
「なんて鮮やかな……! まさか、あのアンバランスなちくわんマンも、いとも簡単に!?」
「いや、違う! 頭部と胴体のバランスの悪さを逆に利用し、あえてズラすことで持ち上げているんだ!」
誰だろう、この人たち――。
背後の熱い実況解説を聞き流しつつ、出口へ運ばれていくちくわんマンを見守る。仕方がないとはいえ、首吊り状態で運ばれていく姿はなかなか不憫なものがあるけど。
無事、出口へ辿り着き、ガコン、とちくわんマンが落とされる。
「ゲットーーー!!」と背後で一段と盛り上がる野太い声。
「さすが『俺に落とせないものはない』――ゲーセンのロビン・フッドだ!」
『俺に落とせないものはない』――とか言った覚えはないんだけど……。
それは流石に風評被害というものだなあ、と思う。
僕にだって、落とせなかったものはあって。それがきっかけで、僕はこうして『クレーンゲームのロビン・フッド』と呼ばれるまでになったのだ。
* * *
今から四年前のことになる――。
「乃木くん」
その声にぎくりとして振り返れば、彼女が長い黒髪を揺らしながら向かってくるところだった。
思わず、僕は息を呑んだ。
いつの間にかグッと背が伸びた彼女は、中二のその頃にはもう僕を追い越してしまって。ショートパンツから覗く脚はスラリと長くて、まさにカモシカのよう。
目鼻立ちのはっきりとした顔からは幼さが消え、完成された美少女のそれへと昇華を遂げていた。
遠目でも彼女のキラキラ輝くオーラが目に見えるようで。そんな彼女の周りには常に人が集まるようになっていた。彼女みたいにキラキラとした人たちが……。
だから……だろう。
なんとなく彼女に近づきづらくなって。中学に入ってから、僕は彼女を『このちゃん』と呼ぶのをやめた。
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