水たまりの世界で出会った君へ

ruy_sino

第1話 初めまして

ザァー

傘を刺しながら大雨の中足を動かす。

カタ…カタ…カタ

一定のリズムを刻みながら一歩また一歩と歩いていく。

 そうして歩いて学校へと着いた。

    都立江南高等学校

進学校として有名な高校でここに入れば将来は安泰などと言われている。

 勉強は言わずもがな出来るものが集まる。

そしてスポーツに関しても強豪校として君臨している。

バレー、サッカー、野球、卓球、水泳…

全ての部活で全国大会で1桁の順位を取っている。

その為スポーツ推薦という枠も存在しており、年々スポーツ推薦を狙い来る子が多くなっているそうだ。

 

「はぁ…教室入るのやだなぁ…」

右腕にある腕時計を見る。

 9時30分

一限目はもうとっくに始まっている時間だ。

 今日も少し朝から体調がすぐれない為遅れた。

下駄箱で濡れた靴下をビニール袋に入れバックから新しい靴下を取り出し、冷たい床に素足を乗せ靴下を変える。

校内靴に変え校舎内を歩く。

 校舎内は綺麗で教室も綺麗と新しく出来た高校と同じ程綺麗になっている。

この高校は今年で30周年を迎えるんだとか

 階段を登り3階まで上がっていく。

「ゲッホ…ゲッホ…ハァ…ガッハ…ハァ…ハァ」

咳をしながらも歩いていく…

「いつもよりキツイなぁー」

3階に着き廊下を歩く。

 「スゥ…ハァ…そんなに緊張しなくてもどうせ変わらないだろ?」

自分にそう言い聞かせて教室のドアを引く

ガラガラ…

ゆっくりと引いていく。

やっぱりこと音は嫌いだ。皆んながこっちを向くから…そして退屈な時間が始まるから。

「おう…来たか…成瀬」

「…はい…」

耳を澄ます…

「えぇ…来たの?」

「休みだと思ったのにチッ…」


はぁ…いつもと同じだ…心の中で呟き座席へと向かっていく。

 俺は、このクラスメイト達に好かれていないらしい。

一番窓側の席に座り窓から外の景色を眺め授業を聞く…皆んなは、俺に嫌な目線を向けるが全部無視をする。

最初はもちろん嫌だったがそんな事はも、もう慣れた…いや慣れたというより自分から閉ざしたに近いだろうな。


 そんな事をしながら退屈な授業と目線を無視し続け昼休みになった。

ガタ…

椅子を引き廊下へ出る。

弁当は持ってきていない…持ってきても食べる友人も居ないし、飯が不味くなるだけだ。

 廊下を歩きながら落ち着く場所を探す…

「今日は屋上使えないしなぁ…はぁ…図書室で時間でも潰すか。」

雨の日は基本的に図書室へと行き時間を潰す。逆に、晴れの日は屋上で景色を見たりとして教室から去る。

 ガラガラ…

図書室のドアを引く

 本はあまり好きじゃないが、本を読んでもいないと気が狂いそうだからだ。

「あら…貴方が来るなんて珍しいですね。」

「今日は雨が降ってるからだ。お前もアイツらと同じだろ?俺なんかに話しかけてくるな」

「いえ…そんなつもりで話したわけじゃなくて…」

「はぁ…そうかよ。」

名前も知らぬ図書委員とのやりとりを終え本を探す。

    水たまりの世界

一つの作品に手が止まった。

椅子に座り軽く本を読む。

 

水たまりを見ると反転した世界が映し出されている。反転した世界は、私達がいる世界と同じなのか…もしかしたら見た目だけが反転してそれ以外は、今我々がいる世界と変わらないかもしれない。いや…そもそもそこに人はいないと私は考える。

 

パタ…

「ふッ…水たまりの世界なんてもんがあればそこに行って消えたいもんだな。…でもこの体は変えられないか…」

そんな淡い願望と絶望を声に出して本を元にあった場所へと返す。

 時計を見れば昼休みは終わりになって5限目が始まろうとしていた。

 「まぁ…時間は潰せたしいいか…」


教室へ戻り5限、6限と授業を受けた。

 「…!」

窓を見ると雨雲はどこかに消え去り太陽の日差しが街を覆っていた。

 こんな教室にもう用はない為さっさと帰る支度を済ませて退屈な教室を後にした。

 「朝は寒かったのに今度は暑いのかよ。」

日差しは輝きを増し更に暑くさせる。朝降った雨はなかったかのように湿った地面がカラカラの地面へと変わっていた。

心なしか車も朝より速度を出して道路を駆け抜けていた。

 「…あ」

ビルとビルの影に隠れていた水たまり。

俺は無意識に水たまりへと歩いていた。

バシャ…

水たまりを踏みつけた。

「ハハハ…見ろよ何も変わらねぇじゃん。何期待してんだよ俺…逃げる場所なんてないの知ってるくせに…」

 そうして、太陽の光が届く場所へと戻った時だった。

     違和感に気がついたのは


「…⁉︎」

先程まで車の走る音とエンジン音が無数に聞こえていたのに突如として聞こえなくなっていた。

いや…そもそも道路に車が無い‼︎

偶然なのか?

いや、それにしてはおかしい下校する生徒も一人として見当たらない…人がいない。

「あーあー」

どうやら自分の声や歩く音は聞こえる。

“音“は聞こえるらしい

その事に安堵しつつ状況を一つ一つ整理していった。


車も人もいない。だが建物はそのまま…太陽はある…⁉︎

「鳥が飛んでない?」

という事は、動物もいない…俺1人の世界…‼︎

その時瞬間的に脳裏にある言葉が浮かんだ…

    『水たまりの世界』

 まさか…本当に?

静寂に静まり返った世界を名付けるにピッタリな言葉だった。

 だが…どうしていきなり、水たまりの世界なんかに…?踏んづけた時に何かが起きた?

そもそも見た瞬間に引き摺り込まれたのか?

 いや…今はそんな事考えないで後回しにしよう。

車のエンジン音、話し声、自分以外何もかもが存在しない世界を堪能しようではないか。

「誰もいないってこんなにも気持ちいいなんてな。」

歩きながらビルまみれの都会を歩いていく。

 静かになった世界…自分にはこの世界が丁度いいらしい。

 そうして、行くあても目的もないまま歩き続けていた。

「…!?」

通学時に使う電車の駅に着いた時だった…

ポツンと一人の女の子がいたんだ。

それも俺と同い年ぐらいで…何より同じ制服を着ていた……







〜あとがき〜

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