本屋

404

 

 歩く。本屋を見る。また、歩く。また、本屋を見る。再び歩く。再び本屋を見る。こんなことをして、既に二時間以上が経っている。

 何故こんなことをしているのか。それは、今日が、僕のデビュー作が店頭に初めて並ぶ日だからだ。そのため、僕は棚に入った僕の本が手に取られるのは今か、今かとそわそわし、また、ついに、誰にも買われないのではないかと焦り、こんな行動をとっている。

 このままでは、僕の本が売れるよりも、僕が警察のお世話になるまでの方が早くなる気がしてきた。


          *


 僕は学生時代から小説を書いてきた。純文学、推理小説、恋愛小説やSFなど、思いつくものは全て書いた。しかし、その頃書いたものは出来が悪く、、、と、言いたいところだが、その中には一つの駄作もなく、全てが完璧なのだ。正直に言うと、今回のデビュー作よりも優れた作品がごまんと存在している。

 先ほど言ったように、僕の過去の小説たちは、完璧で、駄文がないのだが、強いて最も優れている点を挙げるとするならば、どの小説も"書き出し"が素晴らしいのだ。

 書き出し。それは、小説を読む人が最初に見る文である。言うなれば、小説の顔だ。こんなことを言うと、「小説の顔は題名だろう。」と、言われそうなものだが、そんなものは嘘っパチの大間違いだ。題名などで小説の顔が割れてたまるものか。あんなものは誰も仕様が無いからつけているのだ。管理できるのならば、僕は数字でも構わない。

 話が逸れた。僕がしたいのは、僕の小説の書き出しが素晴らしいと言う話だ。百聞は一見に如かず。ここで、皆様に僕の数多の小説から特に優れている作品の書き出しを三つほど紹介しよう。


『明日』 

「拝啓、僕が殺したあなたへ。」


『遺言』 

「アレは、私の三回忌でありました。」


『悪魔』

「二月下旬、悪魔が僕の顔を掴む。」


          *


 はて、もともと何の話をしていたか。ああ!僕は本屋の前だった!

 そして棚を見ると僕の本が姿を消している。

 ああ!売れたのだ!僕はそのとき、心からの喜びを得た。

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本屋 404 @sumino231

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