勇者キラーのアラビス様 

不動のねこ

第1話 勇者キラー

血に染まる戦場に一人の小さな魔王がいました。魔王の名は「アラビス」この物語はチート級の強さを持つ魔王の物語です。

 ――――――

 俺は、魔王だ。名前は、アラビスと言う。今年で15歳になる。俺のいる国は、平和な国だった。だが、ある日突然勇者が攻めてきたのだ。最初は、こちらの国も抵抗していたが圧倒的な戦力差によりあっという間に占領されてしまった。今はもう、王都といくつかの街しか残っていないだろう。そして、今日は魔王である父さんから命令された最後の仕事がある日なのだ。それは、勇者を殺すこと。

 正直言って怖い。でも、やらなければ家族が殺されるかもしれないし、俺だって殺されてしまう。だからやるしかないんだ。そう自分に言い聞かせて覚悟を決める。そして、勇者が居る場所に向かうために転移魔法を使う準備をする。まず、自分の魔力を全開にして体に纏わせる。

「うぅ……やっぱりきついなぁ……」

 全身に激痛が走るが我慢する。すると、体が少しずつ薄くなっていく。これが、魔力による身体強化だ。これをしないととてもじゃないけど動けないほど体中が悲鳴を上げるからだ。これで、準備完了だ。次は転移魔法。

「我が身よ、我の思いに応えよ。テレポート!」

 呪文を唱えると同時に視界が真っ白になる。眩しい……。光が収まる頃には目の前には大きな城があった。どうやら成功したようだ。周りを見渡すと城下町が広がっている。

 さすがに人の姿はない。まあ、当たり前か。こんな状況じゃ外に出ようなんて思わないよね。とりあえず、城の門まで歩いていく。城門の前には見張りの騎士らしき人が立っていた。

 俺は騎士に近づくと話しかける。

 騎士A)おい!お前何者だ?

「ここへえっと、ここにいるはずの勇者を殺しに来たんだけど?」

 騎士B)ふざけるな!ここは今封鎖されているんだぞ!勝手に入ったら処刑されるぞ!!

「いや、本当なんだって。ほらこれ見てよ」

 そう言うと俺はステータスプレートを見せる。

「これは、ステータスプレート」と言って自分がどのくらい強いのか確認するための道具らしい。ちなみに俺の父さんはこの国の王様なので当然持っている。

 騎士C)確かに本物の様ですね……わかりました。通してあげましょう。

 騎士A・B)隊長!?いいんですか!?

 騎士C)ああ、

「ありがとうございます!!」

 俺はお礼を言うと急いで城内に入る。そして、玉座の間を目指す。道中にいた人達はみんな死んだような目をしている。そりゃそうだよね……。そんな事を考えながら歩いていると、ついに目的の場所にたどり着いた。そこには扉があって中にはたくさんの兵士がいる。その兵士達の中に一際目立つ鎧を着た男が居た。おそらくあれが勇者なんだろう。俺は勇者の前に立つと話しかける。

 アラビス)あのーすいません。ちょっと話したいことがあるのですがよろしいでしょうか? 勇者(?))んっ?なんだ貴様は?見たところ人間のようだが何故ここに居る?

 アラビス)私は、貴方達人間を滅ぼすためにやってきた魔王の息子です。

 勇者(?))ほう、それは面白い冗談だな。この私を倒すだと?笑わせてくれるわ!

 勇者は剣を抜いてこちらに向かってくる。まずいな……早く殺さないと他の兵士がこっちに来るかもしれない。

 勇者が近づいてきた瞬間、一気に距離を詰めて腹に拳を入れる。勇者は吹き飛んで壁に激突する。

 勇者(?))ぐふぉ……ばかな……」

 勇者が何か言っているが無視をして今度は顔面に蹴りを入れてそのまま地面に叩きつける。さらに追い打ちをかけるようにかかとおとしを食らわせる。そして最後に空中に飛び上がってから急降下して踏み潰す。すると、グシャッという音が聞こえてきた。どうやら潰れてしまったみたいだ。念のため首を切り落として完全に殺す。よし終わった。これでやっと家族の元へ行ける。俺は早速転移魔法で家に帰ることにした。

 ―――――

 家に帰ってきたのだが誰もいない。まさかと思い急いで父さんの寝室に行くと母さんが倒れていた。

 俺は慌てて駆け寄る。大丈夫だろうか?返事がないただの屍のようだ。嘘でしょ……父さんも死んでしまったの……?そんな事を考えていると突然声をかけられた。

 神)やあ、こんにちは。僕は君たちの世界で言うところの神だよ。

 アラビス)誰だ?

