妄想男子
あきカン
第1話
自慢じゃないけれど、これまで生きてきて人並み以上にはモテてきたと思う。
当然、色々な男性に出会った。真面目な人から少しちゃらんぽらんな人まで、人は見た目には寄らないことを思い知らされた。
その中でも、結婚を考えるほど心から好きになった男性は一人しかいない。
彼は世間一般に見てもイケメンで、身長も高く、性格も良かった。表情があまり変わらないのも、ミステリアスさがあってむしろポイントが高い。
デートも何回かした。デートプランはいつも彼が用意してくれて、その時はいつも奢ってくれる。
唯一欠点があるとすれば、彼はほとんど笑わない。一緒にテレビを見ていても、私が笑っている横で私を見て微笑むだけだった。
だけど彼と過ごす時間は何者にも換えがたい私の宝物だった。
ある時、デートの予定が合わなくなり落ち込んだ気分を持ち上げるためにラジオを付けた。
初めて聞く番組だったがこれが意外と面白かった。
視聴者が自分の妄想体験を発表するコーナーは、下品でハイセンスな大喜利大会のような楽しさがあった。
しかし途中に読まれたある投稿から、私は違和感を抱き始めた。
『RN : 闇の帝王さん――。
渋谷ハチ公前で軍服を来て待ち合わせをしている俺。突然、「だーれだ」と両目を塞がれて振り返ると、そこには同じく軍服を来た橋本環奈ちゃんの姿が。
「10分遅刻だ。罰として腕立て伏せ」
と腕組みしたあと。ふて腐れながら手を地面につける彼女を眺めながら
「連帯責任だからな」
と一緒に汗を流したい・・・ぷくく』
思いもよらないオチにMCも笑いを堪えられないよう様子だった。
しばらくして、
『RN : 闇の帝王さん――。二回目ですね。
サバゲーの名スポットへとやってきた俺。スナイパー用の銃を構えていると、
隣で黙々と射撃練習をする広瀬すずちゃんを発見し、
「構え方が素人」と先輩風を吹かせながらコーチを申し出た。
まったく上達しないまま本番を迎えた開始数秒、俺のスコープが敵の腹部を視界に捉えた次の瞬間、敵が倒れ込みチンコをおさえて悶えだした。
「まさか・・・」と俺が彼女の方に振り返ると
「わあ、当たった当たったあー!」
と満面の笑みで喜ぶ彼女を見ながら
「う、うん。そだねー!」
そっと股間をさすりたい――。
あいたー! 痛い、痛いよこれは。見てるだけで痛い!』
MCはまるで見てきたかのようなリアクションを取った。
またしばらくして
『RN : 闇の帝王――。これは・・』
開始から噴き出しそうになるのを必死に堪えて読み上げる
『俺の家でたこ焼きパーティをすることになり俺は浜辺美波を呼び出した。
彼女はレジ袋の他に怪しいタッパーを開けると中には黒く短い毛がずらり。
「これなに?」と訪ねると美波は
「陰毛」と答えた。「お父さんの」
「なあーんだお父さんのかぁ」と納得する俺を見て、ズボンに手を突っ込んだ。
そして縮れた毛を一本抜き出しタッパーの中に入れ一本ずつたこ焼きの生地に混ぜ始める
そして出来上がったたこ焼き前に、彼女は満面の笑みで「さあ、本物はどれかな? 当ててみて」と言ったので
とりあえず全部食べたが、味は大して変わらなかった。
するとその数分後、突然腹痛に襲われて救急車を呼ばれた俺は、
「食中毒です。一体なにを食べたんですか?」と同乗していた医者に聞かれ
「い、いんも・・・あ、いやひじきです。海藻アレルギーなんで」
とごまかしたい――。
ッ、天才です、天才が現れました!』
ゲストも交えて拍手大喝采。三連続のヒットに沸き上がるスタジオの空気がイヤホン越しに伝わってきた。
確信を持った私。スマホを取り出し知り合いに頼んで探してもらった彼の裏アカを確認する。
そして家を飛び出し、深夜の道路を全力疾走でダッシュした。
闇の帝王・・・彼、中二病だったんだ!
思わず涙が溢れた。
そして彼の家に着くと、すぐさまインターホンを押し、出てきた彼を問い詰めた。
「さっきラジオ聴いてたんだけど、闇の帝王って、あなたの裏アカだよね?」
強気に訪ねると彼は小さく頷いた。それを知った私は彼の両腕を掴んだ。
「最高に面白かった! そうだ、私たち結婚しよ!」
と、言ってくれる女に出会いたい。
妄想男子 あきカン @sasurainootome
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます