0-E 勇者の剣を探せば

「がはっ!!」


目が覚める。飛び起きて、何かに頭をぶつける。


「いててて...」


いててて...と言ったのは、俺じゃない。

聞き覚えのある声だった。


声のする方を向くと、見覚えのあるローブの女の子だった。

ネコニス様だ。


「俺...死んじゃったのか...」


「...うん」

「まあドンマイドンマイ、次があるよ」


俺の気持ちを察してくれているのかちょっとローテンション気味にうなづくネコニス様とは別に、軽いノリの女の声が聞こえた。


声の方向を向くと、やたら胸の大きなエルフの女の人がいた。

彼女は俺をじっと見ると「ふーん...」と残念そうに言った。


初対面なのに失礼な。


「初対面なのに失礼な。って思ったでしょ。」


「えっ...」


「まあ、これからは気をつけることだね、少年。...それじゃあ」


そう言ってエルフは去っていった。


.....。


わずかに沈黙が流れる。


「あ、あの、残念...でしたね。」

「ああ...」


そうだ。せっかくまた命をもらったのに、2日も経たずに俺は死んじゃったんだ。

それもお世話になった...じゃない、オオカミたちを巻き込んで。


「ネコニス様、ごめんなさい...せっかく転生させていただいたのにこんなことになってしまって...」


「...」


ネコニス様は黙って下を向いていた。

俺を気遣うように振る舞っているが、本当は怒っているに違いない。


そう思ったらなんだかまたさらに気分が落ち込んできた。

そんな時、ネコニス様がいきなり大きな声を出した。


「あの!」


「わっ...」


「実は...あと3回、チャンスありますよ...?」


「え...」


「もう一度、あの世界パローナツに行きたいですか?」


チャンスがあるなら、もう一度行って...もう一度行って、俺は何ができるだろう。


「あの怪人ウサギ男、倒したくないですか?」


衝撃的な一言だった。

倒したい。確かにそうかもしれない。

あのウサギ人間に、復讐したいと、そういう気持ちが全くないかと言われてみれば、ある。

だけど、そんなことできるのだろうか。


「倒せるわけない...そう思ってますね。でも勇者の剣なら...

300年前に魔王を倒し、世界の悪を封印した勇者の電聖剣スマトラフォならきっと。」


「どこにあるんです?その剣は。」


「それはあなたが見つけてください」


即答された。

俺は今『ネコニス様にキツいツッコミを入れられたシーンだ、コントみたいだ』と軽い気分でいた。


「もしも...


彼女が口を開いた時、突然空気が張り詰めた。


「もしも、死んだと思っていた相手ともう一度会えるとしたら...あなたは、どうしますか?」

ネコニス様は、笑っているような、悲しんでいるような、俺には理解できない表情をした。


「もう二度と会えないと思っていた誰かともう一度会えるとしたら、

いくら話しかけてももう二度と返事が返ってこないと思っていた誰かと、もう一度言葉を交わすことができるとしたら...あなたはどうしますか?」


「...!それは...どういう...?」


目が合うと、彼女は急いで後ろを向いた。

指をぶんぶん振り回しながら、いつもの神様ぶろうとしている明るい口調に戻って言った。


「伝説にはこんな一節もあります。勇者の剣手にしもの、かつて別れし者たちと出会わん。

賢いあなたなら、これ以上は言わなくてもわかるはずです」


振り返って、俺の口を人差し指で塞いだ。


「...」


そういうことなのか。

勇者の剣があれば、タウロやモーバ、それにパーパたちが生き返らせようとしていたマミアも生き返らせることができる...そういうことなのか。


「また転生する、決心はつきましたか?」


「...はい!俺、勇者の剣を探します!そして...打倒怪人ウサギ男。それが俺の次の目標です!」


「...よかった!では、転生の準備を始めますね!」


そう言ってネコニス様は杖を地面にトンと叩きつけ、転生装置を出した。


ーーー


「本当にこの格好じゃなきゃだめなんですか...?」


「もっ!もちろん!この格好がいい...じゃなくて!そうじゃなきゃだめです!」


俺はなぜか、おむつを履いてベッドに寝かされていた。

前回はこんなことしなかったはずだが...


「さっきのエルフの人...あの人の能力をあなたに与えます。

でも心が読める機能そのままじゃなくて、あなたでも使えるように適合化した能力になりますが...

か、簡単にいうとメッセージ機能です!

あなたの言いたいことを他の誰かに伝えられるようにします!」


「それは嬉しいです」


「前回は不便だったんじゃないですか?」


「ちょっとだけ。でもそれ最初からできなかったんですか?」


「...」


ネコニスさまの表情が強張った。まずいことを言ったみたいだ。


「あの、いえ、とても嬉しいです!ありがとうございます!」


「はは、いえいえ!...」


そうして会話が途切れて、ネコニスさまは作業に集中してしまった。


...。


「...あの!」

気に食わないが、仕方ないので聞いてみる。


「?」


「勇者って、どんな人だったんですか...?」


「...」

ネコニス様は少し黙った。また地雷を踏んでしまったと思ったが、すぐに答えた。


「優しい人でしたよ」

また彼女は悲しそうに微笑んでみせた。


「...そうですか」

シンプルで、チープさすら感じさせる言葉なのに、何故か心が締め付けられる。


準備ができたみたいだ。

意識がふわふわとしてきた。


「チャンスは3回あるって言いましたけど-」


「?」


「あんまり死なないでくださいね」


そう言って、ネコニス様は俺の頬にキスをした、気がする。

たぶん、俺の気のせいだと...思う。


-序章『転生者の回生』完

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