 神)だから僕の名前は神様だって言っているじゃないか。それより君は父親を殺されちゃったんだね。かわいそうに……

 アラビス)父さんを殺したのはお前なのか?

 神)違うよ。勇者に殺されたんだよ。でも、安心して。君の父親はちゃんと生き返らせてあげるよ。

 アラビス)本当か!?

 神)うん。本当だよ。だから僕のお願いを聞いてくれないかい?

 アラビス)わかった。何をすればいいんだ?

 神)それはね……魔王になって欲しいんだ。

 アラビス)えっ!?

 神)だから、魔王になr

 アラビス)いや、待てよ!どうして俺が魔王にならないとダメなんだ!?

 神)実は、今この国は勇者に支配されているんだけどこのままじゃ大変なことになるかもしれないんだ。

 アラビス)大変ってどういうことだ?

 神)このままだと、勇者がこの国を支配してしまうということさ。そうなると、今まで以上に酷い政治が行われると思うよ。それこそ、奴隷や人身売買とか。

 アラビス)うぅ……。でも、何でそれがわかるんだ?

 神)だって僕は神様だもん。

 アラビス)あっ、そうだった

 神)それで、どうかな?引き受けてくれないか?

 アラビス)……。

 俺は少し考える。確かに、このままでは国が滅びる。だが、勇者が憎くて仕方ない。あいつのせいで、俺の家族が死んだのだ。それに、俺は復讐のために勇者を殺すためにここに来たんだならば答えは決まっている。

 アラビス)ああ、いいぜ!俺は魔王になる!

 神)本当か!?ありがとう!! こうして俺は魔王になった。それからは、色々あった。まず、最初にやったことは、勇者の死体を処分することだ。

 俺は、まず死体を燃やしてから土の中に埋めた。その後、国民を集めて演説をした。内容はこうだ。

「私は、魔王である。名前は、アラビスと言う。今年で15歳になる。私のいる国は、平和な国だった。だが、ある日突然勇者が攻めてきたのだ。最初は、こちらの国も反撃しようとした。しかし、圧倒的な力の差がありすぐに負けた。私は、何とか命だけは助かった。だけど、私以外の人は全員殺された。

 そして、奴らは私を人質にした。要求された事は、私の妻子供と財産を全て差し出せというものだった。

 もちろん、私達は断った。そしたら、私だけを残して皆殺しにされてしまった。私には、何もできなかった。ただ、見ていることしか出来なかった。そして、そのまま城に連れていかれて牢屋に閉じ込められた。

 そのあとは、毎日のように拷問を受けた。痛めつけられ、傷だらけになり、血を流した。何度も死のうと思った。それでも、私が死ぬことはなかった。なぜなら、あの勇者が裏で手を引いていたからだ。

 勇者は、言った。

『もしも、お前が死ねば妻と娘は殺される』と。私は、どうすることも出来ずに日々を過ごした。

 そんな時、ある男が現れた。その男は、黒いローブを着ていてフードを被っていたため顔が見えなかった。

 私に話しかけて来た時は驚いたものだ。なにせ、急に目の前に現れたのだからな。

 その男が言うに、自分は異世界から来たらしい。

 信じられなかったが、実際目にしているから信じるしかなかった。

 そして、彼は言った。私に力を授けようと。

 その時は半信半疑だったが、結局彼を信じることにした。そして、私は彼の仲間となった。

 そして、勇者を倒しこの国の王となることができた。

 今は、幸せな生活を送れている。

 もし、彼が来なければ私はずっと暗い気持ちのまま過ごしていただろうだから、感謝してもしきれないほどだ。

 最後に、ここに集まってくれた皆に伝えておくことがある。

 勇者がまた攻めてくるかもしれない。だから、これから先は常に警戒しておくように。以上だ」

 そう言って俺は話を締めくくる。すると、拍手喝采が起きた。どうやら、上手くいったようだ。

 すると、一人の男性が質問してきた。

 男性)王様!勇者様を倒すのですか?

 アラビス)いや、倒すつもりはない。

 女性)えっ!?どうしてですか?

 アラビス)勇者は、悪いことをしていない。

 少女)でも、お父様を殺したのですよ!

 アラビス)それは違うぞ。

 少年)えっ?

 アラビス)勇者は、この国を支配しようとしていたのだ。

 国王)そうだ。勇者は、この国を支配しようとした。だから、殺したのだ。

 男性)そうだったんですね。

 国王)だが、安心しろ。勇者はもういないからな。

 国民)おおー!

 国王)では、今日は解散とする。

 そうして、国民は解散した。ちなみに、俺の正体は魔王だということは秘密にしている。理由は、魔王が勇者を倒したと知られると面倒なことになりかねないからである。だから、正体を隠しているのだ。

 その後、俺は勇者の死体を埋めたところに行った。そこには、まだ誰もいなかった。まあ、当然か。勇者の死体なんて見たと俺は、勇者の死体を埋めると墓を作った。

 俺は、勇者の墓の前で誓った。必ずこの国を守ってみせると。

 それから、俺は勇者が来るまでひたすら魔法の練習をしていた。

 ――

 勇者が来てから約1ヶ月が経った。勇者はまだこの国にいる。だが、勇者が来たことで分かった。それは、この国には魔法を使える人がかなり少ないということだ。おそらく、全体の半分くらいだと思う。つまり、それだけ勇者が強いということだ。

 さらに、俺は調べていくうちにわかったことがあった。それは、勇者は剣を使って戦うということだった。

 そこで俺は考えた。もしかしたら、勝てるのではないか? だが、油断はできない。なにせ相手は勇者なのだからな。

 だが、いつまでも引きこもっているわけにはいかない。なので、俺は勇者と戦うことにした。

 アラビス)よし、行くか! 俺は、勇者がいる場所に向かった。

 勇者がいた場所は、城の中だった。

 なぜこんなところにいたかというと、俺が魔王だということがわかった瞬間、すぐに城に攻めてきたからだ。

 俺は急いで向かった。すると、勇者が待ち構えていた。

 勇者)やっと来たか。

 アラビス)ああ、待たせたな。

 勇者)それで、何しに来たんだ?

 アラビス)ああ、お前を殺しに来たんだよ。

 勇者)ほう、面白い。なら、勝負しようじゃないか。

 アラビス)いいぜ。ただし、ルールを決めよう。

 勇者)いいだろう。どんな内容だ?

 アラビス)まず、どちらかが死んだ時点で終わりにする。そして、勝敗は相手を戦闘不能にするか、降参させたら勝ちだ。

 勇者)なるほど。だが、一つだけ言わせてくれ。

 アラビス)なんだ?

 勇者)俺は、お前を殺すつもりでいくから覚悟してくれよ?

 アラビス)はははははは!そんなことできるのか?

 勇者)やってやるさ! こうして、戦いが始まった。

 勇者)早速、行かせてもらう! そう言うと、勇者は一瞬で距離を詰めてきた。速い!それに、動きが読みづらい!

 勇者)オラァ!!

 アラビス)ぐっ!? なんとかガードできたが、凄い威力だ。これじゃあ攻撃する暇がないな。仕方ない。少し本気を出すか。

 俺は、魔力を解放すると同時に身体強化の魔法を使った。これで準備完了だ。

 それを見た勇者は笑みを浮かべた。どうやら、俺が何か仕掛けてくるのに気づいたようだ。

 勇者)何をしようとしているかは知らないが、無駄なことだよ! そう言って、再び攻撃を仕掛けてくる。だが、俺はそれを余裕を持って避ける。

 そして、すれ違いざまに腹パンをした。

 勇者)グハッ! どうやら効いたようだ。だが、それでも勇者は諦めなかった。今度は後ろから斬りかかってきた。

 俺は振り向きながら避けて、カウンターを決める。

 勇者)ガハ! 今度こそ決まった。かなりのダメージが入ったはずだ。

 勇者)くそぉ!まだまだぁ!!!! そう言って向かってくるが、スピードが落ちているな。もうフラフラではないか。これ以上やると殺してしまうかもしれないな。

 よし、終わらせるか!俺はそう決めると一気に決めにかかる。

 勇者が近づいてくるのに合わせて顔面を殴る。もちろん手加減してだ勇者)ガッ!クッ……! 勇者は倒れそうになるのを必死に耐えようとする。

 俺は追い打ちをかけるように蹴りを入れる。

 勇者)うっ! 勇者は壁に激突した。

 勇者)クソォ……。

 どうやら意識を失ったようだ。

 まあ、あれだけのダメージを受ければ無理もないな。

 とりあえず終わったようだし、早く戻るとするかな。

 そうして、俺は勇者を置いて部屋に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る